授業評価アンケートにおける目的変数はⅦ学習効果です。どれだけの生徒が「授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる」と答えるようになったかは、授業改善の進み具合を端的に示す指標です。
Ⅶ学習効果の集計値が前回より大きなものになっていれば、学びに対する生徒の自己効力感を高められたと考えられます。「より良い授業」にまた一歩近づけたということではないでしょうか。
しかしながら、Ⅶ学習効果の前回比較がプラスの値(下のサンプルでは+4.1)になっていても、Ⅷ難易度が下がっていたら要注意です。
2023/01/12 公開の記事をアップデートしました。
❏ 難易度を不用意に下げては、問題を先送りするだけ
ハードル(教材や課題の難易度、目標水準)を下げ過ぎたことで、生徒を「わかった/できた気」にさせてしまっただけかもしれません。
当座は、不明を残さずに単元内容をひと通り学び終えることができたとしても、次のステージに学びが進んだときの綻びが懸念されます。
卒業までに到達させたい水準は変わらないはずですので、ある時期に負荷を抑え過ぎると、後のどこかで大きな段差が待つことになります。
また、難しい内容を前に、必死に考え、自分で調べたり、人に訊いたりして不明を解消していく中で獲得を図っていくべき学習方策も、楽々と超えられるハードルばかりでは、その獲得機会を持てなくなります。
前回は「適正範囲」(一般には{+2.0≦Ⅷ難易度≦+2.5})に収まっていただけに残念。到達を目指させる水準を引き下げるのではなく、「確かな伝達」を実現することで「わかりにくさ」を解消すべきでした。
❏ 指示や説明のわかりにくさで、難易度が跳ね上がる
教材や課題の難易度を生徒がどう感じるかは、指示と説明のわかりやすさなどからの影響を受けるのは容易に想像できると思います。
指示と説明がわかりにくくなったり、板書が徹底されなくなって前段の理解を固められなくなれば、それまでに身に付けていた学習方策だけで対応できない部分が広がり、「難しい」と感じるようになります。
また、学習目標(本時の授業で何を目指すか)への認識が曖昧になったときも、個々の説明を目標に結び付けて理解できなくなり、頭の中でまとめ上げられないことで難易度が上がったように感じます。
下図のサンプルはその典型です。弱点であったⅥ対話協働の改善を図ろうとする中で、確かな伝達に意識が向かなくなったのかもしれません。
❏ しっかり負荷を掛けられる状態の創出と維持にも注力
繰り返しになりますが、説明や指示のわかりにくさは、課題解決や対話協働といった学習活動に取り組むための土台をぐらつかせます。
知識の獲得や理解の形成にモタついていては、学習活動に割り当てる時間も減るばかり。仕上げきれないことが常態化してしまうかも。こんな状態では、Ⅶ学習効果が低下するのも当然のことかと思います。
また、到達目標を明確に捉えないと、学習活動に取り組んでも的確な振り返りができず、「何をどう学んでいくべきか」を見出すことができなくなり、結果的にメタ認知・適応的学習力の獲得も遅れていきます。
上のサンプルでⅨ学習方策が低下しているのは、そうしたメカニズムによって後退(マイナス方向への変化)が生じたということでしょう。
手応えのない学びを続けていたら、「その科目を学ぶことへの自分の理由(Ⅹ目的意識)」も曖昧になってくるのは半ば当然の帰結かと…。
学習方策や目的意識に応じた負荷をしっかり掛けることは、学びをより充実したものにする上で欠かせませんが、ⅨやⅩの低下を招くようなことが重なると、しっかりとした負荷を掛けられなくなります。
下表(意識姿勢と難易度のクロス集計に、Ⅶ学習効果の平均値を組み込んだもの)は、学習方策や目的意識に不足を残す(=苦手意識を抱えている)生徒は、難易度の上昇に対応できないことを示します。
授業者の伝達スキル(Ⅰ~Ⅲ:板書や指示、理解確認)やⅣ目標理解の不足を起点に、こうした「負のスパイラル(悪循環)」が生じては一大事です。これらの項目にも注意を向け、しっかり負荷を掛けられる状態にあるかどうかを常に点検し、その創出・維持に注力しましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一