生徒意識調査の質問7【相談相手】(困ったことや悩みがあるとき、信頼して相談できる相手がいる)で肯定的な回答を選べていない生徒は、トラブルに陥った時に事態を悪化させていくリスクや、周囲から受けたせっかくの刺激も上手に消化できないなどの不利を抱えます。
如上の質問に対して、しっかりYESで答えた生徒以外には、何らかの対処、少なくとも「より詳しい状況の把握」が必要だと思います。
❏ 但し書きなしの「積極的肯定」が占める割合は…
直近実施の回答データ(n=46,936)をもとに、如上の質問に「どちらかと言えば」という但し書きのつかない「積極的な肯定」を選んで答えた生徒の割合をクラスごとに調べてみると下図の結果になりました。
全体の中央値は93%と高いものの、分布の尾は長く、下方のひげに含まれる「全体の4分の1ほどのクラス」では、1割以上の生徒が「C=どちらかと言えばそう思う」以下の回答しか選べていないことになります。
回答用紙(マークシート)には、記名欄(無記名での実施も可能)がありますので、回収したマークシートをめくって、該当箇所で「C以下」にマークがある用紙を抽出するだけで、該当者が割り出せます。
該当の生徒とは、どこかで話をしてみる必要がありますが、何と言っても「信頼できる相手がいない」と答えた生徒ですので、生徒が身構えて素直なところが聞けなくならないように注意したいところです。
蛇足ながら、グラフには学年が上がるほど箱の位置が上昇していく様子も見て取れます。成長により周囲との関係作りが進んだり、相談できる相手かどうかの見極めができるようになったりするためでしょうか。
❏ YESを選べなかった生徒の状況を詳しく知る
生徒意識調査のアンケートでは「場面を限定せず」に、信頼できる相談相手の有無を尋ねていますが、相談の内容によっては「信頼して/構えずに相談できる相手」がいるかもしれません。
質問文を前に、直近に経験した特定の場面しか頭に思い浮かばないこともあるでしょう。相談できる相手がいなかったときの印象が先に立ち、そのまま否定的な答えを選んでしまうということも十分にあり得ます。
勉強のことでも、ある特定の科目だけは助けを求める相手が見当たらない(担当の先生と折り合いが悪い?)としても、ほかの科目では気軽に質問できる先生がいるかもしれません。
生活や進路のことでも同様でしょう。保護者との間でも、普段は素直に話せるのに、進路のことが絡むと、過去の体験(以前に相談したときに口論になったなど)から相談を躊躇い、NOで答えているかも。
こうした状況を想定すると、対処(=先生が重点的に悩みを聞き、寄り添う)が必要な部分を特定するには、相談内容(ジャンル)ごとに状況を訊いてみる必要があろうかと思います。
生活、学習、進路の各領域をさらに場面(人間関係でもホームルームの場合と部活動の場合とでは対処も異なります)を分けた上で、悩みの有無や深刻度と、相談できる相手がいるかどうかを尋ねてみましょう。
追加のアンケートフォームを用意し、面談の前に記入してもらう「門診票」のような運用をするのも可能でしょうし、それとは気づかせないように注意しながら、対話の中で探っていくこともできるはずです。
❏ 相談ができないのは、悩みを言語化できないから
如上の調査を行ってみた結果、悩みを抱えているところで相談相手がいないという「わかりやすいズレ」であれば、先生がじっくりと話を聴いたり、専門家に繋いだりで対処ができますが、本人が悩みの正体を掴んでおらず、言語化もできないというケースも少なくありません。
これでは、「誰に」の前に「どう」相談を持ち掛けて良いかわからず、結果的に悩みを抱えたままにしてしまうことが十分に予想できます。
上手に相談できることは、正しい選択を行う可能性を高めるのに不可欠です。逆に言えば、相談できる相手がいないのも、悩みを言語化できずにいるのも、適切な選択を妨げるリスクに他ならないことになります。
悩みの正体を探り、言語化していく中で、生徒は自分のことをより良く知り、適切な選択に迎えるようになっていくはずです。生徒の言葉にしっかりと耳を傾けながら、生徒が自分のうちにあるものと向き合えるよう、適切な問いを重ねていきましょう。
生徒一人ひとりにきちんと向き合い、悩みや喜びを共有したいと思っても、多忙な校務をこなし、多くの生徒同時に観る中で、なかなか容易なことではありません。観察とケアの焦点を正しく定めるには、生徒の状況を(まずは浅くとも)広く、効率的に知るところかと思います。
アンケートなどでの「概観的把握」と、面談などを通した「個に応じた対応」をバランスよく整えたいところです。また、貴重な指導の機会を最大限に生かせるよう、研鑽と準備をしっかり重ねていきましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一