失敗から正しく学べているか

昔から至るところで「失敗から学ぶ」という言葉を耳にしますし、口にもしますが、失敗から正しく学ぶには、相応の「失敗への向き合い方」を習得しておく必要があろうかと思います。教室での生徒の言動にそうした姿勢と行動がきちんと見て取れるか、注意を向けておきましょう。
失敗をしたときに、きちんと振り返りを行い、その原因を見つけ出し、次の機会にどう修正して臨むかを考え出せれば、より大きな成功の確率が見込めますし、パフォーマンスも向上していくでしょう。
そうした経験を繰り返す中で、「やってみる前に、失敗のリスクを評価し、より成功率の高い方法を選び出す力」も身につき、より良い選択を重ねる(=より良く生きる)ことが可能になってくるはずです。

❏ 失敗から学ぶための3つのフェイズ

冒頭にさらっと書きましたが、失敗から正しく学ぶには、以下の3つのフェイズをきちんと踏んでいく必要があります。

  1. 失敗だった(=もっと良いパフォーマンスが期待できた)ことをきちんと自覚する【的確な自己評価】
  2. 結果とそこまでの取り組みを振り返り、上手くいかなかった(=失敗した)原因[ミスの起点]を見つけ出す【原因の究明】
  3. 同じことを繰り返さないよう、原因を心に留めると同時に、次の機会にどう修正して臨むかを考える【適応的学習力】

特に意識せずとも、習慣として自然にできているならOKですが、できていないようなら、まずは意識的に行うところからでしょう。
日々の教室での様子や、リフレクション・ログから、意識や習慣に不足が疑われる生徒がいたら、放置せずに指導の機会を持ちたいところ。その力を備えないまま卒業させてはいけないと思います。

❏ どこが失敗だったか、どこに不足があるのかを把握

失敗だったことを自覚せず、「まあ、こんなもんだよね」と受け流していては、振り返ってそこから何かを学ぼうという意識にはなりません。
おそらくは、無自覚に同じことを繰り返すだけ。それが習慣となり、行動パターンが固定してしまっては、その先の成長はなくなりそうです。
自分の取り組みやその結果に、何らかの不足があることに気づけることが、「失敗から学ぶ」ための第一歩ということでしょう。
不足の所在に気づくのは、何らかの基準に照らし合わせてみてこそ。やり終えたときに、「取り組みを通して何を目指していたのか/どうしたかったのか」に立ち戻ることを習慣にすることが第一のステップです。
出来栄えを全体としてイメージで捉えていては、どこに不足があるのかはっきりしませんし、良かったところも見落としがち。観点を定め、分解的に成果を評価できることも、ここで求められることの一つです。
同じ課題に取り組んだ周囲のパフォーマンスに照らすことでも、彼我の違いの中に不足を見つけだすことができます。成果の発表(プレゼンや展示など)は「相対化」のための場と位置付けることが大切です。

❏ 失敗の原因がどこにあるのかを見つけ出す

不足の所在が分かったとしても、それだけでは「ダメなところを見つけただけ」であり、原因がどこにあるのかを見つけ出さないことには、その解消を図り、より良いパフォーマンスには近づけません。
原因を見つけ出すことができないのでは、同じ失敗を繰り返す(同じ轍を踏む)ばかりです。やがて対象への自己効力感を失い、取り組み続ける意欲も失っていきかねません。
ここまでは上手く行っていたのに、ここを誤ったから、その後がぐちゃぐちゃ…。ミスの起点さえ特定できれば、そこで取るべきだった選択も改めて考えられ、正しいルートを描き直すことができます。
併せて、出来ていた部分にもしっかりと意識を向けさせましょう。ポジティブに捉えられる部分がないと気持ちも後ろ向きになりがちです。言い訳や自己弁護が増えては、その後の改善にブレーキがかかります。
失敗の原因(ミスの起点)を探り出す方法と姿勢を学ばせることは、指導に当たる先生方の大切なお仕事。努々、怠らないようにしましょう。
振り返ってみて得た気づきは、きちんと言語化させることが大切です。頭の中だけのイメージはときに曖昧であり、論理を欠きがち。書き出しておけば、記憶にも残り、次の機会にも活きやすくなります。

上手くいかずにいる生徒がいると、助言や指導を通じて、出口/解決に導いてあげたくなることも多いかと思いますが、そればかりでは生徒が自ら原因を見つけ出す力を育む機会を持てなくなってしまいます。
別稿の通り、助言や指示は、生徒自身がじっくり振り返ってからにするべきです。生徒が考えている途中なら、口をつぐんで見守りましょう。

❏ より良い結果を得るための別のアプローチを考え出す

できなかったところを認識し、原因を特定できたとしても、それを解消する方法が思い浮かばなければ、打つ手がないと感じてしまいます。
前の2フェイズと同様に、ここにも、対象への自己効力感を失わせ、取り組む意欲を低下させるリスクが潜んでいるということです。
羹に懲りて膾を吹くのでは、チャレンジすることも減り、学ぶチャンスを失います。失敗を繰り返さないための最も安直な手段は、二度と手を出さないことでしょうが、それでは未来/可能性を狭めるばかりです。
上手くいく可能性のないものを選択肢から除外する(=繰り返さないようにする)だけでは、手詰まりもあり得ます。新たな発想を得て、選択肢を広げていくことが、改善/達成の可能性を引き上げます。
どんな方法/アプローチがあり得るのかを、生徒が新たに学ぶ機会を整えるのは、言うまでもなく、先生方のお仕事です。
好適な結果を得た事例(他の生徒の答案やパフォーマンス、行動や取り組み)を観察させてみるのは、汎用性の高い方法の一つでしょう。
周囲と相談してみるのも好適です。対話による気づきの交換がブレイクスルーをもたらすことを、体験を通じて学ばせたいところです。
すぐに先生に質問や相談をして「正解」を得ようとする生徒もいるでしょうが、より良いパフォーマンスを得るための思考法(=失敗から正しく学ぶ方法)を身に付けるチャンスを、「不用意な肩代わり」で奪ってしまわないよう、助言の内容とタイミングには熟慮が必要です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一