各学校が掲げる「重点課題/目標」には、成果検証と実践共有を含めた全体計画を描き出して年間スケジュールに落とし込んでおく必要があるのは、別稿「教育手法開発・指導法改善に向けた計画作りは万全?」で既に申し上げた通りです。
しかしながら、その前段階で頭を悩ませるのが、「優先的に取り組むべき課題」をどのような手順で合理的に選び出すかという問題です。
建学以来、学校が大切にしてきている価値もありますし、現場で頑張る先生方が大切にこだわってきたものもありますが、時代の流れ、社会の変化の中で、生徒や保護者、あるいは地域の方々の期待も変わってきているのではないかと思います。学校評価アンケートなどで得たデータを活用し、優先価値の置き所を論理的に決めていきましょう。
2021/03/24 公開の記事をアップデートしました。
❏ 学校内外に打ち出してきた価値(校是)の実現
建学の精神や学校の教育理念、あるいは教育方針として対外的に打ち出している価値をきちんと実現する必要があるのは当然です。公約を守ることは、学校に限らず、すべての組織・機関に求められるところです。
学校経営計画やそれに類する書面などで「重点目標/課題」に挙げた項目や、生徒募集で強調したこと、学校ホームページで謳ってきたことも同じです。(cf. 生徒募集を通じて入学前の生徒と交わした約束)
新課程への移行に合わせて「主体的、対話的な深い学びの実現」を謳ったのであれば、どれだけ生徒が主体的に(=目的意識を持ち、自律的&自立的)に学びを進められているか、行動観察やアンケートなどで確かめ、その結果をきちんと示していく必要があるはずです。
イノベーション人材の育成、社会貢献意識の涵養などを教育目標の中軸に据えて、特色ある教育プログラムやカリキュラムを設定したら、それぞれの達成状況を示し得るデータを調えて成果を示すことになります。
こうした、「校内外に対して打ち出した価値」の実現は、学校を挙げて最優先で取り組むべき課題ですが、生徒に対する指導の実施計画を起こして実行したらコンプリート、ということにはなりません。
成果検証の機会を確保し、そこで抽出された優良実践を共有して更なるブラッシュアップに先生方が協働で取り組む体制を整えるところまで、欠けるところなく計画に組み入れ、実行できるかが問われます。
❏ 実現すべき価値の構成要素に仮説を立てるところから
たとえば、生徒募集における学校広報などで「未来を拓く力」の涵養を前面に押し出してアピールしてきたなら、その実現を図るのは至上命題ですが、ここで浮かぶのは、未来を拓く力って何?という疑問です。
未来を拓く力を構成する要素が特定でき、それぞれをきちんと定義できているのであれば、構成要素を一つひとつ高い次元で実現させれば良いことになりますが、その定義も初期段階では「仮説」に過ぎません。
生徒の指導を進める中で、「こうした要素も必要だね」「この部分は目的達成にあまり寄与しないかも」といった、当初の仮説とは異なる見方が出てくることも少なくないはずです。
仮説を立てたら、当然ながらその検証が必要です。学校評価アンケートなどの質問設計とデータの分析における工夫が求められるところです。
まずは、質問設計において、
- ゴールとする価値(ここでは「未来を拓く力」を生徒一人ひとりが身につけること)の実現度を直接的に尋ねる質問
- その価値を構成する要素と仮定した事柄(確かな学力を形成する授業の実現や進路意識の醸成など)について尋ねる質問群
の2種類を組み合わせて質問群/評価項目を構成しておきましょう。
アンケートの回収を終えたら、前者の集計結果を目的変数、後者の結果を説明変数に重回帰分析を行い、目的変数に対する各説明変数の寄与度を推定していくことになります。
説明変数に設定した項目のうち、偏回帰係数に有意性が確認できないものは、最終的な目的の達成への寄与が小さい/ないと考えられ、あまり力を入れなくてOKとの判断になりますが、寄与度の大きな項目には、リソースを集中的に配分して改善を推し進める必要があります。
なお、重回帰分析では「決定係数」(解析モデルがどれくらいのサンプルを説明できるかを示す指標)も出力されます。
決定係数が著しく低いようなら、説明変数にセットした項目以外に、目標の達成を大きく左右する要素があるはずなので、新たに仮説を立てて質問設計を見直すことになります。
恣意的に作った質問設計をそのまま使っているだけでは、教育活動や学校経営の課題形成に見落としが生じるということです。
❏ 目的変数への寄与度に応じたリソースの配分
繰り返しになりますが、目的変数たる「最終的に実現を目指す価値」に然したる寄与が観測されない項目に、過大に注力しては、限りある教育リソースはあっという間に枯渇します。
たとえば「この学校に入学して良かったか」という問いには、YESと答える生徒を限りなく100%に近づけていきたいものですが、教育活動のすべてに対して均等に注力した改善努力が、如上の質問への肯定的な回答の効果的な増加にはつながらないということです。
総合的な学校生活への満足度を高めるのに、どこに注力するのが効率的かは、学校ごとに異なります。学校の伝統や文化、地域内での立ち位置などにより、生徒や保護者が大きな価値を置くところ/期待を向けるところは違ったものになるのは当然です。
たとえば、伝統的に地域貢献活動に力を入れてきた学校ならば、学校の周囲で暮らす中で様子を目にして、そうした活動に理解と共感を抱いて入学してくる生徒も多いはず。自らもその活動に懸命に取り組む機会が得られたら相応の充足感を抱くでしょうから、その領域での教育機会の充実は学校生活への満足度を高めていくと思われます。
一方、進学実績や部活の指導体制に魅力を感じて入学してくる層が厚い学校で、地域貢献活動に力を入れる方向転換を図ったところで、学校側が期待したような結果にならないことは想像に難くありません。
生徒や保護者、地域が自校に対してどのような期待を持っているか、きちんとデータで確かめないと舵取りを間違えるということです。
せっかく行っている学校評価アンケートも、質問設計やデータ分析にこうした意識を十分に持って臨んでいるかどうかで、学校経営/教育活動の設計に活かせる知見の質と量が大きく変わってくるはずです。
学校が打ち出そうとする価値と、生徒・保護者が抱く期待にずれがあるなら、その解消を図る必要があります。生徒・保護者の期待に沿う方向だけでは、学校の教育理念は実現から遠ざかってしまうかも …。
生徒募集の段階は言うに及ばす、入学してもらった後も継続的に、教育目標や指導方針をわかりやすく、繰り返し伝えていくことが大切です。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一