授業の進め方や学ばせ方を研究するとき、同じ教科の他の先生の授業を参考にするのが「普通/当たり前」のことだと思いますが、倣うべき実践を探す先は「他の教科・科目の授業」まで広げてみるのも好適です。
授業の進め方には、教科ごとに「こういったもの」という固定観念みたいなものがあるのではないでしょうか。ご自身が中高で受けていた授業は思いのほか、意識に深く刻まれており、指導の組み立てを考えるときも、知らぬ間にそのイメージに縛られているかもしれません。
他教科の授業を覗いてみると、新たなイメージが膨らむ上、合教科型の学びを考えるヒントも得られるかもしれませんし、担当しているクラスの生徒のポテンシャルにも新たな発見があろうかと思います。
❏ 他教科の授業は生徒の学習者特性を知る好適な材料
授業の成否は、生徒が備える学習者特性とのマッチングの度合いによるところが大きいことは、以下の別稿でもお伝えした通りです。
ご自身が普段担当しているクラスで行われている他教科の授業を覗いてみると、生徒の反応が自分の授業とはまったく違っていることも少なくありません。
生徒は、先生方の働き掛けに応じて行動を取るため、ご自身のやり方を続けているだけでは他の働き掛けがあったときに生徒がどう反応するのか、捉える/想像する機会はなかなか持てないはずです。
仕事柄、あちこちの学校で様々な教科の授業を拝見していますが、ある科目の授業ではつまらなそうに話を聞いているだけのクラスが、次の時間の別の授業では指名されるのを待たずにどんどん発言している、なんて風景もしばしば目にします。
科目ごとに生徒の得意・不得意、興味の持ち方が違うという事情はあるにせよ、生徒の反応や活動をうまく引き出している授業では、ご担当の先生が、生徒の潜在的な能力(やらせればできること)や意欲(やりたがっていること)をうまく捉えて活かしているのは間違いありません。
思いもしなかったところに、生徒の上手い(=クラスの特性に合った)動かし方を見つけて、その秘訣を知ることができれば、自教科の授業にも応用が利く場面は少なくないはずです。
❏ マッチングの度合いはクラスごとによっても異なる
生徒が備える学習者特性はクラスごとに違います。下図は、ある高校の2年生に「対話と協働による気づきと学びの深まり」を尋ねた項目でのすべての授業の集計値分布をクラスで比べたものです。
こうしたデータを揃えてみると、ご自身の「学ばせ方」とクラスの特性のマッチングの具合を相対的に捉えることができるように思います。
例えば、A組は相対的にみると少々厳しい状態ですが、上側のひげは他のクラスに引けを取らないところまで伸びています。
もし、ご自身が担当している授業が箱の上端を超えているなら、少なくとも相対的には特性に合った学ばせ方ができていることになるはず。
上側のひげに含まれる授業の「共通項」を洗い出せば、中央値未満に止まる他教科の授業改善を図るときのヒントが得られるかもしれません。
一方、下方のひげに含まれているなら、箱の上端を超える授業でのやり方を参考にすべく、一度はその教室を覗いてみる必要がありそうです。
本稿のタイトルとはズレますが、如上のデータに絡んで追記をひとつ。
各教科の学年担当の先生方が手分けして授業を行っているため、当然のことながら、上図における箱の位置の違いには担当配置による部分もありますが、全授業の集計をまとめてもなお観察される「有意な差」は、各クラスが備える「集団としての学習者特性(対話協働への意識や姿勢など)」の違いを想定しないと説明がつきません。
集団としての学習者特性の違いは、個々の生徒が入学前/進級前にどんな学び方をしていたかで生じる部分もありますが、クラスが作られてからの指導、学習体験によるところも小さくありません。
ホームルーム活動(係りの仕事など)で育まれた協働性、互恵意識や相互啓発が働きやすい環境の有無に加え、進路面談や模試や考査のやり直しに向かわせる指導の成否なども、箱の位置の違いとなって現れます。
箱の位置が相対的に低いクラスは、どの先生も指導にご苦労を抱えていることになりますが、そうしたクラスでこそ、担任の先生/学年団と各教科の先生方が力を合わせて改善に当たる必要があります。
全教科で足並みを揃えて「生徒が協働で課題解決に当たる場」の充実を図れば、生徒はそうした場でのふるまい方も学びやすくなるはず。その結果、どの授業の改善も、相乗効果で加速するのではないでしょうか。
また、活動の場を増やせば、生徒を観察する機会も増えます。それぞれの先生が観察を通して得た気づきをシェアすれば、より良い学びのコミュニティ作りに向けた課題形成も、その精度を高められるはずです。
別稿でも書いた通り、授業とホームルームで見せる顔が違うこともしばしばです。各教科の先生方から寄せられた見立て/観察結果を参考にしないと、クラス担任の先生の学級経営にも「見落とし」が残ります。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一