改善が遅れた授業のキャッチアップを支える

授業評価アンケートの集計結果や、模試や外部検定のデータを拝見していると、改善を重ねてより良い指導を実現している授業/先生/クラスがある一方で、キャッチアップが必要なのに改善が遅れてしまうケースも少なからず見られます。
そのままにしては、評価や成果が振るわなかった先生ご自身もお困りでしょうし、そこで学んでいる生徒にもデメリットが及びます。
自校に通うすべての生徒に「より良い学び」を約束するために、改善が遅れた授業のキャッチアップを、管理職のみならず、教科、学年、分掌の各組織が支えていく必要があるのではないでしょうか。

❏ 先ずは、改善できた状態をイメージできるように

授業改善などに限りませんが、何かに頑張れるのは「こうやったら上手くいきそう/改善が図れそう」という展望を持てるときだけです。
何をやっても無理と思っているところに、頑張る意欲は生まれません。
その授業も、それぞれの先生方が最善と思う方法で行ってきたわけですから、生徒の成績が伸びない、評価が向上しないとなれば「手詰まり」を感じたり、改善への自己効力感を弱めてしまっているかと思います。
先ずは「上手くいっている授業でどんなことをやっているのか・工夫があるのか」を広く、深く知る機会を整えていくことが重要と考えます。
後述のような方法で、好適実践を抽出し、そこでの取り組みや工夫を知ってもらうための「実践報告」や「授業公開」の場を整える必要があろうかと思います。管理職の先生方や教科・学年・分掌の各組織が真っ先に取り組むべきことは、こうした機会/場の整備ではないでしょうか。

❏ これまでのやり方に新たな手法を組み入れる

キャッチアップを図ろうとする先生方には、優れた実践の中に「自分の授業にも取り入れる/組み込むことができそうな、且つ十分な改善効果が期待できるパーツ」を見つけ出そうという発想が期待されます。
高い評価/大きな成果を得ている授業のやり方に倣うと言っても、これまで自分がやってきたことを捨て去ることを意味しません。これまでの努力の中で身につけてきたものと、新しく手に入れたパーツを組み合わせて更なるパワーアップを図ろうというのが、ここでの趣旨です。
先生方がこれまでのキャリアの中で確立してきたものがあるからこそ、新しいパーツも活きるというものです。
新しいパーツを採り入れると矛盾や不整合を起こしかねない部分のみ、他のやり方に切り替える(例えば、生徒が自力で取り組む学習活動に委ねてみる)などの「最小限の調整」を図ることになります。

❏ 好適実践の抽出は、観点を明確に定めた上で

単に「評判の良い授業」という曖昧な括りで提示しても、自分の授業との違いを感じるだけで、自分が取るべき具体的な行動がイメージできなかったり、どこを真似れば良いかもピンと来なかったりします。
模試などの成績でも、平均点が高いというだけの抽出法ではなく、「この分野/単元での得点率が高い」「思考要素の大きな問題に強い」「記述・論述問題でしっかり答案が書けている」といった「観点」を定めた上で、好適な実践を抽出するようにしたいところ。
この力をつけさせるにはこんな方法もあるのかと気づけば、具体的に取るべき行動とそこで期待できる成果がより明確にイメージできます。
こうした取り組みの大前提は、「総合点ではなく、分野や領域、学力要素に分けて(=観点を設けて)点数/数字を見る」ことです。
学年共通問題で定期考査を行っているときも、クラス間の比較は総合点の平均点でしか行っていないケースが多いかと思います。
箱ひげ図を書いて上位層の拡大、下位層の縮小といった「指導効果」に着目したり、集計方法を工夫して分野・領域・要素ごとに比較ができる状態を整えるようにしていきたいところです。

❏ 目的変数への寄与度の大きな項目での高評価授業

別稿でも書いた通り、授業評価アンケートにおける目的変数は学力向上感ですが、大きな学力向上感を与えている授業/実践を共有する場合にも、「明確な観点」を定める必要があります。
下表は、当オフィス監修の授業評価アンケートでの質問設計における目的変数(Ⅶ学習効果)への寄与度を探った重回帰分析の結果です。


中学校でも高校でも、最も大きな寄与度が観察されているのは、Ⅸ学習方策「この科目の学び方や取り組み方が身についた」です。
この項目での評価が特に高い授業を抽出し、実際に教室をお訪ねしたりお話を聞いたりしてみると、授業法ガイダンスを充実させるという「古い常識」とは違うアプローチが見られたりします。
例えば、課題解決型学習(PBL)への転換を図り、課題に取り組ませる中で「必要な情報を集めて知に編む力」を獲得させることに注力していたり、課題に取り組ませるたびに振り返りをしっかり行わせてメタ認知・適応的学習力の獲得を図っていたりします。
こうしたことを知らずに、単に生徒のおしりを叩いて学力を伸ばそうとする方策を続けていては、投じたエネルギーに見合った成果は得られないのではないでしょうか。(生徒も絞られるわりに力がつかないことにストレスや不信を抱くかもしれません。)
目的変数をきちんと定め、それに対する一定以上の寄与度が観測された項目群で説明変数を設けた「質問設計」で行った授業評価アンケートであれば、こうした「解析」によって、「観点を明確に定めた授業研究/好適実践の共有」も効果的に行えるようになると考えます。

❏ 好適実践を探す範囲は隣接学年にも広げて

授業改善を進める/改善の遅れを取り戻そうとする場合、好適実践を探す範囲を、同一教科の別科目や隣接学年まで広げてみるのも好適です。
科目が違えば学習内容が異なるため、「自分の授業にそのまま取り入れられる指導手法」を直接的に見つけられるとは限りませんが、学ばせ方や授業デザインの発想には、科目/学習内容の違いを超えた「共通項」が想像以上に多いものです。
生徒は、科目ごとにアタマを交換するわけではなく、同じような働きかけには大差のない反応を示すはずです。自分の授業で試したことのない方法に生徒が喰い付いている様子に学ぶものも少なくありません。
新たな発想さえ得られれば、先生方が備えている専門性や、これまでの指導の中で確立してきた指導手法をアレンジできるはず。新たなパーツとの組み合わせで、身につけてきたものがより良く生きれば、授業は大きく改善するのではないでしょうか。
好適実践を探す範囲を「学年教科」や「同一科目」に閉じては、見つけ出せる優れた工夫や発想も少なくなってしまいます。
隣接学年の授業でどのような学ばせ方をしているかを知れば、そこで出来るようになっていることを土台に自分の授業も設計できますし、学びが次のステージに進んだときに求められるものをイメージした指導ができれば、段階性・連続性を備えた指導を教科内に作り上げられます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一