新課程のベースとなった「21世紀型能力」では、言語、数量、情報の各スキルが「基礎力」と定義されていますが、英語は国際化がさらに進む社会において、すべての教科を学ぶための基礎として、これまで以上に重要なポジションに置かれます。
英語学習が直接的に目的とするところは「4技能のバランスの取れた獲得」であることに間違いありませんが、他教科を学んだり、探究活動に取り組んだりするときの、情報の収集、発信といった入出力のための道具として、これまで以上に「高い次元での運用力」の養成が期待されているのではないでしょうか。
大学入試の英語問題でも、複数テクストを読み、双方を比較して矛盾を見つけたり、それに対処したりといった、以前よりも高度な思考が求められるシーンが増えてくるはずであり、よほど上手に時間を使わないと英語の授業に向けられた多様な要求を満たすのは難しそうです。
2017/11/14 公開の記事をアップデートしました。
❏ 今以上に教材や学習場面の拡充を図るのは非現実的
英語そのものの運用力を高め、すべての教科を学ぶときの基礎力としての言語スキルを獲得させ、かつ思考力も鍛えるという、これまで以上に大きな期待が向けられる中、授業時間が増えるわけではありません。
より多くのものを限られた枠で実現するのに、それぞれの「力」を養うための教材を個々に増やすという戦略は到底現実的とは思えません。
個々の教材の扱いに十分な重みをかけられなくなるでしょうし、下手をすると、一つひとつの課題を仕上げ切れないままに放置することを常態化してしまう生徒を増やしてしまうばかりではないでしょうか。
採るべきは、冒頭にも書いた通り、ひとつの教材を多角的に利用して、4つの技能(+その他の能力)を並行して高めていくという戦略です。
あれこれと教材を増やすのではなく、これまで以上に精選し、一つのマテリアルを扱う中で、多様な能力(4技能+思考力)を養うという発想で、授業をデザインしていく必要があります。
❏ 本文の導入と同時にリスニング力の鍛錬
コミュニケーション英語のテキストを用いるとき、導入フェイズでその単元が扱うテーマについて概要を英語で話して聞かせて、T/Fテストやディクテーションなどのタスクに取り組ませながらリスニングの力を鍛えるのは、すでに多くの教室でやっていることです。
先生が単元の概要を英語で話して聞かせているだけでは、あまり集中していない生徒もいるはずです。
教科書会社が提供するスクリプトや音源を用いるほか、JETやALTに協力を依頼してスクリプトを起こして音声データを録音してもらうという手もあります。
出来合いのものを使うより、他教科の学びと結び付けたり、年間授業計画の中での当該単元の位置づけに合わせたアレンジもできるほか、生徒の英語力に合わせた調整もしやすいはずです。
聞かせているだけではなく、生徒の口も動かさせたいところです。様々なバリエーションで音読に取り組ませれば、導入も効果的に進みます。
始業のルーチンとして確立しておけば、休み時間からの意識の切り替えもスムーズに行えるはずです。いかに少ない指示で生徒を動かせるかは限られた授業時間を有効に使うための重要なカギです。
❏ 問いを示してから取り組ませる音読
本文内容を理解する場面で、生徒を指名して和訳を言わせているだけでは、当然ながら4技能の鍛錬になりません。そもそも、ネットで全訳を手に入れて読み上げているだけの生徒もおり、和訳できたことが英文を理解していることの証明にすらなりません。
読んで理解したことをもとに考えるタスクとして、本文内容の理解を試す設問を与え、その答えを作るという目的を持たせて本文を読む(音源を聞く、口を動かす)という複合的な活動にした方が効率に勝ります。
もちろん、初期学習者には「同時並行」はきついでしょうから、初期段階ではタスクの目的をひとつに絞るのが好適かもしれませんが、練習を重ねる中で、「聴きながら/読みながら考える」という、日常の言語活動で「当たり前」にやっていることに近づけていくべきです。
例えば、「次の主張に対して本文の筆者は賛成か反対か」という2択の問題から始め、「そう考える理由は何か」という問いを繋ぎつつ、CDを聞かせ、音読させれば、生徒はそのたびに言語活動を重ねます。
問いの求めに応じて、必要な情報を拾い上げ、答えが求める形に編むという一連のタスクに取り組ませることで思考力も一緒に鍛えましょう。
漫然とCDを聞いて音を真似るだけでは、内容を取りながら読んでいるとは限りませんが、如上の問いが与えられていれば、それに答えようとしますので、耳と口以外にも動く部分が大きく増えるはずです。
返り読みせず、CDが読み上げるスピードで内容を追えるようなら、大学入試に十二分に対処し得る読解速度も獲得していることになります。
❏ 読み/聞く活動の中で、本文を細部までしっかり観察
4技能の獲得を目指した言語活動も、通り一遍のもので終わってしまっては、運用力を確かなもの/高度なものにするのに不可欠な文法や語彙といった言語材料の獲得がおざなりになるリスクもあります。
如上の問いに正解を導けたとしても、文法や照応関係を含む構造などを生徒が正しく観察・理解できているかどうかも確かめないと、その単元で学ぶべきことが抜け落ちてしまっているかもしれません。
例えば、過去形助動詞が本文にあるのに、仮定法の条件節に相当するのがどの語句かも考えていないのでは、理解は足りないでしょうし、相手の意図を読み違えます。(入試でこれをやってしまうと、誤肢に引っかかるなど、残念な結果になります。)
こうした点を確認するには、先生からの問い掛けで、観察するべき箇所に意識をフォーカスさせるのが一番であるのは言うまでもありません。
代名詞が指すものや、文中に省略されている語句といったことでも、尋ねられれば答えようと英文を改めて観察するでしょうし、どう探すべきかを考えます。そんな問いを先生が繰り返すうちに、生徒はそれを真似て「本文とも対話ができる」ようになっていくのではないでしょうか。
❏ 言語材料を学ぶことを手段に学習方策の獲得を図る
文法を理解させるにも、語彙力を形成させるにも、先生がいちいち教えて、生徒はそれを覚えるだけでは、学習者としての自立に向かうために不可欠な「学習方策」が獲得できません。
わからないことがあったときに、どんな行動を取るべきかを瞬時に正しく判断できる力だって、学力の大切な一部。そもそも、いつまでたっても「教えてあげなければならない状態」に生徒を止めていては、4技能(+思考力)を高めるための活動に授業時間の多くを配分できません。
新出語句でも辞書や単語集・熟語集のページを開けば、必要な情報はそこで得られますし、運用語彙まで高める必要があるものについても例文などに当たらせれば、使い方まで十分に理解させられるはずです。
参考書や辞書に書かれたことを読んで理解することも「言語スキル」の一つでしょうし、調べさせた例文はある生徒に諳んじさせて、他の生徒にそれを書き取らせれば、ちょっとした言語活動にもなり得ます。
生徒に確かな英語力(言語能力)を獲得させるために、様々な活動が考案され、実践されてきましたが、これからは、個々の活動に複数の目的を持たせるためのアレンジを考えたり、英語という科目に閉じずに、すべての教科・科目(+探究活動)の土台としての「基礎力」を養うことにもより大きな意識を向けたりすることが求められるのだと思います。教材を増やさず、複合的な視点で、その活用を考えていきましょう。
その2に続く。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一