良い学校とは?~誰かに直接訊いても答えは出ない

より良い学校、より良い教育活動の実現を目指して工夫と努力を弛まず積み重ねていく中で、「良い学校とは何を指すのか、どんなものか」をときどき/どこかで立ち止まって考えてみても良いと思います。
時代が変わり、学校に求められる役割、向けられる期待も色々なところで変わってきています。以前のままの価値観や「校是」で走り続けていると、「学校に求められているもの」と「学校が目指しているもの」の間に気づかぬズレが生じているかもしれません。

2021/07/14 公開の記事をアップデートしました。

❏ 学校に向けられた期待の所在は、学校ごとに違う

地域固有のニーズや競合校との棲み分けなどもありますので、「良い学校」を構成する要素には、どの学校にも共通するものと、各校に固有のものがあるはず。各要素の持つ「重み」も学校によって違います。
当然のことながら、学校のこれまでの取り組みや実績、生徒募集で対外的に謳ってきた価値に一定の理解や共感をもった生徒が入学してくることも、個々の学校に向けられた期待をそれぞれのものにしていきます。
自校の教育を改革すべく導入した新しい教育活動に対する生徒、保護者の理解や期待の大きさも、実際に測ってみなければわかりません。プログラム自体には大差がなくても、ある学校では大いに評価され、他校では関心そのものがあまり向けられていないというのもしばしばです。
実際に、学校評価アンケートのデータを解析してみると、「本校に入学して良かった」という問いへの答えに強く影響を及ぼしている/寄与度の大きな項目は、学校ごとにかなり大きな幅で違っています。
どの学校でも例外なく大きな寄与度が観察されるのは、「教育目標や指導方針をわかりやすく伝えているか」や「生徒、保護者の要望に応える姿勢を見せているか」など、数項目に限られます。

❏ 生徒、保護者が自分でも認識していないニーズや価値

変なたとえで恐縮ですが…。クルマには、経済性(燃費、維持費)、居住性、乗り心地、エンジンパワー、シャシ性能、ハンドリング、デザイン、安全性、ときには「はったりが効くか」など、様々なパラメーターがあり、それらの組み合わせが、それぞれの車の個性となって、訴求する先(顧客)を分けます。
経済性を重視する顧客が多い地域に、フルサイズのアメ車をメインにした販売拠点を置いたところで、経営が成り立つとは思えません。販売員がほれ込んだ車を、だれかれ構わず売りつけたら、ユーザーは迷惑でしょう。買ったとしても早々にそのクルマを手放すことになりそうです。
自校を選んで入学してくれた生徒やその保護者、あるいは自校に興味を持って学校説明会に足を運んでくれた受験生が、どんな学校を期待しているのか、しっかりと把握しないことには、如上のミスマッチに近いことが起きてしまうのではないでしょうか。
かといって、アンケートで「どんな学校を期待しますか」と生徒や保護者にダイレクトに訊いても、正確な答えが得られるとは限りません。
自分が何を求めているのか、案外、正確には自覚していないことが少なくないからです。(消費者としての商品選びでも同じです。)
アンケートでは、ずらりと並んだ選択肢の中から「生徒の個性を大切にしてくれる学校」を真っ先に選んでいるのに、実際の学校への不満の主要因は全く別のところ(例えば、ちゃんと勉強している様子が見られない、など)にあったりします。

❏ 統計的な手法を用い、データから潜在的な意識を探る

生徒、保護者が言葉にしたり、アンケートで選んだりした「重視していること」と、実際に学校生活全体への満足/不満に大きく関与していることは必ずしも一致しないことを踏まえて、後者を洗い出せるように、アンケートの設計や集計の方法を工夫していきましょう。
学校評価アンケートでは、「この学校を選んでよかった」「充実した学校生活を日々送ることができている」などの、学校生活全体への満足度をダイレクトに訊く項目と、生活、学習、進路の3領域での個々の教育活動/指導への納得度などを尋ねる項目が併設されます。
また、獲得を目指す能力や資質について、入学後から/年度当初からの伸びをどのように自覚しているかを訊いたり、特に伸ばしたいと思っている能力や資質は何か、日々の学校生活で頑張っていることは何かなども尋ねたりしているはずです。
全体の満足度を尋ねた項目の回答分布や集計結果を「目的変数」、その他の項目を「説明変数」とした解析(重回帰分析やクロス集計表の残差分析など)を行うことで、どの説明変数が目的変数に対して大きな寄与度を持っているかを探ることができます。
簡単に言えば、教育活動のどの部分に、生徒や保護者が(当人も自覚していない可能性がある)価値をどのくらいの重みで置いているかが推定できるということです。
こうした解析の結果は、学校への満足度を高める(=ステークホルダーにとっての「良い学校を」を実現する)のに、校内の限られた教育リソースをどのように配分するのが最適かを示唆してくれるはずです。
また、解析結果と教育リソースの配分に関する方針をきちんと示せば、学校経営に対する校内外の理解も得やすくなるのではないでしょうか。
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学校説明会などでは来訪者に「学校選びで、何を重視していますか」とアンケートで訊いてみましょう。来訪者の関心の所在を把握して、その部分の発信を多めにしたり、丁寧に説明したりする「調整」ができるというメリットは小さくありません。
WEBアンケートを用意しスマホから回答してもらえば、リアルタイムで集計結果が参照できるので、その場で発信内容を調整したり、質問にダイレクトに答えていくことも可能です。
ただし、来訪者アンケートの集計結果をそのまま鵜呑みにして、学校経営や教育活動の方向性を決める参考にしてしまうと判断を歪めてしまうリスクを招きます。少なくとも「出願した人」と「出願しなかった人」に分けてデータを解析する必要はあるでしょうし、学校評価アンケートの結果とも突き合わせて判断材料にすることが大切です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一