学習目標を示すのに最も効果的なのは、別稿で書いた通り、「学び終えたときに解を導くべき問い」を導入フェイズで示しておくことですが、練習や話し合いなどの活動の場面では「解を導く」こと以外にも目標があり、その効果的な伝え方を別の形で確立しなければなりません。
練習を通じてできるようになるべきこと、取り組みのポイントやふるまい方、協働場面でのチームへの貢献などの「実現を目指すべきこと」を行動評価の基準として、生徒を主語にしたセンテンスの形で示しておけば、生徒は求められているものをイメージしやすくなります。
実験や制作の場でも、押さえるべきポイント、気を付けるべきことなどが、可視化/言語化されて示されているかどうかで、生徒の目的意識も変わります。指示した手順に従わせるより、目標を踏まえ、どう行動するかを生徒自身に考えさせた方が、主体的な学びにも近づけます。
目標提示のために用いた「評価の基準」は、練習などの活動を終えたときに立ち戻り、達成検証や振り返りにも利用すべきものであるのは言うまでもありません。しっかりと目標を示してこその振り返りです。
2017/07/31 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 場面ごとに目指すものを生徒は意識できているか
例えば、英語の音読練習は、正確さや流暢さの向上や、反復による記憶への定着などを目標として行っているはずですが、生徒はそれらをきちんと意識して練習に取り組んでいるでしょうか。
中には「声を出して読みなさいと言われたからそうしているだけ」という、目的の認識も向上の意欲も希薄な生徒だっているかと思います。
CDに続いて斉読するときにも、聞こえてくる音に注意深く耳を傾け、その音韻的特徴を捉えようとしている生徒と、後に続いて声を出すことしか意識していない生徒では、上達の度合いに雲泥の差が生じます。
音読という当たり前の活動でも、練習を経てクリアすべき大小様々な目標があるはず。それらをどこまで意識しているかで練習効果も大きく違います。「元気に大きな声で出す」だけでは成長に方向もありません。
活動を通して目指していること(到達目標&行動目標)の一つひとつをきちんと把握させることは、目的意識を持った積極的な取り組みを引き出すための前提要件。学びの成果を大きく変えてしまいます。
目標とするところを言語化してリストにさせてみましょう。目標への生徒の認識はぐっと深まりますし、生徒が書き出せたものには、先生方が積み上げてきた指導/意識づけのの成果が如実に表れているはずです。
❏ ポイントを意識していることが練習の成果を大きくする
体育で技の習得を目指した練習を行うにも、漫然と反復させているだけでは確実な進歩は期待できません。場合によっては変な癖がつくかも。
得意な生徒は直感的にポイントを捉えてどんどん進歩するのに、苦手な生徒はそれができません。両者の差は開くばかりです。進歩が遅れれば自己有能感も失いがち。モチベーションも下がってしまいます。
ポイントを示して意識的な練習をさせてこそ、着実な進歩が期待でき、成長の段階を確実に踏ませられるのではないでしょうか。
パフォーマンスや成果の総体としては得意な生徒に及ばなくても、自分がポイントとして取り組んだことが(たとえ小さなことでも)クリアできたら喜びですし、もう一丁頑張ってみるかという気にもなります。
芸術でも、意識を向けるべきポイントを見つけた生徒とそうでない生徒の差も開くばかりかと。家庭科や技術家庭でも同じでしょう。
苦手な生徒が多いクラスほど「本時の学び/今の練習[作業]で目指しているものが何かを正しく認識しているか」を丁寧に確認しましょう。
❏ 小さな達成を認識することが積極性に転じる
ポイントを意識して練習や作業に取り組めば、進歩が早まるのに加え、新たなトライで何をクリアできたかの「たな卸し」も容易になります。自分の進歩を知って得た「達成感」は、次に向けた意欲の原資です。
できることが増えたと実感し、自己有能感を高めれば、消極的な姿勢から意欲的な取り組みに転じます。「頑張れば進歩する」と感じてこそ、次に向けた目標を設定でき、それを達成しようとの意欲も持てます。
しかしながら、実際には練習の成果が出ているのに、生徒自身がそれを明確に認識できないでいることは、思いのほか少なくないようです。
外から(=先生から)の評価やフィードバックでそうした成果/進歩に気づかせてあげることも大事ですが、生徒自身で気づけるようになればより自律的/主体的に練習などに取り組めるのではないでしょうか。
そのために活用させたいのが、練習や作業に取り組むときに携えておく「チェックリスト」や観点別の段階的な評価規準でしょう。
気をつけるべきポイントを生徒がしっかり頭に浮かべられていれば、周囲の取り組みやパフォーマンスを観て学べることも増えるはずです。
❏ チェックリストを生徒に作らせながら、授業を進める
単元ごとにできるようになるべきこと、活動場面ごとに取るべき行動を先生方が予めリストにして提示するのも良いですが、学びを進める中で段階的に生徒自身がリストを書き上げられるように導きましょう。
与えられたものと、自分が作ったものでは、「達成に向けたコミット」の度合いにも大きな違いが生じます。
注意すべきポイントを先生が示すだけでなく、モデルを見せて生徒自身に気付かせ、言語化させることに大きな学びがあると考えます。
思考力の一部を構成する「問題発見力」は観察をタスクに獲得していくものですが、学びへの取り組み方やその成果の中に、改善を要する課題を見つけるのも同種の力でしょう。先生の側で問題点を教える/改善を要する点を指摘するだけでは、満たせない部分がありそうです。
振り返りで、より良いパフォーマンスに向けた課題を見つけ出し、次の機会での自分の目標を設定するのは「学習の改善/学びに向かう姿勢の獲得」のため。チェックリスト作りにも通底するものがあるはずです。
普段の授業で使っているリフレクションシートの余白にも、本時の学習でのチェックリストを起こすスペースを設けておき、授業を進めながら自分で見つけたポイントを生徒に書き込ませていくのも好適です。
❏ 最初のうちは、先生が用意し、徐々に生徒に任せる
生徒自身がチェックリストを作るにはある程度の習熟が必要ですから、最初のうちは先生が用意してあげる必要もありますが、徐々に手放していく「守破離」の発想をもって指導に当たることが大切です。
振り返りの仕方、チェックポイントの書き出し方などを生徒が理解し始めたら、事前に先生方が調えるリストの一部を空欄にしておき、その箇所を授業中に生徒が考え、埋めていくようにするのもお薦めです。
どんなポイントをリストアップしたか、生徒同士で見比べさせて、互いの気づきをシェアさせることも大きな学びになるはずです。
練習や作業に際してポイントとなるところを、自力で見つけられるようになったら、学びが「他律」から「自律」に転じたということ。
新しい(初見の)タスクにも、生徒が試行錯誤をしながら、「正しいチェックリスト」 を自力で作れるようになってきたら、「学習者としての自立」に大きく近づいたことになるのではないでしょうか。
各教科(あるいは教科横断)で作成した公式ルーブリックにも、生徒が起こしてチェックリストから、合理的で普遍的なものを選び出して採り込んでいきましょう。cf. 評価規準は使いながらブラッシュアップ
但し、こうした「朱入れ」を重ねていくと、どこかで整合性や段階性に綻びが生じることもあります。年度替わりには、各教科でしっかり読み合わせを行い、必要な修正を施し、新年度版を改めて共有しましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一