進路指導が、生徒一人ひとりに資質や志向に合致した進路を決定させることを目的として行うものであることに異論の余地はありませんが、この目的を達成する過程で生徒が身につけていくべき様々な資質や姿勢があることも忘れてはいけません。
とりわけ、進路を選択していくプロセスの中で養われる「選択の力」は生徒がその後の人生を歩む上でとても大切なものです。
進路指導は「選択の力」を養う上で、ほかに代えがたい重要な指導機会という考えを土台に、指導計画の設計と実施に当たりたいものです。
2014/12/29 公開の記事をアップデートしました。
❏ 高校卒業の時点で作る答えは暫定的なもの
高校生が見渡している世界は、限られた経験を通した、実際よりもかなり狭いものであるのが普通です。
卒業後の様々なイベント(進学や就職といった大きなものから、日々の出会いや発見などの小さなものまで)を経験するごとに、新しい扉が開かれ、広大な世界が眼前に広がります。
希望の学部に進んで勉強してみたら、想像を超える面白さがそこにあることも珍しくありませんし、熟慮の末に選んだ進路なのに、実際に授業を受けているうちに違和感を覚えたり、他所に興味が見つかったりすることも少なくないでしょう。
また、社会の変化が加速する中、将来のゴールを定めて最短距離を歩いても、到達したときには憧れていたゴールが既に輝きを失っていることだって十分にあり得ます。
高校卒業時に作った答え(=選んだ進路)は「暫定的」なもの、先に進んで作り直されるべきものと考えるのがよさそうです。
❏ 選択に本気で向き合うからこそ身に付くもの
しかしながら、暫定的だからと言って、いい加減に取り組ませるわけにはいけません。どの段階での選択にしろ、その後の選択肢が配列を変えてしまいます。
何より、自分の進路を選び出す過程でこそ学べるものがある以上、ステップの一つひとつを「学びの機会」と捉える必要があるからです。
「習作」だからと言って本気で創造に取り組まなかったら、いつまでたっても本物の作品は作れませんよね。本気になってもがく中ではじめて次のイメージが浮かんできます。
生きていく以上、選択の機会は絶えず訪れます。そこで正しい行動を取れるか、選択の力を発揮できるかは、生き方を大きく変えます。
進路を選ぶプロセスを通じて「正しく選ぶための方策」を生徒自身に学ばせること。これこそが、進路指導の目的とするところだと思います。
❏ 進路探究を通じて獲得する、情報を集め評価する力
進路指導(=進路意識形成プログラム)の中には、学部・学科を調べたり、様々な職業を比較してみたりする場面があるはずです。
自分の将来を左右しかねない状況での調べ学習ですから、当然ながら取り組みの真剣さが違ってきます。
解らないことがあっても適当に放置しても困らない場面と違い、「ひとつの方法でわからなければ、他の方法を試す」という智恵も使うはず。
集めた個々の情報について「信頼に足るものか」も考え始めます。
生徒が通り一遍にしか調べてきていないものを「ご苦労さん」と受け取っては、こうした成長を促す機会を逃します。
見落としているところ、おざなりにしているところを「突っ込む/問い掛けて気づかせる」のが指導者の仕事です。ときには、きちんと調べた他の生徒の成果に触れさせて、相互啓発を促すことも必要でしょう。
探究活動における指導と通じるところがあるのは、進路選択に向かう仮定は自分の人生を対象にした「探究」に他ならないからだと思います。
❏ 向き合わざるを得ない状況が、多様性や判断力を養う
多くのものから1つを選び出すときには対象をよく知らなければなりませんが、単に調べるだけでは、一つの側面からしか物事を見ていないかもしれません。
見落としていた別の側面に気づくには、周囲(特に大人や先輩)の考えに触れて、それまでの自分の考え方を相対化しなければなりません。
進路選択に向き合う中で、異なる立場や経歴、考えを持つ人と交わり、異見にも耳を傾け、モノの見方を押し広げることは、多様性を身につけていくことにほかならないのではないでしょうか。
多様な見方ができるようになれば、どこに軸足を置くか(=自分にとって価値を置くべきことは何か)を知ることになり、判断力も身についていくはずです。
単なる調べ学習の中には選択や判断という要素はなく、自分のこととして向き合わざるを得ない進路選択だからこそ、こうした資質・姿勢を獲得するまたとないチャンス。好機を逃さないようにしたいものです。
❏ とりあえずの選択を許さない、という指導姿勢
授業で問題演習をしているとき、選択肢のすべてに目を通さない/ひとつひとつへの吟味が足りないうちに答えを選んでいる生徒を見かけたとしたら、当然のごとく「それではだめだ」と指導しますよね。
進路指導だって同じです。適当に済ませた職業調べや学部・学科研究の結果や、自分に向き合いもせずに形だけ整えた進路希望調査をそのまま受け取ってしまっては、生徒は「これでよし」と誤解してしまいます。
初めての機会でとった行動は、それが「羹に懲りる」ようなものでない限り、ひとつのパターンを形成してしまい、その後も似た場面に出会うたびに繰り返されがちです。
ある段階での指導に際し、よく調べず、考え尽くすことなく行った「とりあえずの選択」を見逃したり許してしまったりしたことが、次に控えるもっと重要な局面での同じような行動を助長しかねません。
❏ 自分を知り、偶然との出会いを招き入れるために
眼前に迫る進路選択は、生徒にとって他人事で済ますことができないものですが、重たい課題だけに、向き合うことをためらったり、先送りしたり、その重さから逃れようとする生徒もいます。
だからといって、いつまでも向き合わずにいたら、自分がどんな価値観を持つかに気づくこともできません。何より、先に進まなければ、クランボルトが言うところの「偶然との出会い」もありません。
様々な価値に触れ、自分がそれにどう反応するかを客観的に見てこそ、自分がどんな人間なのか(資質や志向を備えているのか)を知ることになるのだと、生徒にしっかり伝えましょう。
自分を知るという目的で職業適性テストなどを活用するケースもありますが、判定結果を鵜呑みするのは、グルメサイトの口コミを信じ込むのと似たようなもの。あくまで参考にとどめ、体験を通して感じたこと/考えたことを大切にすべきだと思います。「冷暖自知」です。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一