生徒をそれまでやらせたことがないことに挑ませれば、最初の戸惑いは当たり前のこと。例えば、拙稿「教科書をきちんと読ませる」や「質問を引き出す」でご提案したような活動でも、教室に初めて持ち込んでみたときから何の障害もなくスムーズに運ぶのはむしろレアケースです。
最初のトライで上手くいかないからといって、その後の挑戦を止めてしまっては生徒はいつまでたってもできるようにはなりません。やらせようとしたのが必要なことなら、引っ込めてしまうのではなく、生徒がうまく反応できなかった原因を取り除くことにこそ注力すべきです。
2018/12/19 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 戸惑いだけが原因なら、習慣化で問題は解消できる
初めての体験で戸惑っただけなら、その経験をもとに二回目はもう少しうまくできるはずですし、経験を重ねるにつれて、どんどんうまく要求に答えられるようになるのではないでしょうか。
教室で初めて試みたときに、生徒がうまく反応できない様子を目の当たりにして、「これはうまくいかないな、やめておくか」とあきらめてしまっては、新しい学ばせ方への転換が遅れるばかりです。
初めての試みがうまくいかなくてもあきらめないこと、目指すものをしっかりイメージして粘ることがここでのポイントだと思います。
一度経験させたことですから、二回目以降も同じ手順ならば、生徒は次を予測した行動が取れますし、どう動けば期待された行動を実現できるかを次第に考えられるようになるものです。
もちろん、指示があいまいだったり、生徒が手順を飲み込む前に活動を開始してはどうにもなりません。
必要ならば、取り組みや作業の手順をまとめたプリントを配り、生徒自身に読ませてから、ポイントになるところを「問い掛け」で確認していくという方法もお試しください。
❏ 振り返りを通して、次の機会での修正を図らせる
初めてのトライから幾度かの経験を経て全体の流れを生徒が掴んでくれたら、一度しっかり振り返って、手順や局面ごとのポイントを確認することで戸惑いの解消がさらに図れます。
全体のプロシージャ―(活動の配列)を板書した上で、注意すべき点や上手くいくためのコツを生徒に発言させながら書き込んでいくような場面があってもよさそうです。
ただし、手順を理解して表面上は戸惑いが消えても、それが目的意識を持った取り組みにはなっていないかもしれません。
一つの手順が後の流れにどう影響を及ぼすかを考えたり、次のステップで上手く流れに乗るために予めどうしておけば良いのかを考えられるようにさせたいものです。
生徒の内で「次の展開を読んで今どうするかを考えること」が習慣になれば、理科の実験や家庭科の実習など、その時々で具体的な手順が違う場合にも応用が利くのではないでしょうか。
❏ 成功パターンをモデルとして見せておく
冒頭にあげた、教科書を読み、問いを立てたり、学び終えて質問を作ったりする作業は、知的要素が複雑に絡み合いますので、単純に「手順を理解し再現する」だけでは対応できません。
スタートでの戸惑いの最も大きな部分は「どういうアウトプットが期待されているのか」を生徒が把握できないことかもしれません。
単に「テクストを読んでそこに問いを立てなさい」と言われても、生徒はピンときませんし、何がアウトプットできればテクストを理解できたことになったのかも想像がつかないのではないでしょうか。
この最初にあるハードルをクリアさせるには、まずは先生がモデルを示してあげることだと思います。
先生が、教科書を音読して見せながら、「〇〇って書いてあるけど、どういうこと?」「ここでの条件分けはなぜ必要なの?(=これがないとどうなるの?)」と問いを立てながら読み進める様子を「一人問答」でやってみせるのは如何でしょうか。
問答の様子をみせながら、役割を少しずつ生徒に投げていけば、モデルに倣いつつ生徒は自分でも徐々にできるようになっていきます。
できる生徒が少しずつ出てきたら、そのアウトプットをシェアして生徒間の相互啓発で学ばせるフェイズに進みたいところです。
併せて、別稿「発言がなかなか出ない/思考が膨らまないとき」で書いたこともご参考にしていただければ幸甚です。
❏ 与えたタスクに生徒はゴールが見えているか
何らかの活動に取り組ませるときには、活動を通じて目指すべきゴールを生徒がイメージできていることが大切です。
教科書や資料を読ませるときなら、「読んで理解したことを元に考えるべき課題」を具体的に与えておくることが肝要です。「設問が与えられた状態」を予め作ってから本文に向き合わせましょう。
答えを導くべき問いがなければ、教科書や本文を読むことに目的すら持てません。学習目標は解くべき課題で示すのが効果的です。
問いが違えば、テクストから拾い上げるべき情報やその編み方も変わってしまいますので、具体的な問いが与えられていないということは、何が求められているかわからないということです。
各教科の専門家である先生の頭の中には、どこに注目して何を理解すれば良いか明確なイメージがありますが、その単元を初めて学ぶ生徒との間でそのイメージは共有されていません。
そのイメージを共有するための材料が、「読ませたり、調べさせたりする前に与える問い」です。生徒が戸惑いを見せたら、「生徒との間で問いが共有できているか」を疑ってみる習慣を持ちましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一