対話を通じた深い学びを実現するには、ペアやグループでの生徒同士の話し合いに加えて、問答を通じた「先生との対話」や、教科書や資料、副教材を問いを立てながら自力で読んで理解する「テクストとの対話」の充実も図る必要があるのは、昨日の記事で書いた通りです。
また、生徒同士の対話にしても、バリエーションは顔を突き合わせ直接的に交わす会話(話し合いや教え合い)だけではありません。
先生と他の生徒の間で行われている問答(発問とそれに応じた発言)や各生徒が調べた/考えたことを発表しているのに耳を傾けつつ、あるいはシェアされた他の生徒の答えを読みながら、自分の考えや答えをより良いものに改めていくこともまた、対話的な学びのひとつです。
2018/06/26 公開の記事をアップデートしました。
❏ 対話への参加姿勢を作る、先生からの問い掛け
直接的な話し合い以外の、こうした対話を教室で作り出していくには、まずは生徒がそれぞれに考えたこと(答えや意見)をきちんとアウトプットさせ、クラス全体でシェアすることが大前提。
先生方からの頻繁な問い掛けはその起点になりますし、ICTを上手に活用することもそうした取り組み/活動を円滑なものにするはずです。
その上で、他者の意見や考えをただ聞くだけでなく、それをヒント/土台に、自分の考えをより良いものに作り直していくことを習慣とさせるべく、「どう思うか」「対案はないか」と生徒に問い続けましょう。
そうした問いに応じることを繰り返す中で、他者の意見や主張に触れるたびに同じ問答を生徒が自らの内にできるようになってくるはずです。
先生方が正誤判断を行い、まとめ直し、次の内容に進んでいく、という教室でよく見かけた風景には、生徒間の対話は生まれません。
先生を扇のかなめとする生徒との問答でも、生徒から戻ってきたボール/発言を他の生徒に投げ直すことで繋いでいくようにしたいところ。
答案だって、先生が丁寧に採点/添削して当人に返却するだけでは、他の生徒とシェアできず、そこで生まれるはずだった「相互啓発(対話による思考の拡充・深化)」も働かずじまいです。
❏ 質問することをタスクに傾聴と対話の姿勢を持たせる
ある学校を訪ねてみたとき、個々の生徒に割り当てた調べ学習の結果を順番に発表する場を毎回の授業で設けている先生がおられました。
どの生徒の発表もよく準備されたもので立派でしたが、それ以上に目を惹かれたのは、発表者に対して他の生徒が次々と質問をする姿です。
さながらゼミでの討論のように、「どうやって調べたのか」「この観点でも同じことが言えるのか」と鋭いツッコみが続きます。
生徒が元々優秀だからというだけではないはずです。そうした場面を作り、質問をすること自体が大事という意識付けを徹底して行っているかどうかで、生徒のふるまいは変わります。
質問することを求められ、それを満たそうと発言にしっかり耳を傾け、突っ込みどころはないか考えることを繰り返すうちに、聞いて理解する力、問いを立てて思考する力も養われていきますし、質問をするという行為そのものへの躊躇(抵抗感?)も取り払われていきます。
生徒からの質問や意見がなかなか出ないからといって、教える側が諦めてしまったら、その先の進展はありません。慣れてくれば、徐々に生徒の行動も変わってくるはず。それまで粘りましょう。
❏ 同級生からの質問を刺激に学習者として大きく成長
前段では、発表を聞いて質問をする側の生徒の素晴らしいパフォーマンスに触れましたが、発表している生徒の準備やプレゼンも見事でした。
最初から高いクオリティの発表ができた生徒ばかりではなく、他の生徒からの質問を浴びせられる中で鍛えられてきた部分が大きいようです。
調べ損ねや見落とし、論理の綻びを突っ込まれて、必死に考えて質問に応じようとしている発表者の姿を目の当たりにすれば、自分の番にどう備えるか真剣にならざるを得ません。
発表の場は順番にいくどか回ってきますので、初回に悔しい思いをした生徒は、2度目、3度目のトライではリベンジしたいと思うはず。他の生徒から受けた質問から、さらなる考察の糸口も得られます。
もちろん先生からの講評も大事でしょうが、立場を同じくするもの(同級生)から突き付けられた疑問には大きなインパクトがありそうです。
こうした経験の中で、質問をすることが互いを高めあうことになると学べば、互恵意識で結ぶ学びのコミュニティの形成にも加速がつきます。
❏ 他者の評価/所感に触れる機会は作られているか
生徒に発表の場を与えることに注力しているクラスでも、発表を見聞きして他の生徒が感じたこと/考えたことを言葉にさせることには、まだ踏み込んでいく余地があるかもしれません。
相互評価のためのシートを用意して、評価所感を文字に起こさせているケースでも、それを発表させたり、生徒同士でシェアする場面はあまり多く見かけないように思います。
ある意見や発表に対して他の生徒がどう評価しているか、どこに着目しているかを知ることも大切な相互啓発です。
急速に整備が進んできた教室でのICT環境を活用すれば、生徒のスマホやタブレットから相互評価や所感を瞬時にシェアするのも容易です。
無記名の方が意見表明への心理的ハードルは低いかもしれませんが、記名式にすることで「自らの発言に責任を持つ」という態度を養うことも必要かと思います。(SNSの利用マナーを学ぶ場にもなるかも。)
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一