所謂「アクティブラーニング的な要素を取り入れた授業」が広く行われるようになった学校で、生徒の平均学習時間が減っているというデータがありました。興味がわいて調査してみたところ、ひとつの学校の特異な事例ではありませんでした。
自己評価や学習時間調査の方法は各校それぞれであり、また精度も良くない訊き方をしていることもあり、集計結果を鵜呑みにすることはできませんが、生徒が学びに主体的に関わろうとさせる中、実際の学習時間が減る/伸びないことにはどうにも腑に落ちないものを感じます。
2018/03/13 公開の記事をアップデートしました。
❏ 能動的に学ぶようになれば、学習時間も伸びるはず…
別稿「学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められる」で書いたことですが、教室での対話的で深い学びを実現するには、個々の生徒による相応の授業準備(=予習)が必要です。
また、教室での協働を通してその日の授業の課題に解らしきものが得られたとしても、学びを深く確かなものにするには、生徒一人ひとりが課題に立ち戻ってその仕上げに取り組む必要があり、事後学習や復習にも一定の時間が投じられて当然です。
アクティブラーニング的な要素を取り入れる授業が増えたとの認識がありながら、授業外学習に投じる平均時間が減っている/延伸が図られていないようなら、予習・授業・復習の一連の流れを振り返って「学びのデザイン」全体を見直してみる必要があると思います。
❏ 教室を盛り上げることが目的ではない
授業にアクティブラーニング的な要素を取り入れることの目的は、主体的・対話的で深い学びの実現を通して、学力の三要素を生徒に獲得させることにあるのは、今さら言うまでもありません。
それまで寝ている生徒もいた教室で、皆が元気に活動している様子には手応えを感じるかもしれませんが、一人ひとりの学びが深まり、確かな学力が形成されていなければ何にもなりません。
対話を通じて、生徒が気づきを交換し、知識や発想を拡充できたとしても、それで学びを完結しては、学びは深いものにも確かなものにもならないかもしれません。中には、フリーライダーだっていそうです。
教室で得た知識と気づきを携えて、個々の生徒が課題に立ち戻って自分の答えを仕上げることに取り組ませるようにすれば、結果的に家庭学習時間は自ずと延伸するはずです。
対面による集団で行う学習活動にこれまで以上に多くの時間を配分し、対話を通した学びの深まりを図ろうとするなら、これまでは「教えること」でカバーしていた部分を、個々の生徒による授業準備/予習に移していく必要もあるはずです。
アクティブラーニング的な要素を取り入れようとするなら、生徒にはより多くの授業外学習(予習・復習)を求めることになるのは必然です。
❏ 答えらしきものを見つけて学びは終了?
協働で課題解決に当たらせると、自分が深く関わらないうちに、何となく答えが出来上がっていくような場面があります。
こうなると、問題意識を十分に持たない生徒は、それ以上に問題を掘り下げていく必要を感じません。
やる気のある生徒でも、答えが出た以上、その先にやるべきことを見い出せず、気持ち悪さを抱えながらそこで学びを止めるしかありません。
また、学びの途中でわからないことを見つけても、教え合いや学び合いで不明が解消されてしまえば、当座の用は満たされてしまい、それ以上調べたり、考えたりする必要を感じなくなってしまいます。
こうした「学びを中途半端に切り上げさせてしまう要因」の発動を抑えるために、何らかの対策を講じる必要がありますが、別稿「終了時の工夫で成果を高める(記事まとめ)」にまとめた以下の記事が、対策立案のご参考になろうかと思います。
❏ 予習をしてこないなら、予習ができる状態を作る
教室内では対面での学習活動で行うべきことに取り組ませたいが、生徒がなかなか予習してくれず、うまく回らないというお声も聴きますが、そんなときは「生徒が予習できる状態を作ってから教室を離れさせているかどうか」を振り返ってみるべきだと思います。
もし、生徒が自力で教科書を読んでその内容を理解できないというのであれば、日々の授業の中でも生徒に教科書や副教材を読ませ、そこに書かれていることを言語化させる練習を積むべきでしょう。
できないからといって先生が「読んで理解する」という本来は生徒が行うべきところを肩代わりしていては、いつまでたっても生徒はできるようになってくれません。
説明してあげないときちんとした理解が期待できないというのは、もしかしたら先生方の思い込みかも。できないのではなく、やらされていなかったから生徒はできない自分を放置したのかもしれません。
どうしても説明が必要な個所があるなら、その部分だけ解説動画にしておけば、生徒はタブレットなどで視聴して勉強できますし、後でわからなくなっても動画を再生すれば、解説を聞けます。先生方にしても、どの教室でも繰り返してきた説明を収録の場1回で済ませられます。
❏ 不明の解消にも、まずは自力で取り組ませる
大学の授業評価アンケートのデータを見ると、ティーチングアシスタント(TA)がついて学生の学びを支援しているクラスの方が、授業外学習時間が短くなるという傾向があります。
わからないことがあったり、何かに興味を持ったりしても、自分で調べるまでもなくTAに尋ねれば当座の用が足りてしまう状況では、それ以上の学びに向かう必要がなくなってしまうのかもしれません。
生徒同士の対話的な学びは、気づきの交換による深い学びの実現に欠かせないものではありますが、不明解消に「教え合い・学び合い」だけを頼りにさせては、大学生と同じことが起きそうです。
先生方が、生徒の質問にすぐに答えてあげるのも同じことですよね。自力で学ぶ力を育むのに重要な、最初に選ぶ”対話の相手” は、手元にある教科書や参照型副教材であるべきだと思います。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一