2018年の春に高校に迎え入れる生徒は、2020年の高大接続改革入試に初めて挑む学年です。1年生のうちから新しい学力観に沿った教え方/学ばせ方に切り替えないと、3年後の進路実現に際して後手を踏むリスクが高くなりそうです。
指導方法については主体的・対話的で深い学びの実現に向けて、各地で実に様々な取り組みがなされていますが、もう一つ忘れてはいけないのが考査問題のあり方です。
❏ 理解したことをもとに自ら考えて表現する力
生徒は考査問題に合わせて学習方法を身につけ、自分なりの学びのスタイルを確立していきます。
高大接続改革では、「読んで理解したことをもとに考えて、相手の理解と共感を得るように表現する力」がこれまで以上に重視されます。
普段の授業にまじめに取り組んだか、覚えるべきことをきちんと覚えたかを試す設問に偏っては、如上の力を測定できないばかりか、3年後に試されることになる力を養う方向に学びのスタイルを誘導できません。
受験期を迎えてやっと対策を講じた生徒と、3ヵ年を通してあるべき方向を見据えて歩を進めてきた生徒とでは到達できる範囲に大きな差が生じるのは明らかではないでしょうか。
来春に入学してくる生徒を迎える準備として、まずは、考査問題の出題方針をしっかりと考えておきましょう。
❏ 小さな配点では、分解能も誘導力も不足する
定期考査では一定の割合で応用問題も課しているかと思いますが、全体のごく一部を占めるだけで、配点も1割程度ということも多いのではないでしょうか。
配点が小さすぎると、学力を点数に変換するときの分解能(解像度)が不足します。
設問数が極端に少ないと、測定できる事柄も限られ、点数に反映されない部分が増えるため、できるようになっていることが点数に現れず、できなかったことも減点に繋がらないという事態が頻発します。
これでは、学習の成果も正しく測定できないばかりか、次に向けた課題形成もままなりません。
また、応用問題を課したけど、配点10点のうち5点以上の得点者は数人のみという状態では、一部の成績上位者を除けば、応用問題を捨てても”実害”と言えるほどのダメージは感じないのではないでしょうか。
これでは、それまでの取り組みの甘さへの反省も、次は頑張ろうという決意も生徒の中に生まれないはずです。
❏ 授業内外で扱った教材からの出題が抱える限界
繰り返しになり恐縮ですが、高大接続改革を境により強く求められるのは、「読んで理解したことをもとに考えて表現する力」です。
授業中に扱って、内容を理解させた文章を用いた問題では、問い方にどんな工夫をしようとも、いくら精緻に答案を確かめてみても、「読んで理解する」という部分ができているかどうか判断できません。
現実の世界での言語活動では日常的に使っている「未習語句の意味を、構造や文脈から類推する力」を試すこともできないはずです。
以前の記事「考査問題に使う初見材料をどこから調達するか」でも書いた通り、初めて読む文章を使わないと、高大接続改革で求められる学力を身につけてきているのか測定ができないということを前提に、出題方針を検討していく必要があるということです。
英語や国語などの言語系教科以外でも、授業で学んだのと設問条件が異なる問題や、授業で扱わなかったことを題材とした学習型問題などを課していく必要があるはずです。
❏ 新しい学力観に沿った定期考査への転換に向けて
2020年入試に初めて挑むことになる学年に課す定期考査問題を作成するのは、来年の5月でしょうが、どのような出題構成にするのか、今のうちから考えておくようにしましょう。
生徒を迎え入れる前に、年間授業計画やシラバスを作ると思いますが、その改訂・起草作業に取り掛かる前に完了する必要があるからです。
考査問題を変えるとなれば、当然ながら指導法も変わります。定期考査で課す問題は、指導を通じて達成すべき学習目標に具体的な形を与えたものですから、出題方針の変更は、指導主眼の変更に他なりません。
当然ながら、指導計画も更新されますし、教材の扱い方や、授業開きで生徒に伝えるメッセージ、予習復習で課すべきタスクも変わります。
如上の書面を起草し、校了にすべき期限は決まっているはずなので、そこから逆算すると考査の出題方針についての検討と協議に着手すべき時期は自ずと明らかなのではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一