年度替わりは、生徒が互いの頑張りを支え合う集団作りの大切な時期です。新入生はもとより、進級する生徒もそれぞれ何かしらの希望や決意を抱いて新学期を迎えます。特に最上級生となる生徒は自らの進路希望の実現に向けて気持ちを高めていますので、「志望を同じくする生徒が互いの頑張りを支え合うコミュニティ」の創出に何か仕掛けるのには、今が絶好機ではないでしょうか。じっくり作戦を練って臨みましょう。
2017/03/31 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 支え合い、刺激し合ってこそ、頑張り続けられる
生徒一人ひとりがきちんと自己管理して、進路希望の実現に着実な歩を進められれば、それに越したことはありませんが、実際には忙しさもあれば、迷いや誘惑もあって決して容易ではないようです。
進路希望の実現への意識を高く維持し、それを行動に起こして継続するには、「生徒一人ひとりの自律」を期待するだけでは限界があります。
志望を同じくする生徒が、互いの頑張りを支え、刺激し合いながら成長する集団、互恵意識で結ぶ学びのコミュニティを作ることが、一人ではできないことを可能にするのではないでしょうか。
周囲の生徒が頑張っている姿に刺激を受けることにも、眼前の課題を乗り越えるのに生徒が互いに知恵や発想を交換することにも、大きな価値があります。(cf. 答案のシェアや発表で相互啓発を正しく働かせる)
昔から進学校では「受験は団体戦」 という言い方をすることがありますが、まずは集団を形成しないことには団体戦になりえません。
❏ 団体戦というからには、まずはチームを作らないと
同じような志望を抱く生徒が継続的に集まれる場を、様々なチャンスを生かしてできるだけ早い時期に整えることが大切です。
新学期の授業が始まって、部活も最後の公式戦に向けて練習に熱がこもるようになっていけば、年度替わりに抱いていた熱い決意もいつのまにか薄まったり、日常の中に埋もれて行ったりするものです。
部活を引退したタイミングで再始動もできると思いますが、それまでの数か月の遅れは避けられません。
受験モードに切り替わった後もそうですが、部活動や学校行事の準備も並行する時期にも、志望を同じくする他の生徒の頑張りから大きな刺激を受け、やるべきことを見失わないことには大きな意味があります。
志望を同じくする生徒を集めるには、様々な機会があるはずです。
- 大学から先生や広報職員や卒業生を招いての進路講演会
- 志望大学群の出題例を題材にした過去問チャレンジ
- 探究活動や課題研究における中間発表
などは、絶好のチャンス。是非とも上手に活用したい場面です。
❏ 大学から先生を招いて行う説明会も一つのチャンス
多くの生徒が志望する大学から先生を招いた大学別説明会が開催できるなら、それも一つの機会として大いに利用したいところです。
しかしながら、ただ呼んで好きに話をしてもらっても、自分の大学に存在する学部や学科、特色や強みをアピールされるだけになりがちです。
生徒にも認識できるであろう「社会が取り組む課題」を例にとり、それらの課題に各学科がどのようにアプローチしているのか(学びと社会課題の接点)などを話してもらうようにしましょう。
少し気が利いた入試広報担当者なら、自学の各学科の研究室が他大学や企業とどんなコラボレーションをしているかまで話せるはずです。
生徒の内に芽生えていた「その学部で学んでみたい」という意欲を刺激し、より具体的なものにする助けとなるため、その後の目的を同じくする生徒の集団作りがしやすくなります。
なお、せっかく説明会を開催しても、多くの生徒が参加しなければ、効果の対象は狭まります。行事にじっくり向き合える、忙しすぎない学校生活でも書いた通り、生徒に対する事前の告知の徹底や、他の行事日程との調整なども重要です。
❏ 授業内外の過去問演習は、集団形成の絶好機
高大接続改革や新課程への移行を機に、生徒が目標とする大学群の出題研究にはこれまで以上に先生方の熱が入ったと思いますが、そこでの研究成果を、生徒に伝える場も、如上の集団作りに利用できます。
新傾向問題などを進路部の掲示板や進路通信に掲載して「こんな問題が登場した」と生徒の関心を予め刺激しておき、問題解説や対策方法の研究会を開催してみては如何でしょうか。
その大学に興味を持っている生徒の中には自発的に参加してみようと思う生徒もいるはずです。
事前に行っておいた進路希望調査で、研究会で取り上げる問題の出題校を志望校に挙げていたのに、参加申し込みがない生徒には、直接声をかけて集団に取り込むようにすべきであるのは言うまでもありません。
授業外で研究会を開くのに負担が大きければ、目標大学群の新傾向問題を授業の中で「任意の挑戦課題」として提示し、後日”答え合わせ会”をどこかで開催しても良いと思います。
任意課題としたときに個別添削だけで対処しては、集団作りに利用できません。志望を同じくする生徒が答案を持ち寄って、解法の吟味に協働で取り組めれば、集団の中での相互啓発もより大きく働くはずです。
こうした研究会や答え合わせ会を開催するとき、個々の先生がご自身の担当クラスの生徒だけを対象にしては、総コストが膨らむばかりです。
学年での取り組みとし、教科内で分業体制を採れば、効率的に運用できますし、志望を同じくする生徒を学年全体から集められます。
❏ 志望学部・学科ごとの集団形成に探究活動を利用
目標を同じくする生徒が互いの頑張りを支える集団を作るには、志望大学ごとに加えて、志望する学部・学科系統別に行うことも可能です。
既に医療看護系などを志す生徒を対象とした選択科目を設置するなどの方法でコミュニティを作っている学校もありますが、これを他の学部・学科系統にも当てはめてみる感じでしょうか。
探究活動や課題研究の中間発表などを、研究の対象としている課題領域や、立ち位置にしている学問領域ごとにまとめて行うのも可能です。
似たようなテーマに取り組みながら、互いがやっていることを全く知らないのでは、相互啓発も十分には働かなくなってしまいます。
探究型学習を使った進路指導という発想に照らせば、是非とも設けたい機会の一つです。なお、最終的な成果発表会では、活動がそこで終了となってしまいがちで、その後の進展があまり期待できません。
中間発表の段階で、同じようなテーマの問題に対して、異なる切り口からアプローチしている生徒たちが、互いの取り組みとそこまでの成果を知れば、そこから先の展開も大きく期待できるのではないでしょうか。PISAでも問われた「協同問題解決能力」の育成にも繋がります。
探究を進めながら、「大学に進んで学びたいこと」「学んだことを通して社会と持つ接点」をより多角的に考える工程を、時間と場所を共にしながらシェアできれば、自分の未来(あり方・生き方)により深い考察ができるのではないかと考えます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一