試験(模擬試験や定期考査)が目的とするところは、その時点までの学習の成果を測定し、より学力の向上(より高い次元の学力の獲得)に向けた課題形成(学びをどう進めるべきか見つけること)にあります。
学力が正しく形成されたか、何が足りていないのかを明確に検出できる内容の問題と採点基準が必要になるのは言うまでもありませんが、集計方法も大切です。せっかく検出した結果も「総合点」で丸めてしまっては、目に見える形で表に出てきてくれません。
学力形成上の成果と課題が数字にきちんと表れるような得点集計の方法を考えていくことは、学習指導をより良いものにするにも不可欠です。継続的に取り組むことができるよう、手間を最小限に抑えつつ、現実的な方法を確立していきましょう。
2016/11/15 公開の記事をアップデートしました。
❏ まずは、既習問題と初見問題の得点集計を分けてみる
新課程への移行で、獲得させた知識・技能が「生きて働いているか」を確かめる必要性が高まりました。
学ばせた事柄をそのまま問う設問や、授業で扱ったのと同じ問題だけで構成された定期考査問題では、知識・技能の獲得は確かめられますが、それらが生きて働いているかは判りません。試せているのは、答案上に再現できるまできちんと覚えたかどうかだけです。
授業で学んで獲得した知識/理解したことが生きて働くものになっているかは、それらを活用すれば解ける「初見の問題」を課して確かめるしかありませんので、定期考査の問題には、当然ながら、既習内容をそのまま問う問題と、初見の文脈(本文や資料)や条件を設けた問題が混在することになるはずです。
まずは、既習問題と初見問題とで、得点の集計を分けるところから始めてみるのは如何でしょうか。
例えば、大問5つで構成されている定期考査問題のうち、大問5と大問4の後半が「初見問題」なら、その部分とそれ以外の部分で小計を出すだけですからそれほど手間は増えないはずです。
❏ 集計を分けたら、散布図などを使って相対化
両者の集計結果をそれぞれ縦軸・横軸に配して散布図を作れば、座標内の位置でその生徒の「学びの特徴」が読み取れます。下図のような結果がでたとしたら、近似線から下方に離れている生徒ほど、「習ったことを覚えるだけの勉強」しかできていないことになります。
このグラフを答案返却時に配布する採点講評に掲載して生徒の目に触れるようにすれば、生徒は散布図中で自分の位置を確認できます。
近似線との相対位置から今後力を入れるべき方向を探ることもできるほか、縦軸・横軸の「中央値」で座標面を分割すれば、「やり直し補習」 に参加させる生徒と「発展問題演習」を受けるべき生徒を峻別するのにも使えそうです。
既習問題はOKでも初見問題はNGという生徒は、予習で自分の答えを作ってみることもなく、与えられた答えを覚えることで済ませてしまう誤った学習スタイルを染みつかせてしまっているのかもしれません。
逆に、初見問題で示すパフォーマンスが既習問題で発揮できない場合、「過去の貯金」で点数を稼いでいるだけかも。貯金は直に失われ、いずれは赤字に転落する日が危惧されます。
また、このような散布図をクラスごと、担当先生ごとに作って比べてみると、それぞれの学ばせ方/指導法の特徴も浮かび上がってきます。
既習内容の定着には十分な効果を挙げていながら、初見問題に知識・理解を適用させる部分に弱みがあることがわかれば、後者に強みを持つ授業でのやり方を採り入れてみるなどの改善策にも繋がっていきます。
❏ 出題内容を内容領域と学力要素のマトリクスに整理
定期考査で出題されているすべての設問は、下表のように
- 単元や項目といった内容での区分(獲得しているかどうかを測定する知識・理解のタイプや領域)
- その問題が測定している学力要素(資料を正しく読み取る力や他者の納得を得られる論証の力などもその一つ)
の2つを縦横の軸とするマトリクスのどこかに置くことができます。
右端と下端の「小計」は、内容区分ごと、学力要素ごとのスコアです。
縦軸(内容区分)は、定期考査や模試において「大問」という括りでまとまっているのが普通でしょうが、複合問題(複数の単元の内容を組み合わせた問題)では、小問をグループに分けることになります。
一方、学力要素は各大問内のそれぞれの小問にぶら下がって(セットされて)いることが多いかと思います。解答用紙には要素ごとの小計欄を設けて、該当する問題群の得点を足しあげる必要があります。
毎回の100点満点/50分前後のテストでは、マトリクスのすべてのセルを均等に埋めるような出題は無理でしょうが、標準的な年間5回の定期考査に加えて、定期考査以外で提出させた課題の採点結果なども合わせる(≒複数のマトリクスを重ねて串刺しにする)と、すべての学力要素(≒観点別)の「満点」はある程度の大きさになり、評価材料が乏しい箇所も少なくなってくるはずです。
学力要素を評価観点と結びつけて設定すれば、観点別評価を出すときにも十分な材料を得て、客観的な結果が得られるのではないでしょうか。
測定項目ごとの満点の大きさは、生徒が獲得した学力を点数に変換するときの目盛りの細かさ(≒解像度)です。小さな満点では、ちょっとしたケアレスミスでの失点も、相対的な位置を大きく変えてしまい、評価のブレが大きくなるばかりです。
紙の答案を手で採点しているうちは、増える手間が少々大き過ぎるでしょうが、採点支援システムの導入が進み、その機能を十分に活用できるようになれば、現実的なところになっていくと思います。
❏ 力を入れて指導した要素だけでも採点を分ける
全問題について、内容区分と学力要素ごとの小計を取るのは、手間数の上でちょっと無理という場合も、当期の指導で力を入れてきたところを試した問題だけは、別途小計を出しておくようにしたいところです。
総合点の中に含まれる形では、狙った力がどれだけついたか、定量的に把握することができません。
答案を返却された生徒自身も、頑張ってきたことがどれだけの力になっているか、点数で確認できて、自分の相対的な位置を知ることができるかどうかは、次に向けた学びへの意欲も大きく変えるはず。
複数の先生が同じ科目を教えているなら、なおさらです。共有した指導目標の達成に向けて、それぞれが最善と考える方法で指導を進めてきたら、その成果を定量的なデータで比較すべきです。
効果測定の結果に基づき、優良実践を共有し、それを土台にさらなるブラッシュアップを重ねていかない限り、指導法の改善は着実なものになりませんし、先生ごとの指導技術にも差が広がるばかりです。
ただでさえ忙しい中で、採点業務にそんな手間は加えられないというご意見ももっともですが、主旨の異なる設問は得点を分けて集計することで、課題の所在が特定しやすくなるのは間違いありません。
採点しながら感覚的に手応えを確かめることはできるでしょうが、記憶はどんどん上書きされて、時間が経つほど曖昧になります。しっかりとデータを残さないと他のクラスとの比較(相対化)もできません。
- 考査問題の改善が授業も変える(全3編)
- 考査問題の妥当性を評価し、最適化を図る(全5編)
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一