せっかくの授業内活動を活かすために(その3)

授業時間内の活動性を高めることには、①生徒の頭の中を覗く「観察の窓」を開く、②他の生徒の意見や考えに触れさせて相互啓発を働かせる、③学習方策や知識の不足を生徒が相互に補完する、④知識や経験を交換することでの発想の拡充を図る、などの狙いがあるというのが前稿で申し上げたことです。
これらに加えて、

  • 活動課題に取り組む中で使用機会を自然に増やし習熟を促すことや
  • 生徒一人ひとりに役割を持たせることで能動的に関わらせる

といった効果も同時に狙っていきたいものです。
❏ 目的を達成しようとする中で意識せずに学びに集中
学んでいる事柄を実際に使ってみる機会や反復の回数を増やせば、その分だけ習熟も図れますよね。
反復すること自体を目的に、回数を指定して生徒に取り組ませるやり方では、単なるノルマになってしまうことも少なくありません。
ノルマという響きにあまり好意的な気持ちを持てないのは、生徒に限らず誰しも同じでしょう。言われたからやっている、とりあえずこなしていれば怒られないという意識では、上達も見込めません。
練習すること自体ではなく、何か他にターゲットをおいてそれを達成しようとする中で、自然に学びが発生するような仕掛けがあれば、ノルマではなく楽しみながら習熟が図れます。
例えば、ある例文を覚えさせるために、伝言ゲームを応用した例もありました。3~4人のグループで生徒一人に例文カードを見せて、次の生徒に口頭で伝え、最後の生徒が書きとって、完成した枚数を競います。
古文や漢文で文章を読ませ、そこで起きていることを絵にかき起こすというタスクなら、知らない単語があってもごく自然に辞書を開きます。単語調べの宿題が与えられたときとは、生徒のノリも違って見えます。
ディベートの場でも、お題に沿った語彙リストを渡しておけば、議論を進めようという意識が優先する中で、参照したり調べたりしながら語彙の獲得も進めば、言語使用の場面もおのずと増えます。
反復だけに頼らず練習を自己目的化しないタスクは、活動の成果を可視化する(英語の音読を例に) のに近いレベルで、生徒の集中力や積極姿勢を引き出す効果があります。
❏ タスクを考案するときに注意したいこと
ここで注意したいことが1つ。そのタスクに必要となる教科に固有の知識や技能は学習者としてのステージに応じたものであると同時に、タスクが求める知的水準は、年齢に応じたものであるべきということです。
中学生が英語を学ぶとき、使用可能な言語材料は限られますが、生徒は中学生なりの知的関心を持っています。両者のギャップが大きくなるほど、生徒はタスクに夢中になれません。
でも、必要な語彙をリストにして渡したり、未習の単元のものであっても使えそうな例文集を与えておくなど適切な支援を併せ講じれば、「何とかなりそうだ」 との展望のもとで生徒は自ら工夫してくれるものです。
互いに助け合える場も併せて用いれば、「習っていない/教えていないから」 という制限を超えていくのはけっして無理な要求ではありません。生徒のポテンシャルを高く見込むことから、伸ばす指導ができると考えます。
また、課題の仕上げは個人のタスクに戻すのも忘れないようにしたいことのひとつです。例文の暗唱など最後の仕上げは個人で取り組ませ、きちんとアウトプットさせないと、単に盛り上がっただけで終わるリスクを高めます。
効果的なタスクを考案するのは大変ですが、先生方が教科内で、あるいは学校の枠を越えてアイデアを共有し合えば、手札は着実に増えていくのではないでしょうか。
❏ 役割を持たせ、失敗を恐れる気持ちを超える動機を
チーム(ペアやグループ)の中で一人ひとりが何らかの役割を引き受けることは、活動に対して積極的な取り組みを引き出す大きなカギです。
ある科目を苦手としている生徒は、トライしてはじき返させることを繰り返すうちに、できない自分に向き合うつらさから、「やろうとしなければ、嫌な思いをしなくて済む」 という意識に傾きます。
消極的な態度が、個々の目標をクリアすることを妨げ、苦手意識をますます強めるという悪循環を断ち切るには、>失敗をおそれる気持ちを強さで上回る動機を与えることが重要です。
自分が暗唱した例文を、ペアを組んだ相手が書き取って提出するとなれば、必死に読んで覚えなければなりません。
パラグラフごとに切り分けて別の紙に印刷された文章を読んで、グループでストーリーを再構成するというタスクなら、嫌だろうがなんだろうが、自分のパートを放棄するわけにはいきません。
足を引っ張ったことで感じたうしろめたさが消極性の引き金になるかもしれませんが、役割を放棄することができない以上、どうすればよいかを考えることを優先します。協働で取り組むタスクであれば、互助も促されます。
教室内での良好な人間関係が活動を行うのに欠かせないとの考え方もありますが、その一方で、活動を通じて関係性が作られる、協働の場面を重ねることで互助・互恵の意識が育まれるという側面もあるはずです。
個人の役割を伴わないグループワークでは、フリーライダー(ただ乗りする人)が現れます。その場はしのげても、学びの成果を積み上げられず、先に進んで、あるいは高校を卒業してから痛い目をみるのは本人です。どうせ痛い目を見るなら、安全が確保されている高校までの教室の中にしたいものです。


追記:

こうしたご提案をすると、「うちの生徒には無理」 と切り捨てられることがありますが、やらせてみなければわかりません。

一度やらせてみてダメでも、単に慣れていないだけなのかも。繰り返しているうちに生徒も慣れて、方法を身につけていくことこそ、指導の場で目指すべきことだと思います。

どんな行動が期待されるのか、許容されるのか、空気を読むことに生徒は敏感です。はじめて経験する場には、戸惑って当然。安心感を持つには多少の時間がかかります。この段階で教える側が心を折らないことが大切です。

「教える側のアプローチが改善すれば、教室も変わるし、生徒も成長する」 とポジティブに考えていきたいものです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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