シラバスや年間授業計画は、学校によって構成や内容がまちまちです。使う場面を想定して、学校独自のフォーマットが確立されたケースも見られますが、どちらかというと記述の約束ごとが曖昧なまま各科目で起草や更新を重ねる中、いつの間にか整合が取れなくなっているケースが多いように見受けられます。
多大な手間をかけても作成しなければならないものなら、「誰がどう使うのか」 をしっかり考えた作りにしたいもの。何のために作るものか、どう使うべきなのかというスタートに立ち戻って考えましょう。
シラバスの様式を決定したり記載のルールを定めたりするのは、如上の前段準備をしっかり行った先のことだと思います。
❏ 講座選びのカタログとしての大学シラバスに対して
大学発のシラバスを、そこでの定義のまま「履修期間を通してすべての講義について、指導方針や学習内容を含めて受講に関する必要な情報をすべて盛り込んだ書面」 と考えると、高校の事情に合わなくなります。
大学のシラバスで「すべてを盛り込む」 ことが可能になるのは、各科目が高い独自性をもって完結しているという前提があってのこと。
大学では、シラバスを読んで受講する科目を決める以上、カタログ的な作りの方が使いやすく、作りやすくもあります。
記載する項目を決めておくだけで、その内容は担当教員に任せてしまえば、それほど大きな問題が生じることもなくうまく回ります。
しかしながら、高校のシラバスは前提としているものが違いますよね。
単位制ならともかく、学年制では履修科目を選ぶための資料としての機能はあまり期待されません。
たとえ3年時の自由選択でも、進路希望がが決まれば履修すべき科目は自ずと決まりますから、講義内容で選ぶことはほとんどないはずです。
❏ 教育目的の達成に各科目が担う役割を規定するもの
高校のシラバスは、学校の教育目的を実現するために、各教科・科目がどのような役割を引き受けるかを、その指導の内容や手順とともに示すものです。
また、生徒にとっては、3年間/6年間にわたる自分の学びを見通しつつ、今の自分の位置をロードマップの中で確認できるものでなければなりません。
学校の教育目的が最上位にあり、その目的を達成するために各科目がそれぞれの目標をもって教育課程というマトリクスの中に配列されます。
縦軸に学年・学期、横軸に教科・科目が並ぶイメージでしょうか。
科目のひとつひとつは独自性を持ったものというより、教育目的を達するために割り当てられた個々の役割(=指導目標)を担うものですね。
高大接続改革では、合科型学力もひとつのキーワードになっており、教科固有の知識・技能を獲得することは、広義の学力を形成するための手段との位置づけを強めていくと考えると、如上の捉え方はますます重要になります。
❏ シラバスは単体では機能しない
科目のシラバスをずらりと並べただけでは、3年間/6年間を通した全体像の中に、整合性と段階性をもって各科目を配列するのは困難です。
学校の教育目的を最上位において、階層構造を作る必要があります。
学校としての3か年/6か年を見渡したグランドデザインの下に、
- 学年ごとに各教科の到達目標を一覧にまとめたもの
- 使用教材や単元進行の予定を記した年間授業計画
- 教材の目的と取り扱い、学習への取り組み方を示す手引き
などが、順を追って配列される形を取らざるを得ません。
これらを別冊子にするか、合本にするかは各校の事情や考え方によりますが、上下の関係は崩せないところです。
❏ まずは3年/6年を見渡したグランドデザインを描く
生徒がどのような成長過程を経て、卒業までにどんな資質・姿勢を育てていくかイメージを明確にしておかなければ、個々の教育活動をどう最適化するか検討に付すこともできないのではないでしょうか。
そのイメージを誰もが目にできるように書き出したものが「グランドデザイン」 であり、個々の教育活動を設計する前にきちんと書き出しておきたいものです。
また、知識や技能は教科固有のものですが、教科学習指導を通して身につける汎用スキルや学習方策、学びに対する姿勢・習慣などは、教科の枠を越えて、生徒ひとりひとりの内に形成されます。
キャリア教育や進路指導との関連づけも大切です。
学ぶことへの自分の理由(=モチベーション)をどのように見つけ出させていくか、各学年・各学期でどのレベルまで意識を高めていくべきか、といったことも、学校全体で共有しておくべきイメージです。
進路希望の具体化を急ぎすぎて、選択へのプロセスをきちんと踏ませないと、「とりあえずの選択」を強いることになりかねません。
総合的な探究の時間や、体験活動、探究型の学習課題、あるいは学校行事との関連付けも明確にしておかないと、ちぐはぐなことになります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一