授業を受けて実感できる自分の進歩

自己効力感を高めることができれば、そこに主体的な取り組みや積極的な姿勢が作り出されていきます。逆に下がってしまった状態では、できない自分に向き合うことへの抵抗から、対象に近づくことを避けようとする「負のモチベーション」 が発生してしまいます。
生徒に答えてもらった「授業を受けて、知識や技能が身につき、自分の進歩を実感できるか」という質問に対する肯定的な回答が占める割合は次の学習に向けたモチベーションをどこまで持たせることができているかを端的に示す指標でもあります。

2015/06/02 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 苦手意識を持つ生徒は成果や進歩を実感しにくい

その科目が得意とする生徒に比べて、苦手と感じている生徒が自分の進歩を実感するのが難しいというのは、直観的にも想像がつくところですが、実際のデータもそれを裏付けています。
下図は、その科目が得意か苦手かで生徒を分け、それぞれの集団内(得意群と苦手群)において「振り返りや先生からの助言を通じ、次に向けた課題が意識できる」という問いにどう答えたかによって、「授業を受けて、知識や技能が身につき、自分の進歩を実感できる」での得点(5点満点)の平均がどう変化するかを示すグラフです。

得意群と苦手群での折れ線は一定の距離を保って推移していますが、得意群でも苦手群でも、振り返りを通じた課題形成ができれば、技能の向上や自分の進歩をより強く実感していることに変わりありません。

❏ 振り返りの機会が、進歩の実感を作りだす

上のグラフを見ると、その科目を苦手としている生徒でも、「振り返りや先生からの助言を通じ、次に向けた課題が意識できる」と答えられれば、学習効果の平均は「そう思う」に相当する4.0を超えています。
振り返りの機会をしっかりと作れば、たとえ苦手な生徒でも、学習の成果(知識や技能の獲得)や自分の進歩を実感できると言えそうです。
苦手なりに進歩を感じられれば、自己効力感を無駄に失わせるリスクは大きく減らせます。
努力を続けられれば、程度の差はあれ達成や進歩は期待できます。その先には、苦手意識も徐々に解消されると同時に、科目への興味がわく、つまりは楽しむことができるようになってくるのではないでしょうか。

❏ 学習効果∽目標理解×振り返り

学習効果を目的変数、目標理解と振り返りの2つを説明変数とした重回帰分析を行ってみると、学習効果に対する単相関と偏相関はそれぞれ以下のように算出されました。

変 数単相関偏相関
目的理解
0.887
0.285
振り返り
0.912
0.523


このデータからは、学習効果に対する直接的な影響は{目標理解<振り返り}という関係ですが、両者の相関は0.9を超えるほど強固です。
適切な振り返りなしには学習目標の理解が十分になされず、同時に、目標理解なしには適切な振り返りができないと考える必要があります。
振り返りの機会の充実を図っても、同項目の評価が上がってこない場合は、振り返りに必要な要素が十分に整えられていないということです。
振り返りが「メタ認知・適応型学習力」の向上に資する内容と方法になっているか、改めて点検してみる必要があるとお考えください。
自己評価のための基準が明確に示されているか、彼我の違いから自分の取り組み/成果を相対化できているかの2点に着目してみましょう。

❏ まずは、戸惑いを抑える「わかりやすい授業」を

適切な振り返り(とその前提である目標理解)が、学習効果を実感させるカギですが、散布図を描いてみると下図の通り、近似線から大きく離れた授業も少なくありません。

近似線から下方に大きく離れた場合、説明変数(横軸)とした要素以外のどこかに、目的変数(縦軸=学習効果)を引き下げている「ボトルネック」が存在しているということになります。
難易度や要求水準が高すぎる/低すぎるといったケースもありえます。難易度の設定は負荷の感じ方を確かめながら行うとともに、学習方策や目的意識に応じた負荷をしっかり掛けることが肝要です。
また、先生の説明や指示が的確に伝わっていないことがマイナスの残差を作っているケースも少なくありません。生徒の状況を把握した上での授業進行が疎かになると、ポイントの説明行動の指示にも少なからぬ悪影響が及び、生徒は学びの成果を得にくくなってしまいます。

◆ 改善のための必須タスク:

指示や説明がきちんと生徒の意識にまで届いていることが、学習の場に成果をもたらす大前提です。話し方やポイント説明などの評価に不足があるようなら、その解消が優先課題です。また、生徒が学びに手応えを感じるには適切な目標設定が欠かせません。既にできていることを見極めた上で、不足ない負荷を掛けていきましょう。

◆ さらなる改善を目指して:

生徒の側での積極的・自律的な取り組みがなければ、優れた指導も十分に効果を得ません。作業や練習に対する生徒の自己認識を高めるためには、結果目標だけでなく、行動目標(取り組み方)についても、できたこと/できなかったことを生徒自身に特定させ、次に取るべき行動を自ら考えさせる機会を整えていくことが肝要です。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一