授業開き/オリエンテーション(その4)

【スタートに立った生徒に伝えていること】

新年度を迎えての授業開きやオリエンテーションでは、新しく学ぶ科目の目的や学び方に加え、生活や進路に対する心構えや生徒に期待されるところが先生方から熱いメッセージとして伝えられます。こうした場を参観していると、それぞれの先生方の思いや考え方に触れ、聞いているこちらも生徒と一緒に様々な刺激を受けます。
新入生を迎える場面での最初の指導とその前後の進め方を考えてきた本シリーズの締めにあたり、オリエンテーション合宿などにお招きいただいたときに私自身が生徒に伝えていることをご紹介いたします。

2015/04/03 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 目の前の課題にチャレンジする中で

勉強や部活、学校行事など、高校生活を送る中で、様々な課題が次々と目の前に現れます。どんな課題に挑み、その結果がどうであったかは、喩えるならば「どんな山に挑んだか」です。
皆さん(生徒)は、これからの3年間で進路をはじめ、様々な選択の場も経験します。山頂への到達を目指し、周囲を見渡し、あらん限りの情報を集め、駆使し、どちらに進むべきか判断していくのに似ています。
山を登りきった、つまり課題をクリアできたということは、素晴らしいことではありますが、次の瞬間には「過去のできごと」に過ぎません。
でも、山を登ろうと頑張る中で、筋力や体力もつけば、難所を通過するための技術も身に付きます。危険を回避したり、ルートを選んだりする判断力や知恵も養うこともできるでしょう。
こうして獲得した、体力、技術、判断力は、その人が次により高い山を登ろうとするときの支えとなります。
高校生活に戻して考えるなら、日々の学習で頑張りきることは、将来にわたり自分のものになる知識や技能、思考や表現、協働性や主体性などを身につけていくということにほかなりません。

❏ 忙しい時だからこそ身につくタイムマネジメント

忙しい高校生活の中、ものごとに優先順位をつけながら、効率的に時間を使う努力は、タイムマネジメントという技術を身につける練習です。
高校を卒業してからも忙しい日々は続きますよね。
そんな中でも、やりたいことを幅広く楽しんでいる人は沢山いる一方、山積するタスクに飲み込まれ、「やりたいこと」を先送りしたり、諦めてしまう人も少なくありません。
タスクを効率的にこなし、時間をうまく使えるようになりたいもの。忙しさの中でも仕事や雑事に追いまくられない人生を送れるよう、高校生のうちから少しずつでもその技術を身につけていくべきです。
授業に目一杯集中すれば、後になってやり直すところは減りますし、細切れの時間をうまく使えば、家に持ち帰るはずだった宿題だって大方が片付いているかもしれません。浮いた時間でできることが増えますね。
上手に時間を使うことは、豊かな人生を送ることに繋がりますし、そのために必要な技術は今のうちから身につけて行きたいところです。

❏ 夢を実現しようとする互いの努力を尊重する

帰宅してから同級生と連絡を取り合ったり、部活が終わってから友達と話し込んだりするときに、ちょっと働かせて欲しいのは「相手も予定があるのでは」というイマジネーションです。
あなたが何かを実現したいと思って本気で頑張っているときに、平気で自分のペースを押し付けてくる・・・そんな相手にどんな気持ちを抱くかちょっと想像してみましょう。
自分の夢や思い描く希望を実現しようとする努力は、誰にも邪魔されることなく尊重されるべきものです。互いが、相手のことに、ちょっとの想像力を働かせてみることが大切ではないでしょうか。
仲間内で決めた時刻以降はLINEもメールも電話もしない、休み時間に宿題を片付けようとしている友達にちょっかいを出さない ── 夢を追う相手の努力をちょっと想像してみて、それを尊重することができるようになりたいものです。

❏ 何にでもトライする中に生じる「偶然との出会い」

これから先、進路の選択に臨むときになって、やりたいことが見つからない、強く興味や関心を向けられるものがないことに悩みを抱えることもあろうかと思います。
興味は漫然と生活していてどこからか勝手に生まれるものではなく、自ら努力して達成したところに見つかるもの。
日々の授業や生活で面白いと思ったものを放置せず、調べてみたり、考えてみたりする習慣を大切にしましょう。
あれこれ調べ、じっくり考えてみる中に、本気になって学んでみたいこと、学んだことを通して実現してみたいことが見つかり、それが具体化する中で、やがて進路希望や志望理由という形を伴ってきます。
自分が何を好きで、何を楽しいかと感じるかも、まずはその場面に飛び込んでやってみないとわかりません。色々なものを経験し、それらに自分がどう反応するかを知ることが、自分を理解するということです。
何であっても、まずは一生懸命に取り組んでみる。その中で、思いもしなかった興味を見つける(=偶然との出会い)が待っています。
そうした「未来の自分」を見つけるための大切な場の一つは、新課程で始まる「総合的な探究の時間」です。じっくり取り組みましょう。

興味の範囲が小さければ、それだけ選択の幅は狭くなり、結果的に、自らの資質や志向に合致する将来に出会う可能性が失われていきます。

❏ 日々の学びを大切に、「認知の網」を正しく張る

進路選択に向かう様々な学びの中でも、日々の生活で触れる様々なニュースや情報の中にも、学校を卒業後の出来事の中でも、自らの将来や進路を考えるきっかけとなる偶然との出会いは至る所に存在します。
しかしながら、人の脳は、知っていることしか認識しません。自分の未来を左右しかねない大切な情報に触れても、それまでの学びがカバーしていない(「認知の網」が形成されていない)領域では、情報そのものが素通りしてしまいます。
偶然は前触れなく訪れます。それは明日かもしれません。もし、その時に受け止める準備が整っていなかったとしたら…。今日できることは、今しかできないことと考えて日々を過ごしたいものです。
各教科の授業で学んだことが直接的に必要になる場面はなかったとしても、各教科固有の知識や技能を身につける中で、獲得していく物事の捉え方、考え方、学び方そのものは、社会に出てから出くわす様々な課題に対処する力の源泉になります。
高校は、あらゆる教科を広く学べる最後のチャンス。高校卒業後は、おのずと自分が選んだものに学びの対象が縛られます。日々の学びを大切にすることで、将来の自分のポテンシャルを大きく育てましょう。

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一