失敗を積極的に経験させる(その1)

何かにトライして上手くいかないことは、確かに楽しい体験ではないでしょうが、失敗してこそ学ぶものがあることもまた事実。すでに出来るようになっていることだけ繰り返していては、もう一段上を目指すのに足りないものがあっても、それに気づく機会すら持てません。
失敗を恐れて尻込みをしていては、重ねるべき経験をやり過ごし、進歩にもブレーキがかかります。辿りつけるはずだったゴールは遠くのままでしょうし、周囲を見渡して自分の後れを感じるようになれば、積極性はさらに失われ、「悪循環」から抜け出せなくなります。

2015/01/27 公開の記事をアップデートしました。

❏ 断ち切るべきは「失敗→自信喪失→消極性」の流れ

教室で授業を受けている中、発言を促されて、答えに詰まったり、見当違いなことを言ってしまったりすると、生徒は恥ずかしい思いもしますし、周囲からどう思われたか不安にもなります。
一生懸命に考えて答えたのに、先生からは「違うね」の一言で片づけられた挙句、次に指名された生徒が難なく正解したら、取り残された気分になるのも無理からぬところではないでしょうか。
一定以上の自己効力感を維持している状態なら、「よし、今度こそは」と意欲を新たにするかもしれませんが、同じような体験を繰り返す中で既に自信を削られてしまっていた場合、生徒の中に浮かぶのは「失敗するくらいなら挑戦しない」かもしれません。
ここまでの流れは「良くある話」と思われるかもしれませんが、状況を変え得るポイントは、途中にいくつもあったのではないでしょうか。
事前に生徒の手元をよく観察しておけば、衆人環視の下で失敗をさせることもなかったでしょうし、導いた答えが満点ではなかったとしても、どこかに拾い上げるべき点もあったかもしれません。
上手くいかなかった原因をきちんと突き止めさえすれば、再トライでの成功も見込めるようになり、次の機会にはまたチャレンジしてみようと思う気持ちも維持させることができたはずです。

❏ 発言させる生徒を選びだす前にしっかりと観察

失敗したことに自分で気づきさえすれば、そこには反省も生まれ、次はどうするべきかを考えるきっかけは十分に得られます。できないことをことさら周囲の目に曝す必要はないはずです。
生徒が答えを作っている過程を、手元を覗くことでしっかり観察しておけば、発言させても恥をかかせるだけの状態の生徒を不用意に指名してしまうことは避けられるのではないでしょうか。
答えの中に拾い上げるべき点も、クラス全体の学びに展開できる要素もない発言を引き出したところで、授業が停滞するばかり。生徒にも先生にも得るものはありません。立ちすくむ生徒は、早く進んでくれという周りからの無言の圧に苦しみます。
問いを投げかけたら、生徒一人ひとりに「仮の答え」をノートやワークシートに書き出させるようにするだけでも、どこまで考えられているか観察するチャンスは十分に確保できます。怠らないようにしましょう。

準備をしてこなかった生徒を敢えて指名して、クラスの中で恥をかかせるという「ペナルティ」で行動の改善を促そうとの企ては大抵の場合、逆効果。生徒の学びへの姿勢を却って後ろ向きにしてしまいます。

❏ 失敗の中にも拾い上げるべき点はあり得る

生徒が用意してきた/作り上げた答えが、完全なものでなかったとしても、肯定的に評価してあげられる部分が含まれている場合もあります。
拾い上げるべき点は、重要なところにきちんと着眼できていた、必要な情報を拾えていた、独自の視点で問題を捉えていたなど様々です。
まずはその箇所をきちんと評価した上で、どこにどう手を入れれば「より良い答え」に近づけるか考えさせるという手順を踏めば、自己効力感をいたずらに損ねることなく、必要な学びを積み上げさせられます。
多少の間違いを含んだ答えでも、手を加えることで正解に改めることができそうなら、発言させて黒板に書き出してしまいましょう。
足りないところ、見極めを誤った箇所を、発問で掘り下げつつ、正解に近づいていくプロセスをクラス全体で共有すれば、一人の誤りを全員の学びにすることができます。
間違いにも「間違えただけの理由」があるはず。しっかりとその間違いを拾い上げてこそ学べるものがあるはずです。
先生が予め想定していた「正解」との違いにばかり目を向けて、生徒の答えを否定してしまうことは避けるべきです。自分なりに考え尽くした考えが、ひとつも拾い上げられることもなく、全否定されたような思いを抱いてはチャレンジの意欲も維持できません。
ちなみに、最初から「模範解答」を作れていた生徒に発言させても、こうした学びには展開できません。正解を確認するだけで終わってしまいます。ここでも大前提は、前述の「指名する前にしっかり観察」です。

❏ 次に進む前にきちんと失敗をリカバーさせる

失敗からの学びを重ねて、より良い答えをどう作れば良いかを見出させても、そこでストップしては、学びを経て「できることが増えた」との実感も持てず、次に向けた意欲の増大も図れません。
最初のトライでの失敗(不正解や不完全な答え、ギブアップ)を放置させることなく、しっかりと答えの作り直しに取り組ませましょう。
他の生徒の答案(必ずしも満点解答である必要はありません)や意見に触れさせて、発想と気づきの拡充を図ってから再チャレンジさせれば、上首尾にリカバリーできる可能性も高まります。
別稿で書いた通り、「答えを仕上げる中で学びは深まる」上に、答えを作り直す過程で、次に生かす教訓も整理し、記憶にしっかり刻み込むことで、メタ認知、適応的学習力の向上も図れます。
別稿でも書いた通り、やりっぱなしにさせては、仕上げきらないことを習慣化させるだけで、得るものはありません。
その2に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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