知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得 #INDEX

科学の進歩や社会の変化で、現在の知識は絶え間なく更新されていきます。与えられた知識を覚えるだけでは、知識のアップデートもできず、時代遅れの知識と発想で正しい選択ができなくなります。教室の学びを通して身につけるべきは、単元固有の知識・理解だけでなく、「情報を整理して理解する/情報を集めて知に編む方法」です。うっかりすると、知識付与の効率を高めるばかりに、生徒が自ら行うべきことを、教える側が肩代わりし…

知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得(その4)

前稿では、問い掛けを重ねつつ黒板上で情報を構造化していくことで生徒に「情報整理のプロセス」を学ばせることをご提案いたしました。これにより、知識の断片化や丸暗記に偏る学びといったリスクも、かなりのところまで解消できるはずです。しかしながら、蛍光ペンやサブノート式プリントを使うことになった、根っこの問題がまだ解決されずに残ります。言うまでもなく、学習内容の多さに比して授業時間が足りないという問題です。…

知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得(その3)

蛍光ペンでマークアップやサブノート式のプリントに頼る手法が抱える問題点とその悪影響を抑えるための工夫について考えた前稿、前々稿に引き続き、今回は「問い掛けで気づきを促しつつ、黒板上で情報を構造化していく」ことを軸にした、別のアプローチをご提案いたします。 2014/12/12 公開の記事を再アップデートしました。 ❏ 問い掛けと板書で、情報整理のプロセスを学ばせる 問い掛けで生徒の気づきを促し、確…

知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得(その2)

昨日の記事で考察した「教科書・参考書にマークアップさせる方法」に加えて、空所を設けて重要語句などを埋めさせる「サブノート式のプリント」を用いている授業も多いと思います。こちらの方法であれば、 「重要語句を一文字たりとも自分の手で書いていない」という、マーカーで色を塗るだけの方法が抱える問題の多くは解消できますが、それでもなお、様々な解決すべき課題が残ります。 2014/12/11 公開の記事を再ア…

知識の拡充 vs 情報整理手法の獲得(その1)

知識の整理と拡充を図る場面でよく用いられている方法に、蛍光ペンでマークアップさせたり、サブノート式のプリントを用意したりといったものがあります。限られた授業時間の中で、必要な知識をピックアップして漏らさず伝えていくには、一見したところ合理的で効率的なやり方にも見えますが、弊害も少なくなさそうです。情報が断片化しやすいことや、見やすくなっても記憶に刻まれにくいこと、加えて情報整理の方法を学べないこと…

情報を集めて編む作業で知識獲得の方法を学ぶ(その2)

知識の獲得は、思考力や判断力の土台作りですので、どの教科を学ばせるときにも力を抜くことはできませんが、生徒自身が必要に応じて情報を集めて知に編めるようにすることも学習指導の重要な役割です。昨日の記事(その1)では、授業の導入フェイズや学び終えてからの知識拡充の場面で課すべき「手元にある教材から必要な情報を拾い上げ、知に編み、蓄えるタスク」をご紹介し、生徒が自力で知識を獲得できるように導く方法につい…

情報を集めて編む作業で知識獲得の方法を学ぶ(その1)

生徒に一定の知識や理解を獲得させようとするときに、昔から最もよく用いられているのは「話して聞かせてわからせる」という方法かと思われますが、単元固有の知識・理解を獲得すると同時に、それらを獲得する方法を身につけさせることにも十分に意識を向けたいところです。学校を卒業した後も、科学技術の進歩や社会の変化によって新たな知識や理解を積み重ねていく必要がなくなることはありません。必要なことは自力で調べ、きち…

プロセスに焦点を当てた問い

教室で発している問いのうち、「結果」を尋ねるものと、「過程(=プロセス)」を訊ねるものの割合はどのくらいでしょうか。新しい学力観の下では「答えを出すにはどのようにすればよいか、どう確かめるか」と解決へのアプローチそのものを尋ねる問いも増えて然るべきです。正解が何であるかを訊ねるときはもちろんですが、「~が~になるのはどうしてか」という理由を聞くときも、実は、思考の「結果」を引き出しているだけです。…

対話によって学びはどこまで深まったか

主体的、対話的な深い学びを構成する要素のうち、主体性を持った学びに欠かせない【学習方策】と【目的意識】については、それぞれ以下の別稿にてデータ解析の結果に基づく考察を行いました。 本稿では「対話的な深い学び」にフォーカスしてみたいと思います。なお、主体的、対話的な深い学びについては、拙稿「主体的・対話的で深い学びの実現に向けて(全3編)」でも考えるところをまとめておりますので、お時間の許すときにご…

中高一貫校での中高/前後期接続

中高一貫校の強みは、6ヵ年を通した指導計画のもとで中断なく指導の成果を積み上げられることにありますが、中高/前後期の接続に課題を抱え、本来の強みを生かし切れていないケースもあります。中学/前期課程では高い学力向上感や積極的な学ぶ姿勢が観測されていたのに、高校/後期課程に進んだとたんに伸びを欠くこともしばしばです。 新課程が求める「学ばせ方」~学年間の円滑な接続 下図は、中等教育学校を含むいくつかの…

"正解を言って欲しい"と言う生徒

生徒や学生にアンケートで授業への感想を尋ねてみると「正解をちゃんと言ってもらいたい」という声がちらほらと混じります。先生は意図をもって敢えて正解を示していないのが傍からも明らかな場合にもです。ここから垣間見える問題は、「答えは与えられるものではなく、自分で作るもの」という発想をしっかり持っている生徒・学生ばかりではないということではないでしょうか。 2018/04/11 公開の記事を再アップデート…

生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発)

様々な答えやアプローチが予想される問題を扱うとき、生徒一人ひとりに個人ワークで取り組ませるだけでは、発想も広がらず、多様な考え方を踏まえた上での答えに辿り着くのは容易ではありません。生徒同士が互いの気づきを交換して、視野と発想を拡充する場として、協働や討論などの活動を授業に組み込むことが不可欠です。当然ながら、グループでの話し合いが盛り上がり、何となく答えらしきものが見えてきても、そこで学びを止め…

解くべき課題で「何のために学んでいるか」を伝える

単元内容が明示され、何を学び、何を身につけるべきかが示されたとしても、その前段階として、「何のために学ぶのか」という問いに生徒が答えを見いだせないことには、「学ぶことへの自分の理由」は生まれてこないのではないでしょうか。自分の理由がなければ、所詮は他人事。身を入れて学ぶ気にならなかったとしても、生徒を責めるわけには行かないような気がします。何のために学ぶのかという如上の問いには、「学ぶことがどのよ…

授業を終えてからの学びの「仕上げ」と「拡張」

授業は50分という限られた時間の中で行われるものですから、その中でできることには自ずと限りがあります。授業内での学びで得た知識や気づきを携えて課題にじっくり取り組み、学びを深く確かなものにすることや、教室での学びの中で刺激された興味や関心に沿って学びを拡張していくことで、学びの総量(深さ✕広さ✕密度)を大きくしたいものです。 2020/01/27 公開の記事をアップデートしました。 ❏ 教室での気…

負荷を抑えて「できた気」にさせてしまうことのリスク

適正な負荷を掛けることは力を効率的に伸ばします。少し背伸びすれば手が届くところに目標が設定されてこそ、頑張ってみようという気にもなるのではないでしょうか。楽々と飛び越えられるハードルでは「本来はできなければならないことなのに出来ていないこと」に気づく機会も持てず、より良いパフォーマンスに向けた課題形成も行えなくなり、メタ認知・適応的学習力の獲得にもブレーキがかかります。生徒が学習内容を確実に理解で…

対話などの学習活動が、学びの成果に直結しない?

授業評価アンケートの標準的な質問設計に含まれる、Ⅵ対話協働「話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られる」は、対話的な学び、深い学びがどこまで実現しているかを測る意図で設けた項目です。対話は、気づきや発想の交換で思考を拡充するために欠かせないものですし、協働の場面は、様々な課題の解決に協力し合って取り組むときに必要な姿勢やスキルを獲得させるトレーニングとして不可欠です。思考力のみならず、表…

学びの成果を妨げているボトルネックはどこに?

授業評価アンケートの集計結果を分析してみると、「目的変数」であるⅦ学習効果への寄与度で最も大きな値を示すのは、Ⅴ活用機会です。Ⅶ学習効果を目的変数、先生方の直接的なコントロールが比較的容易なⅠ~Ⅵの各項目(評価項目と質問文はこちらでご参照いただけます)を説明変数とする重回帰分析の決定係数は0.827と十分に大きな値です。習ったことをもとに考える機会が課題などで整っていることは、新課程が求める「知識…

新課程が求める「学ばせ方」~学年間の円滑な接続

前稿「授業評価アンケートの集計結果を相対的にみる」でも少し触れましたが、Ⅴ活用機会やⅥ対話協働は、教室でどのような「学ばせ方」がなされているかを集計結果から推測できる項目です。 活用機会:習ったことをもとに考える機会が課題などで整っている  対話協働:話し合いなどの協働で気づきや学びの深まりが得られるこれらの項目で、校種間あるいは学年間の差が大きくなっている(円滑な接続がなされていない)箇所では、…

授業評価アンケートの集計結果を相対的にみる

今年も多くの学校で授業評価アンケートをご利用いただきました。この場を借りて、改めまして心より御礼を申し上げます。集計データの分析結果のご報告に各校をお訪ねするのはこれからが本番ですが、この機に多くの学校の集計結果を横断的に眺めてみました。下図は、この夏に授業評価アンケートをご利用いただいた様々な学校のデータ(質問設計は当オフィス推奨のものをご採用いただいているため共通です)をマージして作成したもの…

答案のシェアや発表で相互啓発を正しく働かせる

生徒に考えさせたり調べさせたりしたことを、答案やレポートとしてシェアしたり、発表を行わせたりするときには、できることならすべての生徒に「成果発表の機会」を与えたいもの。 生徒の答案をシェアして作る学び(相互啓発) プレゼンテーション/成果発表を機につくる成長の場 それぞれの生徒が考えたこと/気づいたことを介した相互啓発はクラス全体に大きな学びをもたらしますし、頑張ったことを認めてもらえることも「繰…