前稿(本編)では、問いを立てることは教材に深く関わることであり、問いを立てることで学びは深く、広いものになると申し上げました。
ジャンルやタイプを問わず、どんな文章/テクストでも、問いを立てながら読むことで書き手との対話が生まれます。グラフや図表のデータ、画像などの言語以外の方法で表現されたものも同じです。
このようにメリットの多い「問いを立てる」というタスクには、教室で早いうちから取り組ませるべきだと思います。その方法に習熟させることで、生徒を学習者として一段高いステージに引き上げられます。
しかしながら、ただ問いを立てるだけでは、薄っぺらで通り一遍な活動になってしまいます。問いを立てるタスクに、どのような手順を踏んで取り組ませるかも、しっかりと考えてみる必要があると考えます。
2020/10/21 公開の記事をアップデートしました。
❏ 問いを立てさせる前に、学習範囲をしっかり読ませる
本時の学習範囲の中に問いを立てるという活動に取り組ませるに際し、先行してきちんと行うべきは、教科書や関連資料(副教材やプリント)を生徒自身にじっくりと読ませることです。
書かれていること(=紙面に文字として表現されていること)すら把握しない段階で問いを立ててみたところで、「いや、それは書いてあるよね」と突っ込まれるような表層的なものになってしまいます。
所与の情報を正しく理解してもなお、解明されずに残った疑問こそが、答えを探すべき問いであるのは、探究活動の場合と同じでしょう。
書かれていることはだいたい分かった、だけど何かスッキリしないところ(モヤモヤ、疑問)が残るという状態に到達したときこそが、問いを立てるタスクに進ませる好適なタイミングです。
まだ明確にできていない疑問や不明を掘り下げて、他者と共有できるように言語化してみることが「問いを立てる」ということだと思います。
❏ 理解の途上で生まれたモヤモヤを言語化する
何か疑問や違和感を感じても、それがうまく言葉にできないことは日常生活の中でもありますが、それは疑問の正体が掴めていないからです。
疑問をちゃんとした言葉にする(=問いに仕上げる)というタスクは、自分が何に対してどういう違和感を持ったのか突き詰めていく「自分との対話」にほかなりません。
疑問の正体を明かそうとする生徒はテクストや資料に立ち戻りますが、その中で教材の理解はさらに進みますし、その中で新たな疑問を見つけることもあるはず。学びはどんどん深まります。
そうこうしているうちに、疑問を言語化する(問いにする)前に、「答え」を先に見つけてしまうことも多々ありますが、答えを見つけたことで疑問が何であったか、正体を特定できたということでしょう。
問いを立てて解決する活動が自己完結したことになりますが、それはそれで良しです。既に教材の理解は、疑問という焦点を当てた(=サーチライトを向けた)部分を中心に、かなり深まっているはずです。
❏ 立てた問いをシェアして、より多角的に教材を理解
如上のモヤモヤを感じる箇所は、生徒によって異なります。本当はわかっていないのに、疑問を抱き損ねていることも少なくありません。
他の生徒やグループが立てた問いには、自分とは違うところに焦点を当てたものが含まれるはず。各々の生徒/グループが立てた問いをシェアすることで、教材を掘り下げる視点を多角的に持たせましょう。
順番に全員/全グループが発表していくのは、上手な時間の使い方ではないかも…。提出させた問いから面白そうな(=より深い学びになり得る)ものを先生がピックアップして、シェアするのが効率的でしょう。
自分(たち)が作ったものが選び出されたという体験は、誇らしさや喜びとして次のモチベーションにもなります。逆に、仕上げきれなかった半端なものを公開されても、心地よい体験ではないと思います。
ちなみに、紙のワークシートでは回収、返却の手間も増え、管理も面倒です。環境が揃っているならICTを活用して効率化を図りましょう。
❏ 正解に解説を加えさせたり、採点基準を考えさせたり…
生徒に問いを立てさせるとき、解答例とその解説も起草させてみるのも好適です。解説の起草には、答えの根拠や正解に至る工程を明確にする必要がありますので、根拠を持った思考の練習にもなります。
個々に考えたもの(解答例と解説案)を持ち寄り、グループ内で比較すれば、自分の発想に欠けていたところ、見落としていたところに気づく機会となり、思考の拡充が図られる中、学びは一層深くなります。
論述タイプの問題の場合は、解答例よりも、採点基準を考えさせてみるのが好適です。正解として認められるにはどんな要件を満たす必要があるかを考え、明文化を試みる中で整理が進む部分も小さくありません。
以前に参観した数学の授業では、解答例に加えて、誤答として出現が予想されるものを添えるというアレンジを見かけたことがあります。
誤答を予測するには、さまざまな解法や考え方を想定した上で、ポイントになる箇所でどんな誤解やミスが生じるか(=どこに注意して解くべきか)を考えなければならず、かなり難度の高いタスクだと思いましたが、生徒は面白がって取り組んでいました。
❏ 問いを立てることは出題者の意図を学ぶ機会
生徒に問いを立てさせることの第一の目的は、教材との対話を重ねさせて、深い関りを持たせることにありますが、出題者の目線に立つことを経験させることにも小さからぬ意義があると思います。
出題者の視点で教材に向き合ってみると、どんなスタンスでその単元/内容を学んでいくべきかに改めて気づくことも多いはず。そこで得た気づきは、その後の学びに方向性を与えてくれるのではないでしょうか。
ちょっと特殊なケースかもしれませんが、志望校別の対策講習の中、息抜きも兼ねてか、「○○大学の出題を予想して問題を作ろう」といったアクティビティを組み込んでいた先生がいらっしゃいました。
大学がどんな視点で問題を作っているか、過去問から想像し、その大学がどういう力を備えた学生を求めているか(=アドミッション・ポリシー)を考えてみることは、進学後の学びへの備えにもなりそうです。
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蛇足ながら、模試問題の出題で最も苦労したことの一つは誤肢(誤りの選択肢)の作成です。関連のある別の語句を埋め込んだり、否定と肯定を入れ替えたりといった細工だけでは、気の利いた誤肢は作れません。
問いを活かすも殺すも、選択肢しだい。解答者の思考をシミュレーションしないで作った選択肢は、設問そのものをつまらなくします。
大学別模試の場合は、アドミッション・ポリシーに沿った出題方針に加えて、採点基準にも大学独自の視点があります。
得点開示で得た情報と再現答案を照らし合わせて採点基準を推測するしかないのですが、この工程を端折っては、大学が求める学力を捉え損ねてしまい、対策指導の主眼を間違えるリスクを抱え込みます。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一