課題(教材)のシェアから始める組織的授業改善

より良い授業の実現を図るには、習ったことを使ってみる機会(=授業を通じて獲得した知識や理解を用いて答えを導くべき問い)をしっかり用意する必要があり、それらが学習目標の理解や学びの仕上げに正しく利用できているか、生徒の学力向上感との間で散布図を描いてチェックしてみるべき、というのが一昨日と昨日の記事の趣旨です。

❏ 紙の上に固定できることは議論の進めやすさ

どのように授業を進めていくかは、教科の中で智恵と発想を出し合い、先生方の協働でその手法を開発していくべきことではありますが、50分という時間の流れの中で起きていることを、議論のしやすい「固定された形」で切り出して教科会などの話し合いの場で俎上に載せるのはなかなか容易ではありません。
また、深く確かな学びを実現するには、

「生徒による学習目標の理解」

「そこまでに学んだことの理解確認」

「授業内で作り出す対話的な学び」

など様々な要件を満たさなければなりませんが、多岐に亘る観点のどこから議論を進めていくにも、各要件が互いに影響し合うため、話が拡散したり、まとまりがつきにくくなったりしがちです。
こうした難しさを避けるには、どこかに議論の起点をきちんと構え、そこを固めてから他の領域について考えていくという手順を採りたいものです。その起点として最有力な候補となるのは、「習ったことを使ってみる機会」としての課題や設問ではないでしょうか。
課題や設問は、紙の上で固定しておくことができますので、話し合いに参加する全員が確実にシェアできます。議論の中で生じた修正点なども書き込むことで記録ができ、修正後のものを再びシェアして次の議論に付すことができます。

❏ ターゲットを先に決めることのメリット

授業を通して、あるいは単元の学習を通して生徒に自ら答えを導けるようになってほしい問題(=ターゲット問題)を決めてしまえば、

  • 答えを仕上げさせるのに必要な知識・理解をどう獲得させるか
  • どのように提示して学習目標の理解に役立てるか
  • 採点にはどのような観点を設け、どんな規準で評価するか

といった議論にもスムーズに移行できますし、ターゲットが決まっている以上、不必要に議論が拡散したり、方向性を失ったりするリスクも避けられます。何より、50分間の授業の設計(デザイン)にも一本筋が通るようになるはずです。
問いにきちんとした答えを導かせようと思えば、教科書や副教材に載っているものだけでは情報が足りないこともあるでしょう。それを補うためにどんな資料を用意すべきかも、先生方が発想と知識を持ち寄ることで、より良い方法が見つかるはずです。
授業内の活動(アクティビティ)にしても、先生方が持っている手札を持ち寄れば、ぴったりくるものが見つかりやすくなりそうです。
なお、この段階ではまだ、シミュレーションをしただけですので、実際の教室で上手く行くかどうか検証してみなければなりません。
話し合いの中で膨らんだイメージをもとに、それぞれの先生が最善と考えるアレンジを施して、教室で指導を行ってみて、その効果を再び持ち寄って比較を行い、最も大きな効果を得た方法をもとに更なるブラッシュアップを図ることが大切です。
このあたりについての詳細は、拙稿「新たな取り組みを始めるときの鉄則」「指導案の優劣を論じるときも」などをご参照ください。
こうした「学ばせ方」についてのアイデアが膨らんでくると、今度はターゲットである問いそのものにも手を入れたくなる部分が出てきます。
議論を進める中で、「こんな情報も得られる、こうした気づきもあるはずなのだから、ここまで踏み込んで考えさせたいよね、というアイデアが出てきたら、それを問い自体に朱入れして「より良い問い」にブラッシュアップすれば良いだけの話です。

❏ まずはターゲット問題の候補を持ち寄るところから

ターゲット設問は、教科書や副教材に載っているものでも良いでしょうし、先生方がそれぞれに進めた入試問題の出題研究の成果の中から持ち寄ることもできます。
また、過年度の授業の中で用いて、手応えのあったものから引っ張ってくることも忘れないようにしたいものです。授業で使った教材・課題や考査問題の引き継ぎで書いた通り、効果的な設問や課題をきちんと継承してブラッシュアップすることが継続的な授業改善に直結します。
難易度の調整もターゲット設問の出し入れや修正で行うのが容易です。
ある年度の指導で大きな成果を得たのに、次年度の生徒はその恩恵に被れないというのでは、ちょっと不合理ですよね。授業評価アンケートの集計結果を見ていると【活用機会】「習ったことを使ってみる機会」の評価が年度で大きく上下するのも珍しくありません。大きく後退があったのは、前年度の成果が継承されなかったということです。
中には、新たな挑戦として従来と違ったタイプのターゲット設問を試した結果、上手く行かなかったケースもあるでしょうが、それを授業で使う場面のシミュレーションが不足していたのかもしれません。
新たな挑戦にこそ、協働による先生方の知恵と発想の交換が必要です。紙の上に固定した問い/課題を前にワイワイやりましょう。
ご担当先生が一人だけの教科の場合、校内でのディスカッションはできませんが、校外での研修会などで知り合った同じ教科の先生方とSNSなどを介して協働を始めておられる先生もいらっしゃいます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一