英語に限ったことではありませんが、学びを通じて目指すべき到達状態をしっかり認識させることは、学びの成果を実感させるためにとても重要なことです。4技能(聞く、話す、読む、書く)のバランスはもちろん大切ですが、ひとつの授業に沢山の活動を盛り込むだけでは、個々の活動の目的がはっきりしなくなり、結果的に生徒が学びの成果を実感しにくい状態を作ってしまいます。
一つひとつの活動に明確な目標を持ち、その達成を生徒が自ら検証できているか、教える側でしっかり振り返ってみる必要もありそうです。
❏ 学習目標を明示することが、学習効果を高める
下の散布図は、授業評価アンケートにおける目標理解と学習効果のスコアを横軸・縦軸において作成したものです。
サンプルは様々なタイプの学校からランダムに抽出した英語の授業ですが、相関の高さは見ての通りです。学習目標の理解が曖昧になると、ダイレクトに学習効果も低下していきます。
学習効果の目標値(75ポイント=否定的な回答が10%未満)に達する目安値に達していない授業の多さにも着目してください。
日々の授業を終えるたびに、「今日の授業での学習目標は何だった?」と生徒に訊いてみたとしたら、期待した通りの答えはどのくらいの割合で返ってきそうでしょうか。
❏ アクティビティのひとつひとつに明確な目標を
外部検定の必須化も控えていることから、聞く、話す、読む、書くのバランスは以前より強く意識されているものと拝察しますが、該当するアクティビティを豊富に配列すれば良いという話ではありません。
ひとつひとつのアクティビティが何のために配列されているのか、生徒自身が認識できていることが重要です。
例えば「聞くこと」にしても、CDの音源を聞かせるのは単なる指導の手順であり、何を目指しての活動か生徒が理解している保証はなく、そもそも、CDを聞くこと自体は学習目標ではありませんよね。
授業中(あるいは家庭での学習も合わせて)に幾度も聞き、自分でも声に出して読むことで、音素をきちんと聴き取ったり、音韻上の特性を理解して聴解に役立てられたりすることが目標のはずです。
各技能を伸ばすのに、それぞれ教材を用意しては、通り一遍の学びになりがちです。生徒の荷物が増えるばかりで、肝心の理解は浅くなり、定着も期待できなくなります。
ひとつの教材を扱う中で4技能を養うことにこだわった授業設計が必要です。一つひとつの教材をじっくり取り組んでこそ、学びの成果は実感しやすくなりますし、苦手意識が膨らむことも防げるはずです。
❏ 目標理解→練習→成果検証のサイクルを固める
繰り返しになりますが、レッスンの冒頭で最初に聞かせたときとその後の練習を経た後とで、どのくらいの差があるかが「学びの成果」です。
オーバーラッピングから初めて、練習を挟み、単元を学び終えるときにはシャドウイングに挑ませ、どこまで自分が進歩できたか確認することを習慣に、サイクルを確立しているクラスがありました。
最初のオーバーラッピングは、「できるようにならなければならないこと」を認識させることを目的とした局面でのアクティビティです。
現時点で何ができていないかを認識させれば、生徒は、単元を学びながら幾度も重ねる練習に、より具体的な目標を持って取り組みます。
最後のシャドウイング(あるいはレシテーション)は、練習の成果を検証する場面です。こうしたサイクルを確立することで、
- 各々のアクティビティに「目標理解」「練習」「成果確認」という明確な位置づけを持たせる
- レッスンごとのルーティンを確立(習慣づけ)することで、ゴールを認識して各アクティビティに生徒が取り組めるようにする
という2つの要件が満たされたことが、高い学習効果に繋がりました。
❏ 単元をひとつのユニットに捉えた各授業の設計
各レッスンの本文すべてを対象にしたのでは、学びの密度が下がりますので、箇所を絞って集中的に行うという判断も必要です。
余裕のある生徒、もっと練習したいという生徒には、他の部分にも挑ませればよい話でしょう。そんな生徒が頑張る姿を見せたら、きちんと評価し、フィードバックしてあげましょう。
また、50分の授業の中にすべてを織り込むのではなく、単元をひとつのユニットとしてアクティビティの配列を考えることが重要です。
また、レッスンごとに本文内容に照らして重みづけを変えるのも、主眼配列の最適化をもたらしますし、時には以前のレッスンに戻って学びの重ね塗りをする必要もあるでしょう。
授業設計をコマ単位で固定的に考えるのではなく、カリキュラムマネジメントという視点をもって、学期/年間を通して指導計画を立てることが大切ではないでしょうか。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一