探究的な学びの中でのビジネスプラン作り

総合的な探究の時間で「ビジネスプラン作り」に取り組ませるケースも少なくありません。社会課題の解決を図る中で新たなサービスや商品が生まれますが、探究とビジネスプランの親和性は元々が高いものです。
以前の教育が、現状における社会の仕組みありきで、生徒をそれに適合させるプログラムだったとしたら、今の教育が目指すのは「社会課題を解決してどんな未来を創るか」を考え、行動できる人材の育成です。
身の回りから人類の未来に関わるところまで、至る所に存在する「解決すべき問題」を見つけ、それに対するアプローチを考える「探究活動」の先には、それを具現した「事業」が生まれて然るべきだと思います。

❏ 起点は、社会が抱える解決すべき問題

本質的に相性の良い「探究」と「ビジネスプラン」ですが、解決すべき問題を「起点」にしないと、両者の接点が失われ、2つの(しかも相応のエネルギーを投じることを生徒に求める)活動に分けてしまいます。
時間が無限にあるなら、それぞれ別個に展開する手もあり、うまくいけば相補的により大きな「学びの実」を結ぶかもしれませんが、現実には時間不足で「二兎を追って一兎も得ず」という結末になりそうです。
探究活動が21世紀型能力の「実践力」の構成要素である「持続可能な未来への責任」を学ばせる場であるとすれば、単に「売れるもの/面白いものを作ろう」というのでは方向が違うのではないでしょうか。
未解決の(=解法が確立していない)社会課題に対するアプローチを科学的に考えてみることは、創造的思考力を鍛える上でも不可欠です。
解内在型(答えが明らかで、解法も確立している)の課題を扱うことが主となる各教科の学習だけでは、如上の学習機会は確保できず、それを補完するために新たに設けられたのが「総合的な探究の時間」です。
探究活動のアウトプットにビジネスプランという形を取らせることには何ら問題はなく、むしろ好ましいことだと思いますが、総合的な探究の時間に期待される役割/立ち位置は見失わないようにしましょう。
指導の流れにおいて、「ビジネスプランを作ろう!」というゴールを示す前に、しっかりと踏まえるべき段階があるということです。
まずは、「社会に広く目を向けて解決すべき課題を見つける」ことから始め、「その本質を理解し、解決に向けた既存の取り組みを知るための調査/学習」を経た段階で、ようやく「その課題の解決に向けた新たなサービスや商品を創造する」というゴールを意識させるのが好適です。

❏ グループで取り組ませることで達成可能性を担保

探究活動とビジネスプランの立案を合体させることは、「通常」の探究活動よりもさらに高度なハードルに生徒を挑ませるとともに、ゴールに至るまでの工数を増やし、取り組むべきタスクを増やします。
生徒が個々に考えただけでは突破口が見つからないときに頼るべきは、周囲との対話による気づきの交換です。同じ課題に取り組むメンバーがそれぞれに調べ、考えたことを持ち寄れる環境が必要です。
生徒がそれぞれ別個のテーマに取り組んでいる状態では、「ちょっと助言を」と周囲に頼んでも、有効な示唆は中々得られないと思います。

ビジネスプランを考えた以上、試作品を作って反応を探ったり、地域の方や専門科の協力を仰いだりといった必要も生じます。一人で取り組んでいて手に余ると思えば、「やめておくか」ともなりかねません。
手分けできたり、サポートを頼める状態が「諦め」を遠ざけます。
また、シミュレーションをするにも、なんの具体的材料もなければ机上の空論。専門家の助言も得られないのでは、手応えのあるものに近づくこともできず、頑張ってみたところで疲労感しか残らないかも…。
複数のメンバーで手分けして、応分の負担をシェアできる(加えて、互いをサポートできる)環境があってこそ、達成可能性が担保されます。
ビジネスプランの立案という「高度なチャレンジ」に、適当なところで投げ出すことなく、しっかりと取り組ませて、一定以上の成果を得るには、チームでの協働が可能な「グループ活動」の方が好適です。

❏ 協働の中で獲得が図れる能力・資質

チームを組んで、それぞれが役割を引き受け、互いをサポートしながら進めていく「ビジネスプラン作り」という探究活動では、様々な能力や資質の獲得も期待できます。
リーダシップやフォロワーシップは言うまでもなく、全体の工程を考えてタスクを振り分けるマネジメントや、引き受けた役割を完遂しようと考えて行動する姿勢(自律的活動力)の獲得も期待できます。
チーム内のリソース(手数や知識)が及ばないところは、外部に支援を求めることになりますが、適切な相手を探したり、理解と共感を得て協力してもらう「交渉の過程」を経験したりするのも大きな学びです。
もちろん、先生方のサポートや助言も大事でしょうが、不用意に先回りして学びの機会を横取りしないように気を付けましょう。
また、能力や資質の獲得を意図/期待した活動に取り組ませたら、きちんと評価をして適切なフィードバックを行う必要があります。やらせっぱなしでは、生徒が投じた時間と労力を超える成果(=能力・資質の獲得)を着実なものすることはできないはずです。
活動のフェイズごとに取り組ませていることをきちんと把握し、その中でどんな能力・資質が育み得るのかを捉えないと、評価の観点も基準も設けることができず、進捗と改善課題を捉えた学びは実現しません。

❏ 活動の成果を左右するグループ作りは、準備を周到に

グループ活動がうまく回るには、メンバーの一人ひとりが関心を持ち、目的意識を持って取り組めることが前提なのは言うまでもありません。
機械的にメンバーを抽出してグループを組んでも駄目でしょう。事前学習を経て、個々の生徒の興味関心の所在を把握する必要があります。
まずは、生徒が個々に調べて見つけてきた「社会課題」を出し合い、それを整理してある程度の数まで候補を絞らせた上で、個人ワークとしての「事前の調べ学習」に取り組ませてみるのがおすすめです。
どれを選んで事前学習に取り組んだかで、関心の所在にはあたりも付きますが、「実際に調べてみたらあんまり面白くなさそう」ということもあるはずです。調べ学習の成果を改めて教室でシェアして、他の生徒の成果も参考に、取り組んでみたい「社会課題」を選ばせましょう。
生徒の希望が出揃ったら、生徒間の相性、グループ内での役割の分布などを考慮しながら、先生方が「戦略的」にグループを決めましょう。
メンバーの組み合わせ次第で、活動が得る成果量が大きく変わる以上、ここは生徒任せにせず、先生がきちんと責任を持って行うべきです。
社会課題の検索、選んだテーマでの事前学習、それぞれの成果のシェアと、いくつも工程が増え、ご指導の手間も膨らみますが、こうした体験を通してこそ、生徒は社会への関心を高め、目的意識をもって探究的な学びの中でのビジネスプラン作りに取り組めるようになります。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一