学修時間を延ばすには(大学偏)(その4)

前稿の通り、発表やディスカッションの機会を用意することは「不明解消」への動機づけになりますが、活動に対する評価の基準を明確にしておかなければ、そこにどう関わればよいか学生が戸惑います。
場合によっては、徒に発言数を増やすだけの学生や、相手の発言を受け取らずにあさっての方向に議論を乱してしまう学生も出てきそうです。本人のみならず、周囲の学びも歪めてしまっては一大事でしょう。

2014/08/22 公開の記事をアップデートしました。

❏ 活動に求める要件を評価基準として明示すること

課題図書の内容を十分に理解して議論に参加しているか、他のメンバーの発言を尊重したかなど、議論への参加に際して求められることを、観点別に評価の規準として予め明示しておきましょう。
要求されていることがはっきりわかってこそ、学生は、自分がどのような行動を取るべきかを考えるようになりますし、評価の結果に触れて、次の機会でのより良い取り組みに向けた意識も生まれます。
自ずと、そうした活動に取り組むための準備(予習)にも、明確な方向性と意欲が得られ、結果的に学修時間も伸びるはずです。
適正かつ明示的に示された評価基準は、メタ認知、適応的学習力を形成するために欠かせない土台です。
こうした評価を受けての個々の学生の「成長」は、各グループが導き出した解の正誤や優劣以上に、大きな意味を持つはずです。
変化が速い社会において、現在の最適解が将来に亘りその妥当性が保たれるわけもなく、未解決の課題に解を導くための協働の場に求められる資質や姿勢を身につけることの方が、より重要かもしれません。
課題解決に向けた協働にきちんと参加できる(=協働の場で正しい行動を取れる)ようになれば、それだけで学びの目的の大きなところが達成できたと考えても良いのではないでしょうか。

❏ 対話や協働を終えたあとの学びの仕上げ

しかしながら、その一方で、対話や協働といった学習活動を「自己目的化」しないことにも十分な注意が必要です。
そこで得られた気づきや知識を携えて、解を整える/答えを仕上げることに取り組む中で、学びはより深く、確かなものになります。
学び終えてなお残されていた不明に気づけば、それを補うために調べたり、さらに考えたり、あるいは周囲との対話を重ねたりするはずです。
授業を終えてから、答えを仕上げるべき問いをきちんと用意してあげることは、学修時間の延伸のみならず、学びの実りをより大きくするためにも、指導者として欠かせないことのひとつだと思います。
また、解を導く中で獲得した知識を記銘し、自在に想起できるようにする必要もあります。先生方にできるもう一つの支援は、学生に「覚える機会」を確保させるために、テストも適宜行うことでしょうか。
デジタル化が進み、必要があれば検索できることも増えましたが、頭の中に蓄積した知識は、後から入ってくる情報と結びつき、新たな着想を得るのに不可欠なパーツ。記憶保持の重要性は変わりません。

❏ レポートやプレゼンで図る「さらなる学びの拡張」

学びの仕上げとして答えを導くべき問いと、学んだことを定着させるためのテストだけでも、学修時間の延伸と、授業/単元ごとの到達目標の達成はより確かになりますが、そこからの「拡張」も図らせましょう。
レポートや発表/プレゼンはその機会のひとつです。教室の内外でそれまでに学んできたことの先を学生自らが覗き込み、新たに得た知識や気づきを整理し、筋道だって整えるには欠かせない機会です。
しかしながら、こうした宿題もただ与えれば良いというものではありません。与える/提出を求めるまでに踏むべき手順があるはずです。
レポートやプレゼンが満たすべき要件(=評価の基準)を明示し、理解させておかなければ、学生の取り組みは形だけのものになり、学びの拡張という所期の目標は達成から遠ざかるばかりです。
まとめる前に踏むべき工程(参考文献に当たる、調査をする、他者の考えを確かめる…)をしっかり示すと同時に、授業の中でその一つひとつを具体的に学ばせておく必要があるのは言うまでもありません。
また、学生は多くの授業を履修していますので、思いついたように課題を指示しては、学生は困惑するだけでなく、取り組む時間を十分に確保することも難しくなるはずです。
シラバスなどで予め(=履修開始の時点で)課題の内容と提出期限、評価の基準などを示しておくことが、課題を意義あるものにします。
学生の十分な取り組みを可能にしておかなければ、採点/評価をするときに、先生方ご自身も遣る瀬無い気分を味わうことになり、先生も生徒も「得るものがなかった」という悲しい結末にもなりかねません。

❏ 課題は、提出させる前に基準に照らした自己評価

レポートの提出前/プレゼンの実施前に、評価基準に照らした自己評価を行わせ、ブラッシュアップに取り組ませるという「2段構え」を取ることで、レポート/プレゼンの仕上がりが各段に向上します。
これは取りも直さず、学びがより深くなったということ。取り組みに要する時間も増えますが、それ以上に実りは大きくなったはず。
最初の内は、自己評価もままならないかもしれませんが、様々な授業で同じような体験を繰り返す中で、メタ認知・適応型学習力の向上も見込めるのではないでしょうか。

先生方が丁寧に評価/採点しても、学生はその結果である「記号」にしか目が向かないかもしれません。本来の狙いを達するには、学生が自分の取り組みとその成果にしっかり向き合い、次のチャレンジでどう取り組むかを見つけ出させていく必要があるはずです。
ときには、学生同士の相互評価/相互添削などにも取り組ませ、答案やレポート/プレゼンを客観的、批判的にみる力も養わせましょう。

❏ 学習時間は、教える側の工夫で伸ばせる

校種によらず、学修時間の延伸と確保は、様々な現場で、長きに亘って関心を向けられてきた課題です。
課題や指示が与えられなければ机に向かえない、というのでは心許ない気もしますが、なすべきことが具体的に示され、その必要性を十分に認識させれば、学修時間は着実に増えることをデータは示しています。
そこでの取り組みの中で、学生は様々な能力や資質、学びの姿勢を獲得し、その後の学修の可能性を押し広げていくはずです。
学生が個々に取り組む学習の質と量は、学ばせる側の工夫で、まだまだコントロールできる領域が広く残っているように感じます。
本稿でご提案した各方策は、一つひとつでは限定的な効果しかないかもしれませんが、組み合わせることでより大きな効果が狙えるはずです。

  • 具体的な課題を与え、準備・復習の手順をしっかり提示
  • 課題を与えるときは、達成可能性を担保する授業設計を
  • 履行率を高めるために、教室内で課題の読み合わせ
  • アウトプットの機会で、不明解消への必要に気づかせる
  • チームへの貢献を求めて互いにけん制&達成感もより大きく
  • 活動そのものを評価する基準を明示してメタ認知を作る
  • 仕上げに取り組むべき課題をきちんと付与、レポート等で拡張

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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