入試問題の「長文化」を指導者としてどう考えるか

大学入学共通テストをはじめ、大学入試、高校入試の「長文化」が話題になることが少なくありません。問題冊子のページ数はますます増え、本文や資料、設問文、選択肢を合わせると膨大な文字数になり、これに図版やデータも加わり、読み通すだけでも大変です。
こうした出題傾向の変化(いわゆる「読解力重視の方向性」)がどこから来たのか、改めてしっかり考えてみる必要もありそうです。本当の狙いを曖昧にしたまま、生徒に読解スピードの向上を求めるばかりでは、目的意識を持った学びへの取り組みは期待できないように思います。

❏ 試験は学びが求める力を備えているかを試すもの

入学試験は、受験者が「入学後の学習/学修が必要とする学力」を備えているかどうかを調べるために行うものであることに異論はないかと。合格通知を出した以上、きちんと育てる義務が生じるとも言えます。
大学での授業が始まれば、予習で(=自力で)教科書や文献に目を通して、教室での討論などの準備もしなければならないでしょうし、わからないことは自分で調べて不明を解消すべき場面も多々あるはずです。
高大接続改革を機に見かけることが多くなった「学習型問題」は、まさにこうした意図のもとで課されているのだと思います。
高等教育機関ですから、学習する内容が高度化するとともに、1回の授業で目を通すべき範囲も広くなるはず。限られた時間である程度の量を読み、その内容を理解できないことには、授業について行けません。
(実際には、授業準備や事後学習にろくに時間を充てていない学生でも到達目標の達成はバッチリという授業が、大学の授業評価データを見るとゴロゴロしており、それでいいのかと思うことしばしばですが…。)
そう考えれば、「大学での学修についていけるかどうか」を試す(フィルターをかける)には、入試の読解語数を増やすというやり方は、合理的なものと言えるのではないでしょうか。

❏ 入試の長文化は、読む力の底上げを図っている(かも)

大学入試、高校入試の「長文化」は、受験生がその対策を講じる中で、読む力の底上げを図っている部分があるかもしれません。
能力は発揮する機会を持たなければ、伸びません。ちょっと背伸びをしながら頑張ってこそ、ポテンシャルは顕在化しますし、「時間が足りない」という壁を前に、やり方を改めていく工夫も生まれるはずです。
問題冊子が分厚くなっていることに、「大変だけど、進路希望を叶えるためだから」と、角度をズラした励ましを重ねるより、受験対策を通して、大切な能力(言語や情報のスキル=「21世紀型能力」でいうところの基礎力)を高める機会を得ているのだ、との認識を生徒に持たせるべきだと思います。
大学に進学しない生徒でも、「読むことに抵抗感を持たない」ことは、十分な情報を集めるのに必要な行動を厭わずにとり、得た情報に基づいて正しい判断をする(≒より良く生きる)ことにも繋がるはずです。
読む力が育っていないと、読むことを苦痛に感じ、抵抗感から読むことを避けることで、読む力を伸ばす機会を失うという悪循環に陥ります。

❏ 読むことは、幾つかのフェイズで構成される一連の活動

入試で問題冊子を目の前にしたときに限りませんが、「読む」といっても、必ずしも全編を一語一句丹念に吟味して読むわけではありません。
読むという活動は、幾つかのフェイズで構成されており、読むべきものによって、どのフェイズに重きを置くかは違ってきます。
表現や内容が難解なところや馴染のない概念を扱った箇所などは、立ち止まりながらじっくりと考えて「読み解く」ことになります。ときには返り読みが必要なこともあるはずです。
そのような、既得の知識を道具に思考を重ねて理解すること(=読み解き)を必要としないところでは、文字から情報を「拾い上げ」ていくだけで、必要な情報を集められます。
さらに、読んで理解したことをもとに、所与の問いに答えたり、課題を解決したりする必要がある場面では、さらに「新たな知に編む」というフェイズが加わります。
大雑把(乱暴?)に模式化すると、こんな感じでしょうか。


入試問題にチャレンジしているときも、じっくりと「読み解く」ことが求められる場面ばかりではなく、所与の問いをみて「どこに焦点を当てて吟味する」必要があるかを判断しているはずです。
それ以外の箇所は、見落としのない程度に「目を通す」ところで止めて先に進んでも問題はないかと思います。同じことは、日々の生活や仕事/勉強で何かを読むときに誰しも行っているのではないでしょうか。
文章全体の中で、各部分が持つ重要性を的確/迅速に判断することも、読む力の一部だと思いますし、どんなアプローチで「きちんと読み解くべき箇所」を見つけ出すかも、学ばせていくべきことの一つです。
ただし、ただ情報を集める(拾う)だけでは、ものごとを深く理解する力は高まりません(∵やらせていないから)し、新たに知ること/学ぶことにきちんと向き合う姿勢も曖昧にさせてしまうリスクがあります。
様々なタイプの「読むタスク」を与える(=学習活動として授業内外に配列する)ことで、3つのフェイズを偏りなく体験させ、バランスの良い読解力を生徒一人ひとりに獲得させていきましょう。
タスクを活きたものにするには、読ませる前に適切な問いを与えたり、読んだ中に生徒自身に問いを立てさせることが有効に働くはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一