解いたことで成長ができる問題こそが"良問"

どんな問いを立てるかは授業デザインの要。導入フェイズでそれを示して学習目標を認識させるにも、学んだ後でその答えを仕上げることで学びをより深く確かなものにするにも、問いの役割は小さくありません。
予習に取り組ませるときも、範囲を指定して「予習しておきなさい」と指示するだけのときと、指定範囲をしっかり勉強すれば答えられる問いが用意され、その答えを作るために教科書や参考書に当たるのとでは、学びの質に大きな違いが生じます。
問いの存在は達成検証を容易にするため、学びが実を結んだときの達成感(=次に向けたモチベ―ション)もより強いものになるはずです。
答えを作る中で新たな気づきがあったり、それまでバラバラだった認識がストンとまとまって腹に落ちるような問いこそが「良問」でしょう。取り組んだことでの実りはさらに大きくなるはず。「解いたことで成長ができるような問題」を用意できるかが腕の見せどころです。

2018/01/24 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 授業者(先生方)自身が面白いと思う題材を出発点に

解くことが成長に繋がるかどうかのポイントにはいろいろありますが、まずは何といっても、先生方ご自身が面白い(興味を刺激される、自分事として学ぶ価値を感じる)ものを題材に選び出しましょう。
面白ければ、それだけ学びにも(学ばせることにも)力が入り、成果はより大きくなります。つまらなければ、それなりの結果に止まります。
教材を探そうとするとき、「生徒は興味を持つかな、理解できるかな」という視点でフィルターをかけがちですが、まずは先生方が内容に面白さを感じるかどうかを「最初の選定基準」にするくらいで十分です。
学習者(生徒)が、学び始めの段階であまり食いついてこない(興味を示さない)ことでも、問い掛けて考えさせ、知恵と工夫を重ねさせて解決(問いの答えの発見)に至れば、そこに楽しさや感動も生まれます。

生徒の既習範囲を超える部分が大きいからと、せっかくの好材料を引っ込めてしまっては、より良い学びは作れません。
知らないことは「調べさせれば良い」だけの話でしょう。その方が学習方策の獲得も進み、学習者としての自立が進むはずです。
問題の出来は、題材選びでほぼすべてが決まります。読んで面白くなければ、解いても面白くありません。良い材料を調理法がダメにすることがあるように、問いの立て方が拙ければ好素材も台無しですが、逆に素材に力がなければ、どれだけ設問を工夫しても良問にはなり得ません。

❏ 新たな着眼点に気づかせる問いや選択肢

設問がなければ読み飛ばしていたところにも、問われて改めて考えてみると思わぬ気づきがあるものです。
ある知識の有無を問う設問でも、知らなかったことを知る機会になりますが、それまで持っていなかった着眼点に気づかせてくれるような問いにこそ、「やられた」と感じることが多いように思います。

問い方というのは、なかなか難しいもので、自分で問いを立てようとしても、それまでに持っていた発想に縛られてしまいます。
出題研究をするとき、何を聞いているか(=どのような知識を求めているか)以上に、「どこにポイントを見つけ、どのように訊いているか」に着目して、問い方/尋ね方を学び、その幅を拡げていきましょう。その中で授業者・出題者としてのスキルアップが狙えるはずです。

❏ 出題研究を通して、生徒に解かせたい問いを集める

内容的に面白い題材も、ハッとさせられる問い方も、集めたり作り上げたりするのは容易ではありません。
大学入試でも中学や高校の入試でもかまいませんが、出題を担当した方々(顔も知らぬ同志)の努力の成果を利用させてもらいましょう。
学問の先端を日々研究している方々は、普段目を通す文献などの種類も検索をかける範囲も違うこともあり、普段、私たちがふれるのとは違う題材を引っ張ってくることがあります。
問い方にしても、専門ならではの発想の賜物か、同じ題材でもこんな捉え方もあるのか、ここにも着目すべき点があるのかと、気づかされることが少なくありません。
出題の背後には、教育に向けた姿勢、教科観・学力観を見て取れることも多々あります。出題研究を行うことは、教科観の更新と深化を図るための好機であり、先生方のキャリアアップの大事な土台です。

❏ どの場面/タイミングで生徒に解かせるか考える

こうした問題も、生徒がその問いにチャレンジする機会が用意されて初めて活きます。自分の答えを作る中でこそ、獲得してきた知識や理解は統合され、思考や表現の力を高めていくことができます。
何の準備もせずに、プリントにして教室で配ってみても、生徒が面白さを感じてくれるとも限らず、成長に繋がる確率も高まりません。
しっかりと生徒側でのレディネスを調えさせてから挑む場を与えないと、せっかくの材料と学びの好機が活かせないということです。

  • どの単元で扱うか、まとめに使うか導入に利用するか。
  • その問題に挑ませるまでにどんな仕込みをしておくか。
  • 生徒が書き上げた答案を、どんな基準に照らして採点するか。

教室に持ち込む前に考えるべき事は山ほどあります。採点基準だって、しっかりと磨き上げる必要があります。「答案を正しく評価できているか」も常に自問しつつ、生徒が自己評価を正しくできるよう、採点/評価基準の理解を深めさせることにも力を入れるべきでしょう。
単元ごとの時間配分や生徒の家庭学習の負担なども考慮して、年間指導計画のどこに配置するのが最適か判断してから実行に移すかどうかが、その一問を解いたことが生徒の成長になるかどうかの分岐点です。
■関連記事:

  1. 学習目標は解くべき課題で示す
  2. 答えを仕上げる中で学びは深まる
  3. 入試問題を授業の教材に使うときに
  4. 出題研究の成果を指導計画作りに活かす
  5. 学力観の変化は良問と悪問の分け方を変える


追記: この記事の前回更新は2020年4月。緊急事態宣言が出る前日です。その時に書き加えたのは以下の通り。今となっては「昔話」かもしれませんが、あの時の経験は、生徒が自立的に学ぶために何が必要かを改めて教えてくれました。その一つが「問い」だと思います。

折しも、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のために、生徒が自学自習する機会は増えます。
自習用の課題を用意するときも、教材(教科書、プリント、動画)ごとに、それらを学んだ後で生徒が自力で答えを作るべき「良問」をきちんと用意したいところです。
学びに方向性を持たせられますし、学ぶことへの意欲も刺激しやすくなるはずです。提出期限後は、先生が作った模範解答に添えて、生徒の手による「好適な答案」もシェアすれば、相互啓発の材料に利用できるのではないでしょうか。
休校明けで学校に日常が戻ったときも、どれだけ密度の濃い学びを授業内外に作れるかがスタートの遅れをどこで取り戻せるかを決めるはず。良問の配列で深く、効率的な学びをデザインしましょう。

自宅学習は感染拡大防止のために緊急避難的な措置でしたが、そこで得られた知見は、今後ますます重視される「学びの個別最適化」にも応用し得る発想を与えてくれました。以下の記事もご参照ください。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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