探究活動の改善を図る「評価と振り返り」

探究活動の成果発表会は、生徒にとって貴重な学びの場です。他の生徒が重ねた努力の成果に触れて自らの取り組みを相対化してみることは適格な振り返りへの第一歩。多くの時間をかけた学びの成果をより深く、確かなものにできるかどうかを分ける重大な局面です。

代表者による発表に触れて、その良い所を理由とともに明確に掴めてこそ、同学年の生徒は自分の取り組みの成果と過程を振り返る際の「彼我の違い」に気づき、後輩学年は探究を進める上での方向と力点を学びますが、選定理由の言語化がなされていないケースが大半です。
この問題も含めて、探究活動をひと通り終えたタイミングでの「振り返り」について、発表を見た生徒、発表した生徒、生徒の指導に当たってきた先生方という三者それぞれに視点を据えて考えてみます。

❏ 代表者を選んだ理由はきちんと言語化する

成果発表会では、優れた探究活動を行った生徒が代表に選ばれ、発表をしますが、選出理由が言語化されていないケースがしばしばです。
代表者を選ぶ過程で、良さが客観的に認められたからこそ代表に選ばれたはずであり、その過程での議論を言語化・整理して、発表を見る生徒にも伝えれば、「学ぶべき点」がどこにあるか明確に伝わります。
理由を明確に説明できないのでは困りもの。探究のフェイズごとに設けた観点別の段階的評価規準(ルーブリック)への理解と認識が、指導や講評を担当する先生方に共有されていない可能性も疑いましょう。
探究活動を終えた(あるいは中間地点まで来た)生徒が、言語化された理由に照らして、自分の成果を振り返るときと、そうした理由をしらないままのときでは、気づける範囲と深さがだいぶ違うはずです。
先回りするだけでは、「良さを見つける力」を養う機会を奪いかねません。「発表のどこが良かったか」は参観者にも言語化させましょう。
各生徒がどんな理由を挙げ、どう表現したかを調べてみれば、観点の偏りや、既に教えたはずの「探究の各フェイズの評価基準」を理解している度合いも推し量れますので、その後の指導の方向も探れます。
もしかしたら、指導に当たった先生方が伝えたかったところと違うところに、着目し、努力の方向を間違えそうな生徒がいるかもしれません。

❏ 発表に対するコメントを「深く確かな学び」にするには

口頭発表やポスター発表をした生徒は、様々な立場の人(校内の先生、外部からの講評者、同級生や先輩・後輩)からコメントをもらいます。
コメントにきちんと向き合い、消化することが、学びを深く確かなものにしますが、生徒はどれくらいのところまでできているでしょうか。
色々な学校を見て回ってみると、コメントへの向き合いと消化は、個々の生徒に任されているケースが大半のようです。言われたことを正しく理解し、「探究の姿勢と方法」に再構成できているとは限りません。
万が一にも、コメントをちゃんと理解できない、あるいは反発や煩わしさを感じて聞き流そうとしている生徒がいたら、学びにならないだけでなく、今後の探究的な学びに負のモチベーションも持ちかねません。
発表に際して受け取ったコメントや助言、質問などは、きちんと記録・整理させたいところ。言うならば「成果発表というフェイズでのポートフォリオ」ですね。言語化させるべきは以下の事柄でしょう。

  • 改善の必要、見落としを指摘されたポイント
  • 良い点として評価されたところ(褒められたこと)
  • 尋ねられたこと(今後の解明が求められること)
  • それらに対し今後、どう取り組むか(どう改善するか)

生徒がログに書き起こしたことに目を通せば、今後に向けてどんな指導やケアが必要か、指導に当たる先生方も辺りをつけられます。
発表という機会を経験した振り返りを、きちんと言語化したものを、生徒と指導者の間で共有すれば、学び(探究活動)の改善と、指導の個別化・最適化に繋げる有力な材料になるということです。

こうした指導は、成果発表会という活動の終端だけでなく、中間発表や探究の各フェイズを終えて次に進むときにも行うべきです。ログに書き起こすところまでしっかり行わせれば、後掲のようにAIを使ってそれを解析するのも可能。振り返り活動そのものも評価できると思います。

❏ 過年度の成果との比較で、指導改善の度合いを測る

成果発表会までに生徒が調えることができた成果物(発表やポスター、論文)は、先生方の指導がどこまで効果を得たかを端的に示します。

最新年度と過年度の成果を共通の基準で評価し、その結果を比較すると指導のどこが大きく改善し、どの部分が停滞しているかがわかります。
探究活動に限らず、評価基準は使いながらブラッシュアップしていくもの。当然ながら毎年見直され、更新されていますので、当時と今の評価結果をそのまま突き合わせるのは難しいかも知れません。
しかしながら、最新版の探究活動ルーブリックを適用して、過年度の成果(代表者発表の動画、ポスターのデジタルアーカイブなど)を評価し直せば、同一基準での比較も可能。採点にはAIも活用できるため、それほど大きな負担にはならないと思います。
蛇足ながら、AIで、生徒が残した成果物やログを解析、評価したいなら「このログから具体的な改善点が適切に記述されているかを評価し、足りない点を指摘して」(ログの場合)などのプロンプトを与えれば、相応の答えを返してくれます。便利な時代になりました。
閑話休題。もし、これらのデータが容易に利用できる形で保存されていない場合、指導に当たった先生方の「記憶」を引っ張り出して突き合わせるしかありません。(実際にやってみると想像以上に正確です)
また、発表を行った生徒が残したログを「採点」すれば、年度ごとに生徒が遂げてきた評価者としての成長も測定できそうです。適切な振り返りは、メタ認知・適応的学習力(21世紀型能力における「思考力」の一部)の獲得を示唆しますので、その向上は指導の成果そのものです。

このような取り組みを通じて、「どのように探究指導が改善されてきたのか」を可視化することは、多くの時間と労力を投じて探究活動の指導とその改善に当たってこられた先生方に、今後に向けたモチベーションを更新していただくためにも不可欠だと思います。



指導と評価の一体化は、探究活動(総合的な探究の時間)においても重要です。成果発表会はこれまでの取り組みを評価する最大の機会。そこでの学びを最大化するとともに、生徒の活動と先生の指導の双方を次年度に向けてバージョンアップさせることを目的とする場です。
生徒に頑張る目標を与えることや、頑張った生徒が報われる場を作ることも大事ですが、こうした機能をしっかり働かせることが、活動の意義を向上させ、参加するすべての人(生徒と先生、支援者)にさらに大きいモチベーションを与えるのではないでしょうか。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一