教材や課題の難易度には、学力の伸びを最大化する「適正範囲」がありますが、生徒が「その科目を学ぶことへの自分の理由」を持っているかどうかで、適正範囲そのものが変化します。
本稿でご報告するのは、授業評価アンケートにおける以下の3つの質問への回答を組み合わせて解析してみた結果です。
- 自分なりの課題意識をもって授業に参加しているか
- 教材・課題の難易度はあなたにとって、(難しい~易しい)
- この授業を受けて学力や技能の向上を実感できるか
本稿を初めて投稿したとき(2018年1月=新課程への移行前)よりもデータの蓄積が進み、且つ、各校で「新課程の下での学ばせ方」への転換が進んだ中で、改めて解析を行ってみようと思った次第です。
2018/01/25 公開の記事をアップデートしました。
❏ 目的意識を持つことで負荷耐性が高まる
以下のグラフは、解析対象とした授業(直近2カ年以内、国社数理英、n=15,823[授業数])へのアンケートの回答を、Ⅹ目的意識(自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいるか)でどの答えを選んだかで回答者(生徒)を分けて、それぞれで再集計を行った結果です。
Ⅷ難易度の換算得点を0.5ポイント刻みで階級化して、Ⅶ学習効果の換算得点(縦軸)の分布がどのように変わるかを調べました。
目的意識を持って学びに取り組んでいる生徒の場合(上段)、難易度が一般的な適正範囲である+2.0~+2.5を超えても、学びの成果に大きな低下は生じておらず、頑張り続けている様子が見て取れます。
これに対して、Ⅹ目的意識で明確な肯定を答えに選べなかった(=目的意識があいまい)な生徒の場合、如上のⅧ難易度が「適正範囲」に達する前に、諦めてしまうのか、学びの成果が低下し始めています。
そもそも、積極的に学びに取り組んでいないだけに、Ⅶ学習効果が全体に低調で、箱の上端ですら、目標値(75ポイント=学力や技能の向上を実感する生徒が9割に達する水準)に届いていません。
❏ 学習効果の平均値の近似線の曲がり方に着目
平均値そのものにも大きな違いがあり、近似線が通る位置も上段グラフの方がはるかに高いのは当たり前ですが、ここでご注目いただきたいのは、近似線が下向きに曲がり始めるときの横軸の値です。
上段のグラフ(目的意識を持った生徒のデータ)では、難易度が+3を超えても近似線は急に曲がらず、緩やかな傾斜で維持しています。
別稿「学習方策や目的意識に応じた負荷をしっかり掛ける」で示した別のデータ(下図、再掲)と、同じ傾向が見て取れます。
目的意識が明確であれば、多少の困難を感じても、それを突破し、理解したり、課題を解決したいと思い、行動するのは半ば当然でしょう。
目的意識は、進路希望の実現といった「外」にあるものだけでなく、問われて存在に気づいて解消したいと思った疑問や不明など、「内」から生じるものもあります。また、学びを重ねるごとに行う「振り返り」の中で、自ら設定した「次の機会で達成を目指すこと」もあるはずです。
こうしたアプローチで「目的意識」を生徒一人ひとりに持たせないことには、下段グラフの状況下で授業を続けざるを得なくなります。目的意識が曖昧なままでは、「ちょうどよい難しさ」を超える負荷を感じてなお頑張り続ける意義は、生徒もなかなか見つけられないはずです。
難易度や教材の量などでもそうですが、しっかり負荷をかけないと成果を期待できないのは勉強もスポーツも同じでしょう。負荷の不足は「学習の改善」の起点となる振り返りにも材料を乏しくします。
❏ 外圧で頑張らされるのは「他人の理由」
繰り返しになりますが、学ぶことへの自分の理由は、放っておいて自然に生まれ出るものではなく、日々の授業の中での先生方からの問い掛けや、探究活動や進路指導の中で見出させていく必要があるはず。
まずは、日々の学習において、課題解決に取り組ませる中で「深めるべき興味」や「解消すべき不明」を生徒自身が見つけられる状況を作ることにこそ、意識と力を注ぐべきであると考えます。
さぼることができないように宿題と履行管理で縛るのも、外圧によるコントロール、つまりは自分以外が作った「他人の理由」に止まります。それでは「自分なりの課題意識をもった授業参加」に繋がりません。
また、別稿 カッコつきの“キャリア教育の充実!” に思うところ でも書いた通り、「頑張りを引き出したいから将来の目標を作らせよう」という戦略には、目標を見つけさせるまで頑張らせることができないというジレンマから抜け出せなくなりそうです。
教室の中で「興味が生まれる瞬間」を体験させることに加えて、それを起点に学びを広げ、深められるよう、「学びの拡張」まで考慮したカリキュラムの設計が求められるということだと思います。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一