知識活用機会としての課題付与と難易度調整

問いなどで用意する「活用機会」が十分でない授業では、学習効果(授業を受けての学力向上や進歩の実感)のみならず、理解確認や対話協働の充実もままなりません。cf. 課題解決を伴わない知識獲得は
適切な問いや課題を用意することで、獲得した知識や理解に「生きて働く場(=活用の機会)」を整えていきましょう。学びの場での「問いの活かし方」は、主体的で、深く確かな学びの実現を大きく左右します。


これらに加え、適正な負荷を掛ける(≒難易度の調整を図る)上でも、活用機会として用意する問いや課題が重要な役割を担っています。課題付与が足りない授業では負荷が適正範囲を外れる割合が高まります。

❏ 活用機会を整っている授業ほど、難易度の調整も好適

下図は、授業評価アンケート(質問設計は当オフィス監修のもの)における、Ⅴ活用機会の得点率とⅧ難易度の相関の様子を示したものです。


Ⅴ活用機会は、肯定的な回答が9割を占めるときに換算得点は概ね75ポイントになりますが、「新課程が求める学び」を実現するには、80ポイント台を目指す必要があると、様々なデータは示唆しています。
同様に、Ⅷ難易度では、生徒が「ちょうどよい」と答える水準(換算得点で±0)では負荷の不足が疑われ、「やや難しい」が半数近くを占める+2.0~+2.5辺りのときに学習効果が最大化すると考えられています。
これを踏まえて、上の箱ひげ図を見ると、平均値(◇)が「Ⅷ難易度の適正範囲」に含まれるようになるは{Ⅴ活用機会≧80}のときです。
範囲を上下に0.5ずつ広げたところまでを「許容範囲」とした場合、そこに含まれる授業の割合は、Ⅴ活用機会が60ポイント台では32%ですが、80ポイント台に達すると45%まで高まります。
授業内外に課題(学んだことを用いて答えを導くべき問いなど)が用意されず、先生のわかりやすい説明を聞いているだけの授業だと、「難しさ」(=努力して克服すべき課題)を感じることも少ないはず。「ちょうどよい」に近いところに評価が集中するのも当然でしょう。

❏ 適正な負荷を掛けてこそ、「学習の改善」が図れる

別稿でも書いた通り、課題の難易度や到達目標を下げてしまうと、できた気にさせてしまい、学習者としての成長(学習の改善)にブレーキをかけてしまうリスクを抱えます。

課題などにチャレンジしてみて、成果を実感できるとともに、不足するところを見つけて、「より良いパフォーマンスを得るために何をどう学んでいくべきか」を生徒自身が考えてこそ、学びの調整が図られます。
そもそも、的確な振り返りは、振り返るべき「課題への取り組みとその成果」があってこそ。好適な(=生徒が自分事にでき、且つチャレンジングでありながら達成可能性が担保された)課題なしには、学びに向かう姿勢の獲得に向けた、振り返りも、指導と評価もできません。

なお、上の箱ひげ図を見ると、活用機会(=知識・理解に生きて働く場を与える課題等の付与)が整うことで「箱の位置」が適正範囲に収束していくのは確かですが、上下の「ひげ」や外れ値はかなり広範に分布しており、問い/課題そのものの入れ替えや扱い方の工夫も必要です。

❏ 宿題を課しても、生徒が仕上げきれないのでは

本稿の趣旨は「知識活用の機会としての課題を適切に与えることで、学習者への負荷を調整する手段が整う」ということですが、負荷には難易度に関するもののほか、分量に関するものもあります。
課題を与えてさえいれば良いと短絡的に考え、量的な強化を図ったところで、意図した通りの結果にはなりません。授業時間枠を広げられない以上、量を増やそうとすると「宿題の増量?」という発想になりがちですが、これではドツボにはまるだけかもしれません。
そもそも、課題の付与を「宿題を課すこと」と単純に考えること自体が短絡的です。課題は必ずしも「宿題」である必要はありません。
そもそも宿題は生徒にとって「残業」みたいなものでしょう。学ばせ方の転換で、家庭学習の充実が求められるのも事実ですが、宿題を課さずとも十分な学びの成果が得られるのなら、それに越したことはないように思います。cf. その宿題、本当に必要ですか?(全3編)
ときには他教科との調整も行いつつ、課題にじっくり取り組む時間を生徒が確保できる(=高い履行率を見込める)量に抑えていきましょう。

授業内に完結する課題であろうと、提出を求めない「問い」であろうとも、思考の場(獲得した知識が生きて働く場)を整えることさえできれば、主体的で深く確かな(+対話的な)学びは実現に近づきます。



蛇足ながら、授業内課題や発問で「活用機会」をきちんと整えているのに、授業評価アンケートを行ってみると、生徒が「課題=宿題」と誤解しているのか、そうと認識していない様子が窺えることがあります。
課題を何のために与えているのか(できたかできないかを確かめるだけではありません)を、授業開きを皮切りにあらゆる機会を生徒に伝え、課題を与えるたびに「学んだことを使って考えよう」「知識の活用が問われる局面だよね」などの言葉を添えるだけでも反応が違ってきます。
こうした説明や声掛けは、授業評価アンケートで良好な評価を得るために行うものでないのは言うまでもありません。「なぜ課題に取り組むのか、空所に埋めた用語を覚えるだけではだめなのか」を理解してこそ、学びに向かう/課題に取り組む正しい姿勢を持たせられるはずです。
同じことは、「学力向上感」についても言えます。これからの時代に求められる「学力」がどのようなものであり、そのためにどんな学習活動にチャレンジしていく必要があるのか、繰り返し、且つ学習者としての成長に合わせて言葉を変えながら、しっかりと伝えていきましょう。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一