学びへの目的意識~データと考察(その1)

当オフィス監修の「生徒による授業評価&生徒意識アンケート」では、伝達スキルや授業デザインに加えて、主体的な学びの実現度も推し量るべく、学習方策と目的意識について生徒の意識を質しています。

学ぼうとしても自力で学べるだけの術を身に付けていなければ、誰かが教えてくれるのを頼るしかない「依存」から抜け出せず、学ぶことへの自分の理由(課題や目的)がなければ、言われてやるだけの「受動」に止まります。いずれも「主体的な学び」にはほど遠い状態でしょう。
それぞれの質問文は、「私は、この科目の学び方や取り組み方が身についたと思う」と「私は、自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいる」ですが、その回答データからは色々なことが見えてきます。

❏ 所謂「中弛み」は、学びへの目的意識の低下のこと

下図は、上記の「目的意識」の学年別集計値です。5択で答えてもらった回答の分布に基づき、-10から+10のスケールに得点換算しました。
過年度から継続し、且つ今シーズンもアンケートをご利用の学校(質問文と選択肢は共通)を無作為抽出し、そのデータをマージ(条件を揃えるため、1学期実施分のみ)しました。なお、n=27,867です。


グラフを見ての通り、中高一貫校では、入学直後の「高い意識」は徐々に低下していき、在学期間の半ばを過ぎたところでボトムを打ちます。
ちなみに、過年度から同じ質問設計でアンケートを実施している学校だけに、ご担当の先生方の多くが質問で訊かれていることを意識して日々の授業に臨まれており、結果的に中間学年での低下も小幅です。
これが「はじめまして」の学校、先生方を対象とする回答データでは、箱の位置はもっと下がり、特に中間学年(中3~高2)では、±0に近いところの分布がかなり厚くなってきます。

❏ 高校単独校の1年は、スタートからあまり振るわない?

上のグラフで、やや意外に思われるかもしれないのは、「高校単独校」で1年生の回答があまり振るわないところではないでしょうか。「中弛み」というなら、2年よりは1年の方が高くても良さそうなものです。
進学を機に、新たな気持ちで日々の学びに向かっているという点では、中高一貫校の中1と高校単独校の高1は同じはずですが、高校単独校の方が「新入生」の状況が振るいません。様々な理由が考えられます。
仮に入学直後の「熱意」が同じでも、アンケートを実施するまでの数ヶ月での低下が、中学生よりも高校生の方が大きい/早いのかもしれません。5月の連休前後なら、結果は違ってくる可能性があります。
高校生の方が、学校生活(を含む日常)の中で受ける刺激が強く/多様で、当初の熱意が上書きされやすかったり、勉強以外に気持ちが向きがちだったりするのは、さほど想定に無理のないところかと思います。
中学よりも本格的になる部活動にも大きなエネルギーを投じていれば、勉強が脇に置かれることもあるでしょう。
入試で輪切りにされた学力層の中に置かれ、経験のない相対順位の低さから自己効力感を下げ、勉強から意識が遠のくこと(幼く素直な中学生の方が「それでもついて行かねば」が長続き?)も考えられます。

学習内容の高度化で、早々に苦手意識を抱え、学ぶ意欲を失うこともありそうです。Ⅷ難易度は、中1の5教科平均が1.84であるのに対して、高校単独校の高1は2.55、ちなみに中高一貫の高1は2.10です。
Ⅷ難易度の適正範囲は+2.0から+2.5(Ⅸ学習方策やⅩ目的意識が高ければ、プラスにシフト)ですが、高校単独校の平均はこれを外れます。
中高一貫校では、高校/後期課程での学びで必要になる学習方策を中学/前期課程で予め備えさせることも可能。ずっと見てきた生徒ですから負荷をどこまでかけられるかの見立ても、より正確でしょう。
これに対し、高校単独では、入試で「求める学力像」を示し、選抜機能を働かせることしかできず、「能動的に準備」はできません。



仮に、中間学年に向かい「中弛み」が緩やかに進行する中高一貫校に対し、高校単独校では早期から急速に弛みが進行するとすれば、入学時に思い描いた自分に照らして今の自分を見つめ直す機会が大切です。

❏ 目的意識は学びの成果を左右~低いまま放置できない

中高一貫校の中間学年や、高校単独校の1、2年は、相対的に「科目学習に対する目的意識」が低い傾向にありますが、これを「ま、そんなもんだ」と受け入れて放置するわけにも行きません。
Ⅹ目的意識の換算得点と、Ⅶ学習効果(授業評価アンケートにおける目的変数=学びの成果)は強固な相関で結ばれており、前者が低位のままでは、学びが大きな成果を結ぶのが難しくなります。


上のグラフ(クリックすると拡大できます)に見る通り、Ⅹ目的意識が改善すれば、その分だけ確実にⅦ学習効果も向上します。授業を通して学力の向上や自分の進歩を学習者が感じ取ったところにこそ新たな興味や学ぶ意欲が生まれることは、別稿のデータが示しています。
なお、下表はⅦ学習効果とⅩ目的意識の関係(回帰式)を学年別に探ってみた結果です。どの学年でも大差なく、強固な関係が読み取れます。


次稿(その2)では、もう少しデータを詳しく見て、教室の内外でどんな指導が可能かを考えてみたいと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一