説明がわかりにくいと言われたら

言うまでもなく、「説明や指示のわかりやすさ」は、授業の成否を左右する大切な要素です。先生の説明や指示、意図するところが十分に伝わっていなければ、生徒が課題解決や対話協働などの学習活動に取り組もうにも、その土台(=理解)は固まらず、目標の達成は見込めません。
本時の「学習内容の理解」もままならず、如上の活動を通して狙っていた「能力や資質の獲得」も進まないのでは、学びが進むたびに、生徒が抱える不明や学習上の問題が膨らんでいくばかりではないでしょうか。
別稿の通り、確かな伝達なしには、学習活動そのものが成立しにくくなり、結果的に学習効果も上がらなくなります。(グラフ再掲)


実際のデータでも指示と説明のわかりやすさと生徒が実感する学習効果の相関は強固です。不明の所在を特定し、自ら解消できるだけの「学習方策」を獲得する前/獲得の途中なら尚更。両者はほぼ比例します。
生徒による授業評価を行ってみると、自分が思っていた以上に「わかりにくい」という声が多く、驚かれる先生もいらっしゃいます。そのときに採るべき方策/採ってはいけない対応について考えます。

2018/09/28 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 学習内容や課題の難易度を下げても効果は薄い

わかりにくいという声に触れると、「扱う内容が難しすぎるのか?」と考えて授業内容や課題の難易度を下げることで対応しようとする先生がいらっしゃいますが、このアプローチはお勧めできません。
下表は、これまでに各地の学校で蓄積してきた授業評価アンケートのデータで行った「指示と説明」を目的変数とする重回帰分析の結果です。

講義座学系 n = 8,807、決定係数(修正R2) = 0.975

 

難易度との間には弱いながらも有意な「負の偏回帰係数」が確認できますので、内容を易しくすればわかりやすくなる可能性もゼロではありませんが、その効果は大きなものにならない(限定的)と思われます。
そもそも、ある時期に学習内容や課題の難易度を抑えてしまえば、先に進んだときの段差が大きくなって躓きの原因になります。段差を避け、ずっと負荷を抑えていたら、出口学力の形成も危うくなるばかりです。

❏ 理解の確認をこまめに行い、伝達スキルの向上を図る

上表でt値(わかりやすさへの寄与度を示します)が最も大きいのは、Ⅰ板書や資料、Ⅲ理解の確認といった伝達スキルです。
板書などの「視覚の補助」がわかりやすさを高めるのは想像に難くありません。一次元の「音声情報」に比べ、二次元で展開できる板書/スライドは、項目間の関係や情報の構造を捉えやすくします。
また、問い掛けて引き出したこと/確認したことを黒板に書き出しておけば、消すまでそれらを「生徒の視野」に固定しておけるため、前提となる理解を確保しやすくなることの効果も小さくありません。
理解の確認は、伝達の不備がどこに生じたかを把握するために欠かせないもの。伝っていないと思えばその場で補完を図れる上、次の機会に他の伝え方を試すなどの工夫も生まれ、伝達スキルの向上が図れます。

❏ 生徒の側での理解力を高めて、伝達の不備を補完する

とはいえ、伝達スキルの向上・改善は一朝一夕になせるものではありません。改善に手間取っている間に生徒の中に不明が蓄積されては、後になってのリカバーは大変困難になります。
ここで取っ掛かりとしたいのは、上表で3番めに大きな寄与度が推定されたⅣ目標理解の向上を図ることでの「わかりやすさの底上げ」です。
別稿「授業改善には授業デザインを先行させる」でも書いた通り、学習目標を生徒としっかり共有することで、生徒側の理解力を高めて伝達の不備が補えるようにすることは、当座の手当としても効果的です。
何を目指している局面なのかを生徒が把握できていれば、個々の説明をゴールと結び付けて理解しやすくなります。先生の説明に「多少」の不備や不足があっても、生徒の想像力がそれを補うということです。
手順をひとつずつ伝えられ、言われた通りに手を動かしているだけの状態と、完成イメージを浮かべながら、個々の手順を理解し、意味づけをしていく時では、作業の精度や仕上がりに大きな違いが生じます。
目指すところを生徒と共有するには、学習目標は解くべき課題で示すというアプローチが最適なのは、当ブログでも度々お伝えした通りです。
また、目的意識(学びに向かう姿勢)を高めるのにも、生徒にとっての自分事となる問い/課題を用いた導入が効果的であり、授業への食いつきがよくなれば、それだけでも理解力は底上げされます。

❏ 先生以外のコンサル先を生徒に持たせる

説明や指示をより良く理解させるには、「先生の伝達スキル改善」「生徒の理解力底上げ」に加えて、不明が生じたときに生徒が自ら正しい行動をとれるように、その方法を学ばせておくことが大事です。
わからないことが出てきたときに、ポカンとしている生徒と、教科書や参照型副教材(用語集や資料集など)をさっと開いて調べ始める生徒とでは大違い。後者の生徒を増やすのは先生方の指導/仕事でしょう。

調べてみてもなお、わからないところが残っていたら、疑問を言語化して周囲に訊いてみれば解決できることも多いはずですが、対話の習慣が失われている教室では、隣に尋ねることすら躊躇するものです。

先生の側で「よりわかりやすい説明や指示」を心掛けることは大切ですが、それに加えて、学習者の側でも、適切な行動で不明の解消を図れることが大事。以下を軸にその方法と姿勢を学ばせていきましょう。

  • 丁寧に教えて理解させるだけではなく、手元にある参考書や辞書のページを開かせ、自力で読んで理解する力と姿勢を獲得させること
  • 普段の授業の中で、教え合い・学び合いの方法と姿勢をしっかり学ばせ、それを失わせないように十分な頻度でその機会を作ること

こうした指導を重ねて、先生がいないところ(卒業させたらずっとそうです)でも、学び続けられる学習者に育てましょう。「教える」という意識が先行していると、「学ばせ方」が疎かになるかもしれません。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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