生徒が自らのインプット(それまでの学び)に不備や不足があったことに気づくためには、アウトプットの機会を用意することが必要です。
アウトプットが首尾よく行え、学びの成果を上手く形にできたら、それはそれで生徒に達成感を与え、次の学びへのモチベーションを高めますが、うまく行かなかったときに取る「次の行動」こそが、学習者としての成長、自立に繋がっていく鍵だと思います。
2015/01/06 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 上手くいかなかった時こそ、知恵を獲得するチャンス
理解の形成や課題の解決といった「学習指導上の個々の場面での目標」の達成を優先するあまりに、過剰な手引きをしていないでしょうか。
言われた通りにやっていれば良いという姿勢を作っては本末転倒です。最初のうちはガイドを厚くする必要があるかもしれませんが、放せる手はどんどん放し、自立に向かわせましょう。cf. 学び方における守破離
生徒に失敗させないようにと、指導者側が先回り(不要な肩代わり?)ばかりしていると、生徒は自分でやり方を考えたり、失敗の原因を見つけて修正したりする姿勢と方策を獲得する機会を持てなくなります。
自分で考えてやってみて、失敗に終わったときこそ、「なぜ間違ったのか」「どこで何を誤ったのか」「どうして気づかなかったのか」を一つひとつ振り返るなかで、生徒は「正解に近づく方法」を身につけます。
それまでの取り組みややり方の中に、足りなかったもの/間違っていた箇所に気づけば、誰しも、次に向けて修正しようと思うものです。
本番での失敗は取り返しのつかないこともありますが、教室は安全が確保された場です。どんどん転ばせて立ち上がり方を覚えさせましょう。
立ち上がり方さえ覚えれば、転ぶことは怖くなくなりますので、学びに対する積極的な姿勢やチャレンジする意欲も生まれてくるはずです。
❏ 失敗の後処理、未習熟の解消だけを目的にしない
定期考査や模擬試験で成績が振るわなかった生徒に対して、間違えた問題の解き直し(間違い直し)をさせるのはよく見かける指導です。
また、予習などで自分が作った答えが間違っていたら、生徒に赤ペンで修正させたり、正しい答えを書き込ませたりするのも普通でしょう。
これらはいずれも、正解を確認し、誤答を直しただけのこと。言ってみれば、転んで作った傷に絆創膏を貼っただけの対応です。
成績が振るわなかったのはなぜか、正解に到達できなかったのはどうしてかを考え、根っこにある原因/失敗の起点を特定して解消を図らないことには、また別の機会に同じ失敗を繰り返します。
考査や模試に限らず、生徒に何かの「振り返り」をさせるときは、当座のリカバリーに止まらせず、次の機会にはどう取り組めば上手くいくのかをしっかり考えさせ、作戦を立てさせるようにしたいものです。
❏ 作戦ミスと実行ミス2つの観点で再度の振り返り
次の機会に向けた行動計画や作戦を立案させたとしても、リフレクションシートに書き込ませたことにどこかで立ち戻らせるよう、その機会を作らなければ、「反省のやりっぱなし」を助長するばかりです。
次のチャレンジ機会では、自分で立てた作戦が「妥当だったのか」「実行できたのか」を点検させる必要があります。別稿でも書きましたが、考え出した「仮説」は、実際に試してきちんと「検証」させましょう。
立てた作戦が間違っていたら、いくら粘ったところで次の機会での成功には近づけません。他方、作戦が正しくても、きちんと実行しなかったら、それはまさに「絵にかいた餅」。腹の足しにはもなりません。
作戦ミスと実行ミスとの切り分けは、生徒の学習のみならず、先生方の校務やビジネスなど、あらゆる場面で欠かせないものでしょう。
当然ながら、実行ミスにも原因があります。単に怠惰だったからと片づけるのではなく、「自らを実行に仕向ける方策」を欠いていたからこそ生じた問題と捉えるようにしないと、その解消は進みません。
指導においては、やりきらせる責任~仕上げ切らないことを習慣化させないことを常に念頭に置きたいものです。
❏ 正しく振り返りができるようにするのも重要な指導目標
振り返りを行うべき場面(=生徒がトライする課題やタスク)は、その成否(〇✕)を判定/評価するのに一定の準備や練習が必要になるものも多々あります。cf. 生徒は評価者としてどこまで成長しているか
正解がひとつに決まらない問題や、記述/論述式の問題を「採点」するにも、様々な場面で行う「発表」を評価するにも、合理的な評価基準を整えるとともに、それを適応するスキルの獲得が不可欠です。
実際、大学入学共通テストの導入前の「試行」では、実際の採点結果と自己採点が一致しない問題が多いことが判明し、問題になりました。
当時の記事でも書きましたが、これは、出題や基準が合理性を欠いたということではないはず。本当の問題は、採点基準に照らして自己答案を評価する練習を積ませていなかったことにあります。この問題を放置しては、思考、判断、表現の力を伸ばす指導も自在に展開できません。
❏ リフレクションシートもただ使っているだけでは…
広く使われているリフレクションシートも、書き方の指導やフィードバックの工夫を重ねられ、学習者の成長にきちんと繋がっているケースばかりではありません。
生徒が提出したリフレクションシートを見ると、ただの「感想メモ」に止まり、内省の痕跡が読み取れないものも結構な割合のようです。
また、自らが取った行動の否定的な側面ばかりを強調した「反省文」だけで、次に向けた行動計画に触れていないものも頻繁に見かけます。
シートの様式にきちんと「次はどうする」という欄や項目を設ける形式面での工夫に加えて、生徒が書いたことに指導者がどうツッコむかも問われています。文字を介した対話で生徒の思考/内省を深めましょう。
クラスや学年を跨いで、好適な振り返りが出来ている事例を集め、生徒間でシェアする機会も持つべきかもしれません。
生徒が自ら作戦を立てる支援ツールとして導入されたのが、リフレクションシートでしょう。この趣旨を忘れると、せっかくのツールも単に提出を求められる「義務」に過ぎないものになってしまいます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一