練習や作業のポイントがしっかりわかっていれば、勘所を掴んだ効果的な取り組みが期待できますが、ポイントを捉えられないまま無為に時間を費やしては、当然ながら学びの成果は上がらず、次のステップに進むレディネスも調いません。いかに簡潔にポイントを捉えさせて、練習や作業に十分な時間を残すかが先生方の腕の見せどころです。
言って見せて聞かせるだけがその方法ではありません。生徒が自分から気づき、それを言語化して意識に留められるように仕掛けましょう。
2015/05/26 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 言葉にできることは正しく意識できる前提
経験の中で既にコツを掴んでいる生徒は、先生方からポイントが示されなくても自分なりに練習や作業を重ねられますが、その段階に達していない生徒は、上手くいかない理由もわからないまま取り残されます。
勘所を掴めない以上、同じ時間と労力を費やしても満足いく結果は得られず、苦手意識を膨らませるばかりです。
所謂「センスのある生徒」は、感覚的に勘所を掴むことができますが、そうでない生徒には、ポイントを言語化しないと把握が進みません。
言葉にできれば、それに照らして修正を重ねることもでき、その中で進歩を実感する機会が増えてくるはず。頑張る意欲も維持されます。
モデルを示した上で、失敗例との違いなどに着目させて、気づきを言語化させていく中で、ポイントを掴ませていきましょう。
非言語情報を言語化する力は様々な場面で要求されますが、それを育む場としても実技系教科に期待されるところは大きいと思います。
言葉にさせた/センテンスに書き出したものは、チェックリストや評価規準に転用できるはず。振り返りに明確な基準を持ち得ることで、その効果も高まります。(cf. 生徒は「振り返り」を効果的に行えているか)
❏ 問い掛けで、生徒が自分で気づくきっかけを作る
チェックリストは先生が作ってしまうことが多いかもしれませんが、生徒自身が作る場を設けることが、メタ認知を高めるのにも有効です。
このプロセスを先生が肩代わりしてくれたら生徒は楽ですが、その状態が続いてはいつまでたっても生徒自身で行えるようになりません。
学び方における守破離でも書いたことですが、「やってみせ、やらせてみせて」という段階から、徐々に手を放していくことが大切です。
言われたとおりにするだけで当座の用が足りているうちは、自分で工夫してコツを見つける必要を感じませんし、自力で考えた結果できるようになったという喜びも得られないのではないでしょうか。
また、どうしてそこがポイントになるかは、その理由とともに理解しておかないと他の条件が異なる場合に応用や調整が効きません。
先生から「どうして、こうやった方が良いのか」と問い掛け、生徒に考えさせ、ひとつひとつ言葉にさせていきたいものです。話を聞いているだけではポイントを拾い上げられない生徒への支援にもなります。
また、違う手順を採った場合にどのような結果になるかを考えさせてみるのも、ポイントの把握と深い理解に役立つはずです。
❏ 説明を進めるのは、生徒の顔を上げさせている間に
いくら上手に先生がポイントを示しても、生徒が集中を欠いて/先生の話以外に意識を向けていては伝わるものも伝わりません。
ポイントを伝えるときには、生徒の顔と目を先生の方に向けさせることに注力しましょう。それによって、耳も意識もこちらを向きます。
最も簡便なのは、板書やプロジェクタを使いながら説明することです。何か書いていたり、映像が映し出されていたりすれば、当然ながら生徒は顔を上げて目はそちらに向くからです。
顔を上げさせ、黒板に書き出しながら説明し、聞いて理解したことを生徒自身の手で文字に起こさせることの効果は、別稿「ノートにメモを取らせる指導」「黒板を写すと活動が低下?」などでも書いた通りです。
また、練習や作業の手順や注意点をプリントにして配ったら、それを読んで聞かせる/読み合わせるという昔ながらの方法も見直すべきです。
別項でも書きましたが、どこかに書かれていることなら、生徒自身に読ませて、きちんと理解することを求め、その力を養っていきましょう。
❏ 動きを伴うものは、動画を積極的に利用
動きのあるものを言葉だけ、あるいは板書やプリントのイラスト(静止画)で示すのは、あまり効果的とは言えませんよね。
既に動きを理解している生徒は自分の頭の中にある理解をなぞることでイラストを確認できますが、これから理解していこうという生徒には、イラストをみたところで動きのイメージがわきません。
当然ながら、こうした場面では動画の利用が効果的です。タブレットが使えるならば、繰り返し再生したり、スピードを落として再生したりできるため、生徒自身がポイントを見つけ出すのも容易になります。
動画を見ながら、練習や作業のポイントは何かを生徒自身で言語化することを、予習や導入時の課題にすることだってできるはずです。
動画はいちど作っておけば、再利用も再編集も容易です。先生方が協働で、動画を作り、校内にストックしていけば、中長期的には仕事量の削減にもつながるかもしれません。
◆ 改善のための必須タスク:
練習や作業に取り組む前にポイントをしっかり整理する場面を設けましょう。戸惑いが先行するようでは目指すべき到達状態に近づけません。生徒にとって把握が容易なのはポイントを一覧にしたチェックリストです。取り組み後に行う振り返りにも利用でき、自らの学習活動のどこを改めれば良いかを特定しやすくなるはずです。
◆ さらなる改善を目指して:
期待するのと違った反応や行動、あるいは生徒が戸惑っている様子がどんな場面で見られるのか観察を通じて明らかにしましょう。何らかの傾向が見えれば指導改善への方針を立て易くなります。練習や作業のポイントは生徒自身に考えさせる機会も設けたいところ。チームで考えさせることで創意工夫や主体的取り組みを促せます。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一