以下のテレビ報道をこのブログでご紹介したのは2017年の春先のこと。番組の主旨は「民主化以降不安定な情勢が続くエジプトで、社会の秩序を保つのには若者の教育が欠かせないとして、規律や協調性を重んじる日本の特活を取り入れる試みが始まっている」というものでした。
日本では「当たり前のこと」として価値を忘れかけていたことに、海外から高い関心が向いていることに抱いた新鮮な驚きを覚えています。
日本の公立学校で昔から日常的に行われている掃除や学級活動などの特別活動=「トッカツ」。実は世界的には珍しいとされるこのシステムが今、注目され世界の学校に「輸出」され始めている。
アジア・アフリカの途上国を中心にJICAなどが支援を行い「トッカツ」を導入する国が増えているのだ。そのひとつエジプトではこれまで生徒がみずから教室を掃除することや、仲間と意見を交わす学級活動はなかった。
現在、日本のJICAの支援を受けながら小中一貫校など12校で掃除や学級活動を試験的に始め、今後、全国の公立学校での運用を目指している。日本発の「トッカツ」がエジプトでどう生かされているのかリポート。
あれから7年近くが経過した昨日の夜、NHKのクローズアップ現代で再び、「世界が注目!日本の教育「TOKKATSU」特別活動の意義は?」と題する番組が放送されました。(リンク先の再生期限は12/13まで)
その影響かと思いますが、更新前の本稿にもかなりの数のアクセスがあり、ちょっとびっくり。ご覧になった方の多さを想像します。
昨夜の放送では、以前とは違い、教員の働き方改革が進められる中、学校行事の見直しや軽量化が図られる「現在」の文脈で、トッカツの意義の再評価も番組テーマの一つになっており、勉強になりました。
2017/02/01 公開の記事をアップデートしました。
❏ 働き方改革の中での「トッカツ」の見直し/軽量化
学校現場での働き方改革(先生方ワークライフバランスの実現)は先送りのできない重要課題であるのは言うまでもありません。
投資(教育リソースの配分量)に比して、成果(教育効果)の小さな活動は削減するのが当然ですが、個々の取り組みが目指すことをきちんと捉えないまま、価値を小さく見積もった取捨選択は危険でしょう。
番組の中でも、協調性や責任感といった資質の獲得に直結する部分はしっかり残し(充実させ)、それ以外の部分の見直しを図ることでの行事の組み直しが効果を上げている事例が紹介されていました。
学級活動、委員会活動、クラブ活動、学校行事、加えて日直や当番、係りの仕事、掃除といった活動の一つひとつについて、本来の目的に立ち戻った「トッカツの見直し/再編の議論」が必要だと改めて感じます。
❏ トッカツを通じて育まれる能力や資質
学級や生徒会の活動は、議論の進め方/議論への参加の仕方を学ぶ貴重な機会。生徒にとって「自分たちが当事者となる課題に、納得解を導くための議論/対話」を経験する機会は、他にはあまりなさそうです。
貴重な体験の場を失えば、能力や資質を獲得する機会は失われますし、やってみないことには振り返りを通じた学びもあり得ません。
係の仕事を通して身に付けた「自分の役割を考え、それを果たす姿勢と方法」は、他の場面(社会生活、職業生活)でも活きるはず。
日直や当番を経験する中で感じたことは、自分が当たっているとき以外に協力者としてどうふるまうべきかに気づく機会にもなります。
リーダーシップとフォロワーシップを学ぶ場も、こうした「トッカツ」をおいて、他には作りにくいように思いますが、如何でしょうか。
❏ 学びに再構成する体験を得る機会をしっかり整える
新課程への移行で、先生方のお仕事は「答えを教える」ことから「生徒が学ぶ場を整える」ことに、明確に切り替わってきたと思います。
生徒が自ら学ぶというのは、「体験を再構成すること」ですが、そうした体験の場が整っていないことには再構成するパーツが揃いません。
生徒にできるようになってもらいたいことは、どんどんやらせましょう。やらなければ、できるようになるわけもなく、やらせてみれば案外すんなりとできてしまうかもしれないのは、どんなことでも同じです。
生徒に「生きる力(社会を生き抜くために必要な能力や資質)」を獲得させるには、現時点で何がどこまで出来ているかを評価する必要がありますが、やらせないことには評価のための観察もできません。
指導は、現状と目標を繋ぐためのプロセスであり、その「両端」である双方をきちんと認識しないと指導を計画できないからです。
また、せっかく体験をさせても、「再構成」を求めないことには、学びにはならないはずです。振り返りとその結果の言語化は不可欠です。
❏ 一方で、先生からきちんと伝えるべきことも
トッカツは、生徒が様々な体験を通して得た気づきを学びに再構成していく場ですが、朝礼/SHRは、先生方が伝えるべきことを生徒にきちんと伝えるための重要な場でもあります。
朝のSHRで生徒に聞かせる5分間の話も、1年間続ければ、5分×6回×35週で1,050分、中高6年間で積み重ねれば、トータルでは実に6,300分(100時間以上!)になる計算です。
ある私立中高の校長先生は、その100時間をきちんと使って生徒に話を聞かせ、日々思いを伝え続けることの大切さをお話されています。
6ヵ年を通して伝えたい「思いの核」をしっかり持つことは大切です。その核の周囲を、その時々の材料で膨らませていけば、とても大きなものを生徒に持たせて卒業させることができるような気がします。
伝達事項だけなら、生徒が行う「日直」の仕事を拡充して、先生の代わりに伝えさせれば、発表の力を養う機会にもなるはず。先生が伝えるメッセージが、雑多な連絡事項に紛れることも減らせそうです。
また、先生方が伝える期待(=生活、学習、進路などの各領域での、時期[学年や学期]ごとに到達を目指すべき状態[行動や思考の様式])は、生徒が自らの行動や考え方を振り返るときの「基準」になります。
これをしっかり伝えていないと、生徒は的確な振り返りが行えず、より良い自分になるための「課題形成」も、成長を自覚する「たな卸し」も曖昧なものにしてしまうリスクを膨らませます。
コミュニティをともにする仲間と一緒に、担任の先生から同じ話を聞くことは、理解や認識の土台を共有することです。共有するものの有無で何かの課題にコミュニティとして取り組むときの行動も違うはず。
生徒に考えて/気づいて欲しいことを「問い」で投げかければ、生徒の中に問題意識も生まれ、その解決に向けた協働も促しそうです。
以前の放送(7年前?)を観たときに起こした拙文は以下の通りです。一部加筆と修正を行い、「追記」代わりに備忘録として残します。
この報道をみて思い出したのは、様々な学校で先生たちが口にされていた「清掃活動に積極的に立ち会おうとしない先生もいる」、「朝のホームルームをきちんと使おうとしないクラスも」というお話でした。
確かに、清掃活動は、教室をきれいにすることだけが目的なら、他の方法もありますが、「協働性」や「コミュニティに貢献する姿勢」の涵養が目的である以上、生徒にやらせる以外の選択肢はありません。
また、教育活動である以上、その場での生徒の行動は「観察と評価」の対象です。必要があれば、フィードバックや「問い掛け」を通して十分な気づきを与えていくようにしましょう。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一