授業等で学んだことを定着させるために行う小テスト。授業で習って、復習で覚えて、テスト用紙に再現してと、最低3回は対象知識の記銘機会を作れるだけに、記憶への刻み付けには一定の効果が期待できます。
しかしながら、小テストだけではカバーできないことや、頼りすぎることで生じる弊害(副作用)も少なくありません。これらを踏まえて、その効果的な活用を改めて考えてみる必要がありそうです。
2015/02/26 公開の記事を再アップデートしました。
❏ 習ったことを覚えたかどうかの確認に偏りがち
小テストは、授業等で学んだことの定着を確かめるためのもの。(生徒に「覚える努力」を促す外的動機づけの道具としても多用されます。)
そのため、どうしても「授業などで学んだことを覚えているかどうか」を試すタイプの問題ばかりになりがちです。
もちろん、覚えることは大切ですが、仮に正しく理解できていなかったり、応用が利かなかったりしても「丸暗記」さえすれば正解できてしまうようでは、知識が生きて働いているかを試す機能は持ち得ません。
獲得した知識や理解がきちんと「生きて働くもの」になっているかを確かめずに、覚えること(獲得)だけを求めていると、いつしか生徒の学力観は「勉強=教わったことを覚えること」に歪んでしまいます。
その結果、生徒が身に付けていくのが「定期考査限定学力」(授業で学んだ問題なら正解できるけど、初見の問題に対応できない)では、学ばせたことの意義も怪しくなってきます。
知識の獲得は、活用させる(=生きて働かせる)ための前提ですが、獲得だけが目的にならないよう、常に注意を払いたいところ。「小テストの位置づけ」もこうした考えのもとで検討していくべきです。
❏ “記憶と再現”を、”知識の活用と言語化”に置き換え
小テストに頼って覚えさせることに終始するより、習ったことを別の文脈や問題で使ってみる課題(=知識を活用した課題解決の機会)や「理解したことを言語化する機会」を整えることに先ずは注力しましょう。
本時の授業で学んだことをきちんと踏まえれば正解を導ける新たな問題を用意すれば、獲得した(はずの)知識を参照する機会も作り出せますので、自ずと想起と記銘を重ねさせられます。
また、テストや宿題の形を取らずとも、「そこまでに学んだことに基づく問い」をクラスに投げ掛けることでも同様の効果が期待できます。
例えば、「○○って、結局どういうこと?簡潔に説明してみて」と問い掛けるだけでも、生徒は頭の中でその答えを組み立てようとするはず。自ずと「獲得すべき知識」に再参照し、整理と記銘が進みます。
まとめのフェイズや復習のタスクとして、これらの問いへの答えを仕上げる(=ノートやワークシートに書き出す/文字に起こす)ことを求めれば、ある程度まで「小テストの置き換え」にもなり得るはずです。
単なる記憶と再現(小テスト)を、知識の活用や思考の言語化(適切な問い)に置き換えることで、「理解せずに覚えただけ」という危い状態を検知する機能も備わり、理解の確認もより適切に行えます。
❏ 5分のテストでは50分の学びを網羅できない
小テストの「弱点」は他にもあります。授業では50分をかけて学ぶのに対し、小テストはせいぜい5分。授業で扱った事柄のうち、小テストで確かめられるのは、その一部に限られます。
学習項目の間に重要度で優先順位をつけたとしても、こぼれ落ちるものがあるのは避けられません。
小テストで確かめたこと以外に、理解できてない部分や覚えていないことがあっても、チェックの網に掛からないということです。
生徒自身も理解していない/覚えていないことに気づけませんので、覚え直しも、思い出す練習もなされず、学びは進まなくなります。
また、先生方の側でも、テストの結果(点数や正誤の分布)から、理解の様子/学びの進み具合を全体像として正しく把握できません。
様々な学習活動(調べる、考える、話し合う、教わる)を通して導き出した「結論」だけなら小テストで試し得たとしても、学びの過程での気づき、考えるときの土台といったところまで確かめながら学びを進めるには、問いで作る「活用と言語化の機会」の挟み込みが不可欠です。
❏ 小テストを補完する、学びを見渡す”チェックリスト”
授業で学んだことを一定以上の割合でカバーしつつ、後日の覚え直しの機会を確保するには、振り返りチェックリストの併用がお奨めです。
チェックリストは、授業で学ばせたことを箇条書きにして「解答」を用意しておき、それを導き出すような問いを並べて作ります。
複雑で凝った問いである必要はなく、「○○が○○する仕組みを説明しなさい」「○○とはどんなことか/なぜか?」といったシンプルなものほど、学びを広く、深く捉え直させるのに効果的です。
こうしたチェックリストを予め作っておくと、教える側でも本時の主眼がより明確になるでしょうし、導入フェイズで生徒と共有すれば、本時の学びが目指すところ(何を学ぶか)をイメージさせる効果も得ます。
授業を終える段になったら、チェックリストに立ち戻らせ、各々の問いに答えを作ることを求めれば、生徒は自ずとノートやテキスト全体を見直しますので、ポイントを落とすことなく学習内容を見直せます。
❏ チェックリストの答えは、生徒に自分で作らせる
正解を配布せずに「ノートと教科書を見てチェックリストの答えを自分で作っておくこと」という指示を出すだけでも、効果的です。
答えを配ってしまっては、「習ったことを覚えるだけ」という状態から抜け出せません。(cf. 結論を出さずに終える授業)
頭の中に入っていなかった(理解などが抜け落ちていた)ところは、答え作りの作業を通して埋まるでしょうし、どうしてもわからないところは周囲や先生に訊いて補っていくこともできるはずです。
生徒に任せっぱなしでは、心許ないというのであれば、埋めたリストを提出させるのも結構ですが、その点検もひと手間。リストから問いを抽出して「小テスト」に整え、次の授業で課すという手もあります。
次の授業の冒頭で行った「小テスト」は、相互採点+自分で朱入れを行った後で回収すれば、個々の生徒の履行状況も把握ができます。
中には、取り組みが怪しい生徒(他の生徒の答えを「丸暗記」しただけの生徒など)が居たら、問い掛けて「その場での言語化」を求め、どのくらい理解しているか/頭に入っているか確かめるようにしましょう。
チェックリストを使って学び全体を見直す工程を加えることで、学んだことを機械的に覚えることを求めるだけの「通常の小テスト」と比べ、より深く、確かな理解と記憶への書き込みが期待できるはずです。
その2に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一