進路面談の前に、面談票を用意して生徒に記入させておくのに加えて、学年でアンケート調査を行うと生徒個々の現状把握が容易になります。
全体の集計結果(回答分布)と、個々の生徒の回答を照らし合わせることで、一人ひとりの現状を相対化して捉えることができるためです。
指導方針に迷ったときには、進路指導担当者に相談したり、先輩に助言を求めたりすることもできますが、個々の生徒の状況が正確に掴めていなければ相談のしようもありません。
また、アンケートに答えると生徒は質問文に照らして内省を深めます。進路選択への意識を高めたり、自分の現状が抱える課題を見つけ、その解決に面談を利用する気持ちを強めたりする効果も期待できます。
2014/11/17 に公開した記事を再アップデートしました。
❏ 進路意識は段階を踏んで形成されてきているか
進路希望を作る指導(進路意識形成)の各記事でも書かせていただいている通り、生徒の進路意識は、
- 日々の学びの中で抱いた興味を起点に
- 調べ学習や探究活動を通してそれらを掘り下げる中で
- 学問研究や学部・学科調べに繋いで「学びたいこと」を見つけ、
- 大学訪問などを通じて、そこまでに考えてきたことを確かめつつ、
- 学んだことを通して社会とどう関わるのかを見出していく
というプロセスを踏んで作られていくものだと思います。
中学までの「横断的・体験的な総合学習」を経た後に、高校で「総合的な探究の時間」が設定されるのも、大学入試で「学修計画書」や「志望理由書」が重要な選考材料に位置づけられるようになるのも、進路選択のプロセスを如上のものに変えることを求めているのだと思います。
入学から卒業までの進路/キャリア指導のグランドデザインは、如上の流れと各フェイズの繋がりを意識したものであるべきだと思いますし、本シリーズのテーマである面談指導もそれに沿って行われるべきです。
❏ 各フェイズの重点目標の達成度を自省させる質問文
面談指導に先駆けて実施するアンケートは、各学年・学期の指導がどのフェイズに相当するかを明確に意識した上で、それぞれの到達目標の達成度を測れるものに調える必要があります。
例えば、指導計画がフェイズ3に差し掛かるところであれば、
- 探究活動を通して自分の興味をさらに深めることができた。
- 探究テーマについて先端研究の様子を論文検索などで調べてみた。
- その中で興味や関心を刺激されるものが見つかった。
- 大学に進んで学んでみたいことが具体的にイメージできてきた。
といった質問になろうかと思います。
それぞれに到達状態を段階的に記述した「規準」を書き出して、ルーブリック形式に整えれば、進路意識形成の状況を集団/個人のそれぞれについて定量的に捉えることができるはずです。
前後の学年で、質問の一部を重複させておけば、個々の生徒の回答や学年・クラスでの回答分布の変化を追跡して把握できますので、前回調査以降の変化量(=指導成果)も推定する材料が得られます。
❏ アンケートの質問設計はグランドデザインに添って
言うまでもありませんが、如上のアンケートで進路意識形成の状況を把握しようとする場合、進路指導計画のグランドデザインもそれに応じたものに切り替えておかなければなりません。
測定している事柄を達成できるだけの活動(体験や学習の機会)が用意されていなければ、測っているだけで資質獲得や成長の機会を提供していないことになってしまいます。
別の言い方をするならば、教育活動のグランドデザインや進路指導計画を新しい時代の要請に応えるものに更新した上で、それに応じた調査項目や質問文を設定するという手順が求められているということです。
❏ 母集団の回答分布に照らして個人の課題を特定
観点毎に回答分布を学年単位で把握しておくと、それに照らして、個々の生徒の進路意識形成状況を定量/相対的に推定することもできます。
一人の生徒の回答だけを眺めていても、良い状態なのか問題を抱えているのか判断がつきませんが、学年平均との比較をするだけでも、
- 興味の発現は十分だが、それを深掘りする体験が足りない
- 学部・学科研究には熱心だが、学問探究への意識が希薄
- 頭で考えたことを確かめてみる機会を持とうとしていない
といった問題を抱えているのではないかという推測が立てられます。
過年度生で進路希望作りとその実現の工程をうまく踏めた生徒のデータも利用すれば、「この時期なら、この領域はこれくらい、この領域はここまで」という目安も立てることができるはずです。
複数の質問文を、いくつかの観点に分けて、それらをまとめた小計で比較(もう少し厳密にやろうとするなら、主成分分析などの統計手法も使えます)を行えば、より総合的・多角的な評価が可能になります。
❏ 様々な資料を併用して総合的に状況を把握する
アンケートの結果だけを頼りにするのではなく、生徒がそれまでに書いた小論文や進路行事での各種ログなどにも目を通しましょう。
様々な場面での内省を文字にしたものですから、社会やそれに関わる自分(=進路)について、どんなことをどこまで深めて考えてきたか端的に示してくれる大切な資料です。
探究活動をゼミ形式で行っていると、クラス担任がログに目を通していないこともあります。面談期の前には情報共有を徹底しましょう。
総合的な探究の時間での成果品、体験行事やインターンシップなどでのレポートも、生徒が抱える課題の推定に大いに参考になるはずです。
併せて、アンケートと同じ質問文に照らして行った「指導者側での観察や評価」の結果との突合せもしっかり行いたいものです。
こちらの見立てと大きく違う答えを選ぶ生徒も少なくありません。
質問文に照らした自己評価が不確かな生徒には面談の対話の中で内省をやり直させる必要もあるでしょうし、日頃の観察の不備から、教える側が生徒の成長/変化に気づいていなかったことを知ることもあります。
その4に続く
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一