クラス内で生じた学力・学欲差への対処法(その4)

クラス内に学力差が拡がるということは、生徒の躓きが起こり得る箇所が多様化することを意味します。学びは前段の理解の上に積み上げていくものですから、新たに教えた/学ばせたことの理解が固まらないところに次の内容を積んだところで意図通りの結果にはなり得ません。
こまめに理解を確認できる状態を作っておき、次に進むための前提が整っているか一つひとつ確かめながら授業を進めるには、タスクを分割して付与する「スモールステップ化」が効果的です。
学欲(学ぶことへの自分の理由)に乏しい生徒は、少しわからないことがあっただけで立ち止まってしまい、動き出すまでの間に学力差が更に拡がっていくという悪循環も何としても断ち切りたいところです。

2014/11/11 公開の記事を再アップデートしました。

❏ わからずに止まっている時間が差を広げる

答えを導き出すのにいくつもの工程を踏まなければならないタイプの問いを、クラス全体に投げかけたとしましょう。
考えるに必要な前提(知識と発想など)が整っていた生徒はすぐに手と頭を動かし始め、その中でまた新たな学びを重ねて行きますが、既習事項の理解が十分でなかったり、解法の手掛かりを見つけられなかったりする生徒は、手も頭も動き始めず、立ち竦んだままです。
当然ながら、如上の問いを解く中で得られる知識や気づきを獲得することもなく、次の問いや課題に進むことになりますので、できないことが増えるばかりであるのは想像に難くありません。
スタート時点で先行していた生徒が歩を進め、後列にいた生徒がその場に立ち止まっているのですから、その差は拡大するだけ。不用意な課題の付与が、悩みの種である学力差を拡大したということです。
ちなみに教室で起きるこれと全く同じことが、授業準備として課す予習でも起きます。むしろ支えてくれる周囲がいない分、問題は深刻です。
予習の指示を出すときは、前の授業の終わりまでに、履行に必要な事柄を揃えさせるレディネス指導をしっかり行うことが大切です。

❏ スモールステップで進め、不明の発生を確実に捉える

一度に投げかけるものが大きいと、出口にたどり着けなかった生徒がどこで躓いたか把握できません。
途中で頭と手が止まっているなど、タスクへの反応が怪しい場合は、プロセスを分割して、小さな問いを投げかけ直し、ワンステップずつ理解と思考を確かめるようにしましょう。
問われれば、生徒は答えようとして手持ちの知識や発想を動員します。その中で「解を導くのに足りていないパーツ」の存在に気づけば「わからない」という表情が顔に現れます。
不明の発生に気づきさえすれば、教科書やノートのページを開いて調べさせることもできますし、隣同士で教え合う場を作って相互に知識や発想を補わせることもできます。
生徒を動かしてみれば、観察の窓 を開くことができます。暫く待って頑張らせれば自力で不明を越えて来られるのか、こちらから手を差し伸べる必要があるのか判断しながら、次の一手を考えましょう。

❏ 躓きの大きさによって対処法を変える

わざわざ立ち止まるまでもない小さな躓きなら、理解できていそうな生徒を指名して、思考を言語化させ、それをクラス全体で確認して先に進むのも好適です。
そこで確認した「絶対に押さえておかなければならないポイント」 は、黒板の隅にでも書き出し、生徒の視野に固定しておきましょう。
耳で聞いてその場では理解できても、暫くすると、後から入ってきた情報に記憶が上書きされてしまい、思い出せなくなります。黒板に書き出し、生徒の視野に固定しておくのはそのリスクへの対策です。
逆にクラスの大半が前提知識を欠いていたり、着想を持てずにいたりする場合は、躓きの発生箇所を予測しきれなかったことを反省しつつ、躓きの起点に立ち戻って、問いの分割/焦点の置き直しで、理解形成のプロセスを辿り直しましょう。
如上の問い直しを経ずに、正解を教えてしまうことでその場を通過することを優先すると、思考力を鍛える場、不明を解消する方策を獲得する場を生徒から奪ってしまいかねません。

❏ タスクの分割で「観察とリカバーの機会」を確保

わかっていないことに気づいてあげられれば、違う角度から問い直したり、欠落していたものを補ってあげたりすることもできます。
課題解決のプロセスを小さく分割して、スモールステップで学びを進めさせることの意味は、

  • 不明の発生を、手遅れになる前に気づいてあげる態勢を整える
  • 生徒自身が躓きから立ち上がり、不明を解消できるチャンスを作る

という2点にあるのだと思います。
これは、課題を与えるとき、問い掛けをするとき、板書しながら説明をするときにも共通する、基本的な考え方のひとつだと思います。
但し、プロセスを過度に細かく分割するだけでは、着実な理解は作れたとしても、展望を持って解法(正解にたどり着く工程)を考え出す力を養うことはできません。できる生徒には退屈な授業にもなりがちです。
PBL(課題解決型学習)の要素を十分に含んだ学びの場とバランスよく併存させることも重要であり、そうした授業の全体設計や指導計画作りは先生方の腕の見せ所の一つだと思います。

❏ 参照型副教材を頻繁に活用する習慣

先生方が与えた情報に一度触れるだけで理解が形成され知識が蓄積するなら誰も苦労しません。理解と記憶の力にも個人差がありますので、中には一度でスパっと覚えられる生徒もいるでしょうが…。
記銘を繰り返すことで、記憶は保持され、想起できるようになります。個々の知識の使い方を少しずつ拡張していくにも、様々な文脈でその知識にアクセスする機会が必要です。
こうした再記銘/意味の拡張を図る場面でも、先生が説明を繰り返すのでは、聞いている方も退屈ですし、自力で情報にアクセスし、読んで理解する力も養えません。
しっかり使わせたいのは、用語集や参考書といった参照型副教材です。
必要な情報を一元的に備え、常に参照できるこれらの副教材は、生徒にとって本来は「そこを見ればなんとかなる」という安心の源であるはずですが、きちんと活用できている生徒はそれほど多くありません。

なお、参照型教材は、それを持たせた瞬間から継続して、授業中に頻繁に参照させ、補足を書き込んだりマークアップさせたりすることが重要です。受験期に入って全体を覚えなおすべき局面を迎えたときに、かなりの部分を「学習済み」の状態にしておくことができます。
初めて開く単語集を見て、1ページに20の単語があったとして、20語を丸ごと一から覚えなければならない状態では中々先に進めません。進みの遅さに徒労感が募って、やがてほっぽり出してしまいます。
一方、虫食いのように残った未習部分を埋めて行くならペースを上げて進められ、授業での学びとの連想が働く箇所なら理解も深まります。
その5に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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