生徒に考えさせる授業規律

教室での学びは集団で行うものですから、そこには生徒と教師が互いに守るべき一定のルールやマナーがあります。一人一人が気の向くまま自由奔放にというわけにはいきません。新年度の授業開きなどで各教科の先生から授業中の約束事を話して聞かせることも多いかと思いますが、生徒はなぜその決まり事があるのかきちんと理解しているでしょうか。

2015/09/18 公開の記事を再アップデートしました。

❏ そのルールの存在理由、生徒はわかっていますか?

ルールやマナーの一つひとつについて、それらが存在する理由を生徒がしっかりと理解していなければ、生徒は先生が決めたルールに従っているだけであり、守らせるための圧力も必要になります。
当然ながら、どんなルールを設けるにせよ、それに従わせることが目的ではありませんよね。
それらを守ることによって集団としてのメリットがあり、守られる個人の権利があるからこそ、様々な約束事が共有されているのは、社会でも教室というコミュニティでも同じだと思います。
そうした根っこの部分を考えさせることなく、ルールの字面だけを示して守らせようとしたところで、生徒はそれらを守ることに自分の理由を持ち得ません。
守る方も、守らせる方も不要なストレスを抱えるような状態は、あまりハッピーなことではなさそうです。
守ることで得られるメリットや守られる権利がないルールなら、リストから削除してしまったほうが余程スッキリしますし、守らない生徒の指導にエネルギーを浪費することもなくなるように思えます。

❏ 守るべきルールは生徒たち自身に考えさせる

守るべきルールと、それを守ることでもたらされるものとが、生徒の頭の中できちんと関連づけられているかどうかが、ルールが正しく運用されているかどうかを判断するときのポイントだと思います。
何とか思いを伝えようと、先生がLHRで長い時間を割いて話を聞かせても、生徒の側では“説教された”くらいの認識に止まりかねません。
そのルールが存在する背景の理由(=守ることの先にある目的)を考える中で、“目的に対する理解と共感”を作ってこそ、ルールを守るモチベーションが生まれるのだと思います。
係や委員会の仕事と同じように、自分たちがなすべきことと、それによって生み出される価値は何かを、生徒自身に個人/グループで考えさせる機会を作ってみてはいかがでしょうか。
様々な立場からのメリット・デメリットを考え、最適な落としどころを見つける思考の訓練にもなり、卒業後の社会生活を営む上での土台作りにも貢献するはずです。

❏ 生徒もまた学びの環境を整える役割の半分を担う存在

ルールで縛る前に、生徒が退屈しない授業を行い、学びに引き込んでしまえば良いというご意見もありますし、確かにそうだと私も思います。
しかしながら、生徒もまた授業を作る当事者であり、より良い学習環境を作る責任の半分は生徒の側にもあるはずです。
新学習指導要領では、主体的・対話的で深い学びへの転換が進み、学びの場で生徒が果たす役割はこれまで以上に大きいはず。生徒には、

  • どんな行動をとると生徒一人ひとりの学習成果が最大になるか
  • クラス全体のより大きな進歩に、自分はどんな貢献ができるか

を、どこかのタイミングで考えさせる必要がありそうです。
こうした場を各教科の担当者がそれぞれに設けては、貴重な授業時間がどんどん失われてしまいますし、先生ごとに守るべきルールが違うというのも、生徒にとっては理解しがたく、面倒な話です。
ホームルーム単位でディスカッションを行い、学年内で調整を行ったのちに、教科担当として学年の授業を受け持つ先生方にも議論の結論を伝えて、理解と協力をお願いするという形が良いのではないでしょうか。

❏ 守るべきルールも学習者のステージにより変化する

生徒たちは、小学校以来、何年も教室で過ごしているだけに、様々な学びの場での約束事を知ってはいるはずです。
しかしながら、学年が上がれば当然ながら学習者としてのステージが上がり、そのたびに学習者として期待される行動も変わります。
これまで経験してきたのと違うスタイルの授業であれば、取り組み方にも変化が求められますよね。
一斉授業では先生の話を集中して聴けば良かったとしても、協働学習の要素が取り込まれたら、「グループの中での役割やチームへの貢献」といった要素の優先順位が上がるはずです。
もちろん、先生方も、学びの変容に合わせて「期待される学習者行動」を考え続け、約束事自体を常にアップデートしていく必要があります。
個々の先生が自分の思いだけで約束事や生徒に伝える期待を考えては、教員間でばらつきが生まれるだけでなく、大事なところを見落としてしまうリスクも抱え込んでしまいます。
ルーブリック評価の導入はなぜ必要なのか“でも書いた通り、「生徒に望む行動」を観点毎に順序をつけて並べてみることで、考えを整理するとともに、教員間での目線合わせをしっかり行いましょう。

❏ 結論を急がず、インターバルを挟み思考を重ねさせる

生徒自身に授業規律を考えさせるときにも、先生方が議論と目線合わせを行うときにも、一度の機会で結論までもっていこうと、まとまった時間をとって長々と話し合ってもらっても上手くいきません。
その場だけでは考える材料も揃うとは限りませんし、周囲の意見や考えに触れて、自分の考えを新たに作り直すには、持ち帰ってじっくり考える「消化」の時間も必要です。
最初は、投げかけて数分間考えてもらい、手元にメモを起こしてもらうだけで切り上げてしまっても良いかもしれません。
数日を経て、そのメモを取り出して改めて考えさせる――こうしたことを幾度か繰り返して十分にウォーミングアップが図れた時こそ、結論を出すべきタイミングです。
インターバルを置きながら、いくども思考を重ねた方が、結果的に考え続ける時間が長くなりますし、最終的な結論もより仕上がりの良いものになるように思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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