生徒が学んできたこと、経験してきた学び方の確認を

どの教科の学習指導でも同じですが、本時の学びに繋がるところ[既習内容]を、目の前にいる生徒がどこまで/どのように学んできたか正しく把握した上でなければ、効果的な学びの場は作り出せないはずです。
知っているだろうと先生方が思い込み、「既習」と想定していたことを生徒が学んでいなかったとしたら通じる話も通じませんし、既に学んで知っていることを「初出」と取り違えていても無駄が生じます。既視感の中で退屈を覚えている生徒も、「先生、それは中学で勉強しました」と声を上げてくれるとは限りません。

❏ 新課程への移行で変化した「既習内容」を捉えなおす

新課程への移行で、これまでなら「既習内容」とすることができた範囲にも変化が生じています。授業をデザインするとき、「生徒が入学前に学んできたこと」の想定と確認は十分でしょうか。
生徒の出身エリアのすべてをカバーするところまで小中学校の教科書を取り揃えて目を通すのは容易でないでしょうが、一冊は職員室に備えて置き、新しい単元に入る前にはその記述を確認したいところです。
単元名や項目名が同じでも、教科書での扱いが以前とは大きく違っているかも。以前と同じ「前提」で臨んでは授業デザインを誤りそうです。
新しいカリキュラムを組む作業の中で、小中学校での指導要領は十分に研究されたと思いますが、個々の指導案を起こすときには、より細かいところ(=教科書での記述)まで見直していく必要があります。

❏ 既習内容の事前確認と、新内容理解のための土台整備

小中の教科書に載っているからと言って、知識・理解がきちんと獲得されているかどうかはわかりません。小中学校の先生方だって、新課程への移行で各学習内容の扱い方には戸惑いもあったかと思います。
また、コロナ禍にあって、一斉休校中の「自学教材」として学んだだけだったり、不慣れなリモートで質問もできなければ教え合い・学び合いもできない中で、理解に躓きが生じていたりするかも。
これから学ばせようとしていることが「土台として必要とすること」を生徒がどこまでわかっているか、知識として獲得できているかは、事前に確かめておく必要もあろうかと思います。
新単元を学ぶときには、当然ながら、新しい概念や用語が飛び交いますが、既習内容との結びつきが取れないところでは、認知の網(下記)から漏れますし、聞いたそばから後の話に上書きされて頭に残りません。

ものごとの認識や理解は、既に獲得している知識との照合によって行われます。既に知っていることやそれらが互いに繋がることで作り出された「認知の網」に引っかからない情報は拾い上げることができません。(5教科7科目に挑ませることの意味

学習履歴(何をどう習ったか)が様々である以上、それらをすべて把握して、今日の授業のスタート地点を正確に設定するのは困難です。
ここはひと手間かけて、これから学ぶことが必要とする「最小限の認知の網」を事前に張ってしまいましょう。やることは単純です。
具体的には、導入フェイズで教科書を声に出してみんなで通読し、全体像をざっくりとさらっておくことです。これだけでも、その後の説明を個々に聞くときに、どこに関連づくものか見出し易くなるはずです。

❏ 既習内容の習熟不足が致命傷になり得る場面では

既習内容の理解が特に大切な(=カリキュラム上のスパイラルが途切れると次に進めなくなる)新単元では、土台となる「必要最小限の知識・理解」に限定したミニテストの事前実施なども検討したいところです。
テストの結果、欠落している部分があっても、「教え直し」ではいくら時間があっても足りないでしょうし、既に十分に理解している生徒は、先に進むのを止められ、退屈な時間を強いられることになります。
前提とする知識をリストにした補足プリントを配っておき、テストの間違い直しをする中で最小限の知識を補わせたり、授業中に参照しながら新単元の学びと前提の補完を同時並行に図らせるのが好適です。

❏ 学び方(経験した学習活動)も大きく変わっているかも

生徒が学んできた内容だけでなく、それらを「どう学んだか」も以前とは大きく違っている可能性があります。
教科書に記載されている内容を「知識・理解」として獲得する過程で経験してきた学習活動も、これまでと大きく違うかも、ということです。
各教科の単元内容に関わるところでの調べ学習や、その結果をまとめた発表/プレゼンテーションなどの経験があれば、そこで得た方法や姿勢をこれからの学びに活用できる場面も多々あろうかと思います。
グループワークにしても、単なる「話し合い」を超えて、ディベートやワークショップ、ジグソーの要素を含むところまで経験しているかも。
授業にこうした活動を取り入れようとするときに、入学前にこれらを経験してきた生徒がリーダーシップやフォロワーシップを発揮してくれれば、活動の実りもより大きなものになる可能性があります。
小中学校での「〇〇(教科)の授業で、経験したことがある活動はどれか。自分はどう参加したか」をミニアンケートなどで把握しておき、班を分けるときの判断材料にしてみても良いのではないでしょうか。
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昨日、「全国学力・学習状況調査」の結果が発表されました。来年度のカリキュラムを考えるにはまだ時期が早すぎますが、2学期からの授業を考えるときに、現在の小中学生がどんな力を身につけているか、どんな学びをしてきたか、調査の結果から想像しておくことも大切です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一