授業内での活動性を高めることが学習効果の実感に直結することは、これまでの記事でもお伝えしてきましたが、一見したところ授業内活動とは何の関係もないように思える「わかりやすく整理された板書や資料」が、活動性の向上に大きく貢献していることを示すデータがあります。
2018/07/30 公開の記事をアップデートしました。
❏ 充足感のある授業内活動は学習効果に直結する
授業内の活動性を高め、それを通して生徒が充足感を得ると、生徒は学びの成果(=学力の向上や自分の進歩)を強く実感します。
授業内活動 | 討論や練習、作業などの活動を通じて充足感を得ることは、{とてもある(+10)~まったくない(-10)} |
学習効果 | 授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できる。 |
グラフの横軸には、「授業中の活動を通して充足感を覚えることがあるか」という質問に「とてもある」~「まったくない」の5段階で答えてもらった結果を得点に換算したものを配しました。
活動を通して充足感を得ることが「少しある」に相当する±0の付近では、縦軸においた学習効果(「授業を受けて学力の向上や自分の進歩を実感できる」への回答を得点化したもの)で75ポイント(否定的な回答が10%未満となる水準)に達する授業はほとんどありません。
散布図に重ねたヒストグラムや、近似曲線が{学習効果=75}と交差する位置から見て取れる通り、{学習効果≧75}の分布が優位に転じるのは、横軸(授業内活動)の値が+2.5 以上(回答分布で言えば、「少しある(0)」と「かなりある(5)」が拮抗するあたり)に達したときです。
新課程では「学ばせ方」の改善も求められており、「主体的・対話的で深い学び」がキーワードですが、対話などの活動性を高めて、その中で得る学習者の「気づき」を大きくしていくことが、学びを深く、確実なものにする上で欠かせないことが改めて確認できます。
❏ 視覚の助けを借りた確実な理解が活動性を高める
一方で、授業内での活動性とは一見無関係に思える「板書やスライド、資料」といった視覚での学習補助がきちんと機能していない授業では、活動性[授業内活動]が高まらず、学習効果を引き上げる上でのボトルネックになってしまうことがデータで確認できます。
下図は、横軸に「板書や資料」の得点、縦軸に「授業内活動」の得点を配した散布図です。学習効果が80ポイント以上に達した「優良実践」と、70ポイントに満たない「要改善授業」を分けて表示しました。
知識や理解は、思考のための道具ですから、それらを揃える段階で視覚での補助を上手く働かせないと、道具が欠落した中での活動となり、生徒一人ひとりの思考の結果をやり取りする対話も上手く機能しなくなるのは想像に難くないところです。
聴かせるだけでなく、目で見て確認し、手で書き写すことで、大切なところを意識と記憶に刻み付けるようにしたいところ。暫く時間が経った後でも、ノートを見返せば必要な情報が効率よくピックアップできるようなら、たとえ記憶から想起できなくなっていてもリカバーできます。
また、活動の手順(プロシージャ)を提示するにも、口頭だけで済ませたり、構造化/整理されていない「手順書」に基づいたりしては、行動を誤る生徒や戸惑いで立ち止まる生徒も多くなってしまうはずです。
練習や作業の手順は、取り組みのポイントとともに視覚資料の中に固定して、練習/作業に取り組む間にも必要があればいつでも「そこを見れば確認できる」ようにしておけば、戸惑いも生じません。
新たな課題の解決を図ることを目的に「情報を集め、整理し、知識に編む工程」を生徒に経験させていく場面も、これからの学びの中で増えていきますが、そうした「情報の整理・構造化のやり方」を学ばせる上でも、黒板という「ノートに再現できる平面」の上に生徒の発言や前段の理解を固定しつつ「動的に展開」できる板書は重要な役割を担います。
❏ 活動を終えて振り返るときの拠り所
学習活動に取り組ませたときは、予定の手順を終えて「はい、終わり」ではありません。出来上がった自分の答えや取り組みを振り返り、成果のたな卸しと次に向けた課題形成に向かわせる必要があります。
その時に大事な拠り所となるものの一つが、学びながら思考の過程を記録してきたノートなどです。どんなノートが残されるかは、先生方が作った板書やスライド、資料などのレイアウトにより大筋が決まります。
板書やスライド、プリントを作るときに、「どのように学びの痕跡を残させるか」まで十分な意識を向けているかどうかは、単なる知識などの効率的な伝達だけでなく、主体的な学びに向かわせるための振り返りにも影響を及ぼすということです。
対話的な学びに「主体的な」という要素を加えるためにも、視覚での学習補助をしっかり働かせることが重要であるとお考えいただくのが好適かと思いますが、いかがでしょうか。
当然ながら、学び終えて、そこに至るまでの学びで身につけたものを再確認したり、足りないものを加筆しつつ、整理し直したり、再構成したりすることを通して、より深い学びも実現に近づいていくはずです。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一