遠隔授業のデータから考える対面の良さを生かすポイント

今年も幾つかの大学での本年度前期の授業評価アンケートのデータを分析する機会に恵まれました。今年はコロナ禍で対面授業ができず、前期を通してずっと遠隔授業が行われていたこともあり、項目間の相関など集計結果には例年と違ったものが方々に見て取れます。
対面授業が行われていた過年度と比べ、遠隔授業では以下のような変化が生じており、どうやら特定の大学だけの現象ではなさそうです。

  1. 教員の理解確認と学生の到達目標達成との相関が弱くなる。
  2. 興味関心の発現が、自主的な学習行動に繋がりにくくなる。
  3. 配布物や資料が授業理解に役立ったかでの評価が低下する。

対面でなら普通にできていたことができない遠隔授業という学習環境がもたらした如上の変化の中には「対面授業が持つ活かすべきポイント」があるはずです。データに現れた変化を起点に、今後の教室での対面授業を行うときに押さえるべきポイントを考えてみます。
❏ 理解確認からアクションを起こすまでをよどみなく
理解確認「(先生が)理解を確かめながら授業を進めてくれる」と目標達成「(自分は)授業の目標が達成できたと思う」との間には、ご想像いただける通り、きわめて高い相関がみられるのが通例です。
遠隔で行われていた授業でも、有意な相関が観測されるものの、対面での授業と比べてみると、両者の相関は明らかに弱くなっています。
この変化が意味するのは、遠隔授業では理解確認の重要度が下がるということではないはずです。理解の確認を行ってから、その結果に基づき先生方がアクションを起こすまでに生じる「タイムラグ」が、理解確認を行うことの効果をスポイルしたと考えるのが妥当だと思います。
授業を進める中で、学生が「??」という表情を浮かべたら、先生方は別のアプローチで説明をやり直したり、前提知識に立ち戻ったりすることで、学生/生徒の理解を確かなものにしようとします。
しかしながら、Zoomなどを使って生徒の表情が見える場合を除くと、遠隔授業では学生/生徒の理解の様子が把握できるのは提出物(小テストやレポート)が手元に届いた後です。
学びの途中でわからないことが生じたら、その後の学びには不明が膨らむばかり。固まっていない土台に積み上げたものは容易に崩れます。
次の授業で先生が補足の説明を行い、最小限の知識や理解を確保してくれたとしても、前回授業の後半で「前段の理解をもとに積み上げさせることを狙っていた気づきや思考の深まり」を取り戻すところに至るのはちょっと難しいかもしれません。
対面で授業を行っているときは、リアルタイムで学生/生徒の理解や反応を確かめながら授業を進められるという大きなメリットがあります。事前に作った進行計画をなぞるだけだったり、生徒の反応を見てのこまめな軌道修正を怠ったりでは、そのメリットは生かしきれません。
❏ 興味関心の発現を見て取ったらすかさず次の問い
授業で学んだことに興味や関心が生まれたかという問いと、自分から進んで調べたり、考えたりしたかという問いへの回答の相関も、遠隔授業では対面授業よりもかなり希薄になります。
前段の、理解確認と背景のメカニズムは同じと考えられますが、学生/生徒の表情や発言から興味・関心の芽生えを感じ取ったときには、視野を広げて調べてみるべき課題を提示したり、調べる方法を提示したりといった、「次の学びへのガイド」を遅滞なく行いたいものです。
リフレクション・シートに記載されたものを見てからでは、既に生徒のワクワクは消えてしまっており、一歩踏み出させるタイミングを逃しているかもしれません。「鉄は熱いうちに打て」ですよね。
また、「調べてごらん」だけでは、何をどう掘り下げていいものか、学生/生徒もピンときません。「この本を読んでごらん」という助言も、そのメリットを直感しなければ図書館に足が向くことはなさそうです。
専門家として先生方が持っている豊富な知識を動員し、学生/生徒が感じた興味関心を膨らませるエピソードや先行研究を紹介してこそ、学生/生徒の次の学びに向かう行動が起こせるのではないでしょうか。
教室での対面授業でも、学生/生徒の反応には十分に観察の目を向けるとともに、効果的なカードをタイミングよく切れるよう、日頃から手札の整理をしておくことが大切だと思います。
❏ 関連資料は配っただけでは、学びに活かされない
冒頭に挙げた変化の3番目にも興味深いものがあります。遠隔授業になって「授業で配られた教材や資料は授業理解に役立った」という評価が大なり小なり低下している様子です。
配布したのは、昨年度のものと同じか、さらにブラッシュアップしたものであったはずなのに「授業の理解に役立たない」というのは、教材や資料そのものの内容や構成の問題ではないはずです。
教室でなら、プリントを配れば、読み合わせや補足説明をするのが普通でしょうが、遠隔授業でWEB経由で配信する場合は、「じゃあ、読んでおいてね」で済ませてしまうことも多い気がします。
すべての学生・生徒が、教材・資料を自力で読んで理解できるとは限りません。書かれていることについて先生方から問いを投げかけ、理解を誘導したり、深く考えながら読むのを促したりすることも大切です。
ましてや、書かれていることに問いを立てることもなく、鵜呑みにしているのをそのままにしては、深い学びは期待できないように思います。
もしからしたら、「授業で扱いきれないかもしれないから、とりあえずプリントにして配っておこう」と安易に配られたものもあったかも。
対面授業の中でも、プリントなどで配る追加の教材や資料は授業の流れにしっかりと関連付け、生徒自身に読ませて、理解したことを先生からの問いでさらに深めるという働きかけを疎かにしないことが大切なのだと、改めて感じさせられたデータです。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一