新型コロナウイルスの影響で当初の計画に大幅な見直しが迫られていますが、新課程への移行という眼前に迫る特大の課題も待ったなしです。来年度以降の教育課程表も、検討が進みフレームは出来上がっているでしょうが、大切なのはそのフレームにどんな中身を収めるかです。
先進的に行われてきた様々な取り組みの中で生み出されつつある知見や好適な指導方法を、校内で共有し、ブラッシュアップしながら、新しい学力観に沿った学ばせ方として実践を広く浸透させていきましょう。
❏ 新課程の土台となった「21世紀型能力」
国立教育政策研究所が、教育課程の編成に関する基礎的研究(報告書5)で「21世紀型能力」を提案したのが2013年の3月。それから7年が経過しました。新課程への移行が眼前となった今、提案が目指したところをおさらいし、計画中の教育活動/指導計画がその能力の一つ一つを実現できるものになっているか確認してみるのも有益かと思います。
最も外側にある【実践力】は、自律的活動、関係形成、持続可能な社会づくりといった要素で構成され、以下をイメージしています。
生活や社会,環境の中に問題を見いだし、多様な他者と関係を築きながら答えを導き、自分の人生と社会を切り開いて,健やかで豊かな未来を創る力
全体のコアをなす【思考力】の構成要素は、問題解決・発見・創造力、論理的・批判思考力、メタ認知・適応的学習力です。
一人一人が自分の考えを持って他者と対話し、考えを比較吟味して統合し、よりよい答えや知識を創り出す力、さらに次の問いを見付け、学び続ける力
思考力の柱となっている【基礎力】は言語・数量・情報の各スキルで構成される力とされています。
言語や数量、情報などの記号や自らの身体を用いて、世界を理解し、表現する力
報告書5の2年後に刊行された「資質・能力を育成する教育課程の在り方に関する研究報告書 1」では、さらに検討が重ねられています。
同報告書は136ページもあり、まともに読もうとすると少々げんなりしますが、8~10ページめあたり(文書のページ番号ではⅶ~ⅸ)を熟読するだけで、主旨とするところは十分に理解できます。
これらの力と各構成要素のひとつひとつについて、自校の教育/自分の授業のどの場面にその育成を図る機会が設け得るか洗い出しておくと、それぞれの場面で目的意識をより明確にして指導に当たれそうです。
❏ 思考力の柱を形成する【基礎力】
内側から順に考えて行こうと思いますが、まずは、テクストやデータを生徒が自力で読んで理解する機会を積極的に作る必要があります。理解する工程を先生が不用意に肩代わりしては、生徒から練習の機会を奪ってしまいます。教科書はきっちり読ませるようにしたいところです。
→ 教科書をきちんと読ませる
データを読む力、グラフからメカニズムを探る力を養う機会も、しっかり作ってあげたいところ。資料を提示したら説明を始める前に、グラフやデータテーブル、イラストや地図といった非言語情報を言語化する練習をさせましょう。
→ 非言語情報を言語化する力
❏ 実践力のコアとなる【思考力】
思考力の各要素のうち、問題解決では「魚を与えれば一日食いつなげるが、魚の取り方を教えればずっと食べていける」という格言を思い出します。解法を教えるのではなく、解法を見つけるすべを学ばせることに注力したいもの。「正解ありきで教えていないか?」は常に意識しておきたいことがらです。
生徒に問いを立てさせる場面も積極的に作りたいところです。教科書を自力で読む中で、明らかにすべき問題を見つけ、それを問いの形で言語化する練習を早いうちから積ませ、問題の発見と想像の力を養うことがこれまで以上に求められます。
→ 生徒に問いを立てさせる
論理的・批判的・創造的思考を養うのに大きな役割を担うのは、探究活動でしょうが、教科学習指導の中でPBL(課題解決型学習)、賛否の分かれるイシューや答えが一つに決まらない問題を扱う場面も重要な役割を果たすことが期待されています。
→ 探究活動を通して養う”ファクトフルネス”
→ 論点(イシュー)を使った単元導入
定義が難しい「批判的思考」は、以下の3つの観点で捉えるのが好適です。PISAが測定する「読解力」と通じる所も多そうです。
- 一定の規準[criteria]に照らし論理的・合理的に行う思考
- 目標や文脈に応じて方向付けられる(目標志向的な)思考
- 推論のプロセスを意識的に吟味する内省・熟慮を伴う思考
PBL型の課題に協働で取り組ませる中で、根拠や理由を言語化させることや、そこに内在する矛盾の解消を対話で図らせることが、これらの獲得の機会となると考えます。
メタ認知・学び方の学びは、学習者としての自立に近づけるために欠かせない要素です。自ら学び続けられる生徒を育てることは重要な指導目標の一つであるのに異論はないはずです。
振り返りを通じてこれまでの学びの成果をたな卸しすることで科目への自己効力感を高めることに加え、次の機会でのより良いパフォーマンスのための課題形成を図らせましょう。
→ 言語化を通じて育む「振り返りのための相対化スキル」
❏ 思考力と外界の接点である【実践力】
上の図表で外周を形成している【実践力】は、学習を通じて獲得した基礎力や思考力を外界(自分の身の回りや社会)との関りの中で発揮するために必要なものです。
新課程で始まる高校での「総合的な探究の時間」は、まさにこの力を養成するための場として位置づけられるものだとお考えください。
日々の教科学習指導の中でも、探究的な学びや拡張型調べ学習(cf. 情報を集めて編む作業で知識獲得の方法を学ぶ)に繋ぐ一問を先生方が提示できるかが問われます。
→ 探究から進路へのきっかけを作るプラスαの一問
→ 知識をどこまで拡張するかは個々のニーズに合わせて
探究活動に取り組ませるときも、活動を自己目的化せず、学んだこと/知ったことに当事者としてどう関わるのかしっかり考えさせましょう。教科学習指導と探究活動、進路指導が一体となり、こうした力を養える仕組みになっているか、始動前に検証しておきたいところです。
→ 調べたことの先に~新たな知と当事者としての関わり
→ 学習指導、進路指導、探究活動で作るスパイラル
基礎力や思考力の獲得に向かわせ、意欲的な学びの姿勢を引き出すためには、外周に位置するこれらの能力を育み、自分の学びがどこに繋がっているのか見出させることが重要です。
学びの意義を見出し、先生方が整えて下さる正しい(=新しい学力観に沿った)学びの場に意欲的に参加すれば、高大接続改革で大きく変わる受験にも十分に対応できるはずです。
教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一