年間行事予定の書きだし方(その2)

年間行事予定表は生徒が常に参照できるようにしておきましょう。先の予定をきちんと把握していれば、次にどんな選択や課題が控えているのか、それに向けて何をすべきなのか、生徒の意識は自ずと高まります。
心構えも準備もなく、指導機会に臨んだり行事に参加したりでは、そこで得られるものはぐっと減ってしまいます。何を学ぶのか、そのためにどんな準備が必要なのか生徒自身が考える機会を作ることが大切です。
もっとも、年間行事予定を配布してあっても、どこかにしまい込まれては見てもらうことさえできず、期待した効能は得られません。取り出して眺める機会を作ったり、毎月発行される進路通信には向こう3か月の予定を欠かさず掲載したりといった仕掛けの併用も必要です。

2014/07/25 公開の記事を再アップデートしました。

❏ 余計な情報が混入しない&内容が想像できる

先行きの予定を確認しようと思って年間行事予定を取り出しても、そこに自分とは直接関係のない、例えば他学年のイベントなどが混ざり込んでいては、大事な情報が紛れてしまいかねません。この意味では、前稿でご提案した「学年でカラムを分ける様式」が好適です。
また、大半の学校では年間行事予定表に行事の名称が並んでいるだけだったりしますが、行事名を見ただけでは「何をする場面なのか」生徒には想像がつかないことだって多いはずです。
何を目的としたどんな行事なのか、それを経験していない生徒でも一定のイメージが持てるような書き方が必要ではないでしょうか。
例えば、「職場体験」とか「学部別ガイダンス」「進路希望調査」などとだけ書かれているのでは、どこで何をするのか、全員が対象なのか、希望参加なのか、何か準備して臨めばよいのかさっぱりわかりません。
大きな行事なら事前に説明会が開催されることもあるでしょうが、そうでなければ直前に「指示」がなされるだけというのが普通でしょう。いちいち説明会を開いては行事が倍に増えるのと同じです。
言われるがままに集合して、話を聞いて、所定の用紙に記入するだけでは、行事に臨む態度として「待ち」に過ぎます。もっと積極的に関わらせるには、内容や目的までしっかり生徒が把握できる記述を伴った書面を用意する必要があります。
進路の手引きに詳しい説明があっても、生徒が該当ページを熟読してくれる保証はありません。それでは何も書かれていないのと一緒です。

❏ 摘要欄付き、学年別カラム様式

こうした問題を解決しようと、以下のようなフォーマットを導入している学校があります。学校全体での大枠の予定は行事の名称だけで簡素に済ませ、当該学年が対象となる行事には摘要欄を設けて、最小限必要な情報を付加しています。

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年間行事予定表は、行事行事をつなぐ関連性を意識するためのものでもあり、全体の流れをひとめで眺め渡せること(一覧性)も重要です。
あまり細かく書いても、却って大事なところがぼやけてしまいかねません。詳細は「進路の手引き」 の参照ページを表示してそちらに譲るのが好適です。生徒が「自分は何をするのか」を大まかに把握できる最小限の情報だけを添え書きする形で見やすさとのバランスを取りましょう。

❏ 各組織の指導計画の摺り合わせをする土台として

年間行事予定は、各分掌、各学年に加えて、教科や委員会などの様々な組織が主体となって企画した行事がその記述に組み込まれています。
共通リソースとしての「日程」の競合を避け、教育効果を最大化するのに適した行事の配列を実現するためにカレンダーベースで生徒の動き方を考えるという発想が、年間行事予定の起草に際して不可欠です。
カレンダーに行事予定を落とし込んでみると、それぞれの期間(月間、週間)でどのくらいの時間とエネルギーを生徒に求めることになるか見立てがつくはずです。
各組織が指導計画案をある程度まで具体化して作り上げたのちに、行事予定(カレンダー)作りの場で、組織間の調整を行った上で、自組織での指導計画を修正するという工程を踏む必要があるのではないでしょうか。ここでは優先順位の低いものを引っ込めるという選択もあります。
実際には、この工程をすっ飛ばしてしまい、生徒の側で様々な行事/指導機会に十分なレディネスを調えて臨めない、振り返りが十分にできないといった事態に陥っている学校が少なくありません。

❏ 行事に臨むレディネスを整える

ある学校では、毎月発行される進路通信に載せる「向こう3か月の行事予定」に、「先輩たちの参加レポート」がコラム扱いで添えられていました。好ましい気づき、次への行動などに触れたものを抜粋した上で、読みやすく編集されており、生徒は行事に対してより具体的なイメージを抱いて臨むことができそうです。
ちなみに、この抜粋と編集の仕事、広報委員会などの生徒にやらせてみてはいかがでしょうか。メッセージを編むという知的作業を経験できるとともに、チームでの仕事の進め方を学ばせる好機です。
別の学校では、拙稿「進路の手引きは冊子よりもファイリング形式で」でご紹介した方法を採り、冊子スタイルの進路の手引きを廃止し、最初の新入生オリエンテーションから最後の出願書類の提出まで、局面ごとのワークシート形式に切り替えていました。
如上の様式による「年間行事予定」をファイルの表紙に、各行事の前に配られるワークシートを兼ねた説明文書を生徒が自分で綴じ込んでいくというやり方です。全体を見渡せることと、目の前の課題にしっかり向き合うことを両立できるという点で好適な方法です。
ワークシートには、行事に臨む前に記入する箇所もあり、資料を読んで考えたことを言語化するというプロセスを通して、行事に臨む姿勢も違ったものになります。
実際のところ、生徒意識調査のデータで確認してみると、「先のことに照らして今やるべきことを考えられるようになった」と答える生徒が有意に増加していました。

❏ 振り返りを通し、行事での学びの最大化&定着

当然ながら、行事を終えたらきちんと振り返りを行わせる必要があります。ポートフォーリオの導入も進んできていますので、多くの学校では行事への参加毎にリフレクション・ログを残させることが習慣化していると思いますが、ただ書かせているだけでは上手な振り返りはできるようになりません。

ポートフォリオに残された好適な記述をクラスでシェアして、相互啓発に役立てることもご検討ください。(当然ながら、プライバシーの問題もありますので、情報は「匿名化」して扱う必要があります。)
他の生徒の気づきを自らに取り込むことで発想の拡充や思考の深化が期待できます。cf. 言語化を通じて育む「振り返りのための相対化スキル」
考察や内省が足りない生徒には、問い掛けで自覚を促しつつログの書き直しを指示するなどの指導も必要になりますが、年間行事予定を立案する際の調整が十分に機能していないと、そうした振り返りに十分な時間を投じる余裕も失われます。
きちんとレディネスを整えて行事に臨み、振り返りを通した学びを膨らませるには、行事の精選に加え、その配列も熟慮した年間予定の立案がとても大切、ということです。
その3に続く

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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