授業評価は多面的に

学習評価は多面的に行う必要があります。仮に成績が伸びていたとしても言われたことをただこなした結果であれば、先生が手を離した途端に学びを止めてしまうかもしれませんし、伸びている実感を欠いた生徒はその科目を学び続ける意欲を失いつつある可能性もあります。
正しい学びの場を創出できているか、授業を中心とする教科学習指導がきちんと成果をあげているかを知る上で、チェックすべきことがらは多岐に亘ります。以下はその中の一部に過ぎません。

  1. テストの結果に現れる学力[知識・技能+α]
  2. 科目への自己効力感(例:伸びている実感)
  3. 活動を通じた気づきの深さ、思考の広がり
  4. 好ましい学習者行動(例:学習方策、協働場面でのふるまい)

新しい学力観の下では、「問いを立てる力」「解法を考え出す力」「事物の多様な捉え方」「他者の理解・共感を得る表現の力」といった思考力、判断力、表現力の獲得がどれだけ進んだかの把握も必要です。
これら一つひとつについてきちんと測定の方法とその機会を整えないことには、様々な工夫を凝らし学習指導を個々の授業や指導計画のレベルで改善しようとしても、正しい方向に進んでいるのかすら確かめられないということです。
現在、多くの学校では2021年度以降に向けて、カリキュラムの作り直しや指導計画の抜本的な組み直しに取り組んでおられると思いますが、指導の計画や方法の検討と並行して、評価方法の再設計にもしっかり目を向ける必要があります。

❏ 結果学力の測定にも、従来型のテストだけでは…

学習した単元をきちんと理解し、必要な知識を蓄えたかはきちんとしたテストを用意すれば把握できますが、高大接続改革や新課程への移行を機に学力観が従来のパフォーマンスモデルからコンピテンシーモデルへと大きく転換する中で、従来通りの出題を続けていては、学力形成の様子を正しく把握できないことは言うまでもありません。
生徒はテスト問題に合わせて学習スタイルを作り上げて行きますので、定期考査も新しい学力観に沿ったものに転換しないと、学びの方向を誤らせるリスクを招いてしまいます。

前掲の、新しい学力観で求められるものについては、PBL(課題解決型学習)の要素を授業に採り入れて、それに生徒が取り組んだ時の成果と過程をもって評価することも必要になります。「プロセスに焦点を当てた問い」への答え方は評価の大きな手掛かりのひとつです。

❏ 生徒に訊いてみないとわからないことはアンケートで

科目を学ぶことへの自己効力感については、アンケートで「授業を受けて、学力の向上や自分の進歩を実感できるか」を訊くのが最も手っ取り早い方法の一つです。
冒頭でも書きましたが、実際の成績は伸びているのにこの質問に肯定的な回答を選ばない生徒もおり、そうした生徒は科目への興味・関心を持たない傾向にあることもデータで明らかになっています。
「話し合いなどの協働で、気づきや学びの深まりが得られるか」

「この科目の学び方や取り組み方が身についたと思うか」

「自分なりの課題や目的を持って日々の授業に臨んでいるか」
これらも、学力向上感と同様に、アンケートに答えてもらって確かめるのが好適な事柄でしょう。

集計結果を用いれば、校内の優良実践(=自校の生徒の特性にマッチした方法)の所在も特定できますので、そのノウハウを共有することでも指導の改善が進みます。

❏ 段階的に設けた到達目標に照らした行動評価

学びの場で正しい行動を取れているかには、先生方による観察に基づく、ルーブリックなどを利用した行動評価が必要です。
「授業の予習・復習を指示した通りにこなせるようになったか」

「その上に工夫を重ねて自分のスタイルを作れたか」

「わからないことに出くわしたときに自力でその解消が図れるか」

「協働で課題解決を図る場面で正しい振る舞いができているか」
こうした事柄は、やらせてみてその様子を観察する以外に把握のすべがありません。生徒自身に答えさせるアンケートと併用すると、指導者側の視点での評価と生徒の自己認識のずれも把握できるので、それまでの働きかけを見直す材料も得られます。
生徒に求める学習行動は、学年・学期が進めば段階的により高次元なものを目指すはずですので、段階的に到達を目指すべき状態(=評価の規準)を示しておき、その充足状況を把握することになります。
生徒にできるようになってほしいことなのに、現状でできていないことがあったら、できるようになるまで繰り返しトライする機会を用意しましょう。こちらが折れては生徒の成長はありません。
段階的評価規準に照らした自己評価を生徒に行わせれば、振り返りの好機となり、メタ認知の向上や学習者としてステップアップも期待できるはずです。



ポートフォリオに残されたリフレクション・ログなどを材料に、先生方が用意した学びの場が生徒にどのような成長をもたらしたかを評価する場面も増えてくるはずです。
自由記述のログから定量的な効果測定に使えるデータを作成するのは、現時点では大変ですが、好適な記述(=期待した成長を伺わせるもの)の出現頻度を数えるぐらいなら、それほど大きな手間にはならないでしょうし、将来的にはAIによる文章解析の技術も利用できるようになるかも知れませんね。
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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一