準備が整わないうちに選択を迫っていないか

進路形成は大小様々な選択の積み重ねであり、ある局面の選択によってその先に見える景色が違ってきます。もちろん、選択のやり直しはいつでも可能ですが、ある分岐点を右に曲がった場合、左に折れたら見えたはずの光景(≒興味や関心)に出会うチャンスは小さくなります。
選択の機会に臨ませるとき、拙速な結論を出させないよう、そこまでに踏むべき手順をきちんと踏んできたか確かめるべきだと思います。

❏ 進路探索の機会に、自分の理由を持って臨めているか

例えば、大学のオープンキャンパスに足を運ばせようと意図し、「大学訪問計画」を提出させるとしましょう。
既に何らかの学問や社会の課題に興味を持ち、大学でどんなことが学べるのか確かめてみたいと思っている生徒は、訪問先の大学を選ぶのに十分な「自分の理由」を持っています。
他方、上級学校に進んで学んでみたいことがイメージできないまま計画を提出する必要に迫られ、訪問先を選んでしまう生徒もいるはずです。
「とりあえず行ってみれば、何か面白いことが見つかるかも…」と考える生徒はまだましで、「訪問数のノルマがある/訪問レポートの提出義務がある」以外に理由を挙げれらない生徒もいます。
こんな状態で、訪問先を無理に選ばせると、家から近いとか、友達も行くからという”残念な理由”での訪問先選択になりがちです。

❏ ひとつ前のフェイズに立ち戻って進路探索のやり直し

そこで見聞きしたことを手掛かりに、進路探索の範囲を広げてくれれば問題はありませんが、生徒も多忙ですから、与えられた訪問数ノルマを果たしたらそれまでになってしまいがちです。
その先の選択は、自分が知っている範囲で行われますので、別の大学を訪ねれば知る機会があったはずのことは選択肢に入りません。
自分の興味や志向にマッチする「選ぶべき進路」が、除外された選択肢に含まれていることだってあるはずです。
大学を訪問させることよりも、大学に足を運んで何を調べ、何を確かめるのかじっくり考えさせることを優先すべきではないでしょうか。
訪問する大学が決まらない生徒を集めて、学部・学科調べや学問研究社会が取り組む課題を軸にした学科研究などに取り組ませる特別講座を用意した方が大きな成果を結ぶかもしれません。

❏ 機が熟していないのに選択を迫っていないか

面談指導を行うのに合わせて、進路調査票などを提出させることもありますが、用紙に何かを記入することでも、ひとつの分岐を超えたことになります。
文字面だけで何らかの学部や学科を「希望進路」として挙げてしまうことが、他の学問領域などにアンテナが向かなくなり、結果的に選択の幅を狭めてしまいかねません。
どのような調査、評価、思考のプロセスを経て、その学部・学科の名を挙げたのか、きちんと尋ねて確認し、選択に至る過程に不備・不足があれば、やり直しを促すべきだと思います。
履修科目の選択や出願書類の提出は先送りできませんが、その他の工程は期限をずらすことができます。
選択の機が熟しているかどうかの見極めは、指導者の大事な仕事です。

❏ 適性検査などの結果を返すときにも要注意

入学して間もなく、進路探索をろくに行わないうちに、職業適性検査の結果が返却されると、リストに上がった職業やおススメ学科しか視野に入らなくなる生徒がいます。
選択肢が与えられると、そこに正解があるという前提でしか物事を考えられなくなりがちです。
ましてや、生徒は成長の途上です。これからの過ごし方で、資質も志向も変わるのに、ある時点での調査への回答で、その後の選択肢を狭めては「いるべき場所」への道を隠してしまうことになりかねません。
いずれも生徒の進路意識形成を助けようとして行っていることなのに、不用意な使い方をすると副作用の方が大きく出てしまうことがあることを指導者側は知っておくべきではないでしょうか。

❏ 目標を決めさせることに指導者が焦っていないか

別稿でも疑問を呈しましたが、「目標が決まれば生徒は頑張るはず」と考えて、目標を見つけさせることに力を入れ過ぎていないでしょうか。
進路指導は、選択の力を養う貴重な機会です。
何かを選択できて、それが結果的に正解であったとしても、自力で何かを選びだす方法と姿勢を身につけていなかったとしたら、卒業後に困るのは生徒本人です。
進路先が決まれば教員としての職責の一つを果たしたことにはなりますが、主体性を持って物事を判断し、行動を選択する力を養うというもう一つの仕事を忘れてはいけません。
選択を急がせるのではなく、選択に至るプロセスを日々しっかりと踏ませていくことにこそ、力を入れて行くべきだと思います。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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