学ぶことへの自分の理由と負荷への耐性

教材や課題の難易度には、学力の伸びを最大化する「適正範囲」がありますが、生徒が「その科目を学ぶことへの自分の理由」を持っているかどうかで、適正範囲そのものが変化します。
授業評価アンケートにおける、

  • 自分なりの課題意識をもって授業に参加しているか
  • 教材・課題の難易度はあなたにとって、(難しい~易しい)
  • この授業を受けて学力や技能の向上を実感できるか

という3つの質問への回答を解析してみました。

❏ 目的意識を持つことで負荷耐性が高まる

以下のグラフ2つは、自分なりの課題意識をもって授業に参加していると答えた生徒(上段)と、それ以外の生徒(下段)とで、難易度と学力向上感の関係にどのような違いがあるかを調べてみた結果です。

クラスごとに算出した、「難易度の感じ方」(5段階で回答、難しい:+10、易しい:-10)の平均値を0.5刻みに階級化して、各階級における学習効果に関する評価の分布を四分位図で表示してあります。
グラフ内の◇が階級内の平均値を表しており、その近似曲線がグラフ中に描き込んだオレンジ色の曲線です。

❏ 学習効果の平均値の近似線の曲がり方に着目

平均値そのものにも大きな違いがあり、近似線が通る位置も上段グラフの方がはるかに高いのは当たり前ですが、ここでご注目いただきたいのは、近似線が折れ曲がる頂点(ピーク)の横軸上の位置です。
上段のグラフ(目的意識を持って授業に参加している生徒のデータ)では、近似線が最も高い位置を通るのは、難易度+2.5のあたりです。
これは「ちょうどよい(±0)」と「やや難しい(+5)が半々となる値に相当します。
一方、下段グラフでは、学習内容や課題の難易度が±0を超えて、少しプラスに振れた(=難しく感じた)だけで、近似線が大きく垂れ下がっていきます。
目的意識が曖昧である以上、「ちょうどよい難しさ」を超える負荷を感じた瞬間に、さらに努力を重ねることに生徒は意義を見出せなくなるのではないでしょうか。ギブアップも無理からぬことかと思います。

❏ しっかり負荷をかけて伸ばせるように

難易度や教材の量などでもそうですが、しっかり負荷をかけないと効果が出ないのは勉強もスポーツも同じだと思います。
右下がりの近似線を、下から押し上げ、そのピークを右側に持っていければ、しっかり負荷をかけられ、その分だけ生徒を伸ばせる可能性が高まります。
如上のデータに照らせば、そのカギは「その科目を学ぶことへの自分の理由、自分なりの課題意識」をいかに持たせるかにある、ということになるのではないでしょうか。

❏ 外圧で頑張らされるのは「他人の理由」

学ぶことへの自分の理由は、自然発生的に生徒の内に生まれるものではありませんが、進路希望の実現と結び付けた「外からの働きかけ」で作られるものだけでもないと思います。
拙稿、”カッコつきの“キャリア教育の充実!”に思うところ“でも書いた通り、「頑張りを引き出したいから将来の目標を作らせよう」という戦略には、どこか矛盾と無理があるように感じます。
さぼることができないように宿題と履行管理で縛るのも、外圧によるコントロール、つまりは自分以外が作った「他人の理由」であり、「自分なりの課題意識をもった授業参加」に繋がる期待は持てません。
むしろ、日々の学習において、課題解決に取り組ませる中で「深めるべき興味」や「解消すべき不明」を生徒自身が見つけられる状況を作ることにこそ、意識と力を注ぐべきではないでしょうか。
以下の記事も併せてご参照いただければ光栄です。

教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一

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