建学の精神や教育目標をきちんと伝える(後編)

建学の精神や学校の教育目的を生徒や保護者に正しく理解してもらうことがもたらす様々な効果は、昨日の記事に書いた通りです。しかしながら、それらを「言葉として掲げているだけ」で深く正しい理解が得られるはずもなく、相応の具体的な働き掛けを重ねて行く必要があります。

2018/01/10 公開の記事をアップデートしました。

❏ 場面に結び付けながら、ことあるごとに言及

目指しているものをしっかり伝え、深く理解してもらうには、何はさておき、「ことあるごとに言及する」ことが欠かせません。
しかしながら、建学の精神や教育目的をキャッチフレーズ/お題目のように繰り返すだけでは、記憶に刷り込むのが精一杯。真意を理解してもらい、その広がりを知ってもらうことには繋がっていかないはずです。
指導の機会ごとに、生徒に求める行動/身につけて欲しい行動や姿勢を建学の精神や教育目的と結び付けて伝え続けることが大切です。
理念をより深く理解させるのと同時に「その理解を生きて働かせる場」を学校生活の中に見出させてこそ、その価値も活きるというものです。
教育目的と関連づけながら個々の場面での行動や目標に言及することを先生方の側で習慣化すれば、自ずと両者の整合性も高まります。
指導者としての自分の言動の中に「矛盾」が見つかれば、それを解消しなければと思うはず。如上の習慣を持つことは、指導のブレをなくしていくにも有用だと思います。
日々の教育活動に、誤解や曲解を生む「ノイズ」となり得る矛盾を取り除いていけば、生徒の側でも、先生が指導に込めた意図を正しく理解してくれるようになるはずです。

❏ 具体的な行動に書き出して、生徒にも自己評価させる

生活、学習、進路などの各領域における「指導目標」も、本来は、建学の精神や教育目的の下で設定されるべきでしょうが、時期ごとに細目化する中で、上位の理念と切り離されてしまいがちではないでしょうか。
個々の指導場面における「生徒に期待する行動/目指すべき到達状態」を書き出すときも、可能な限り、建学の精神や教育目的と関連付ける(典拠を持たせる)ことを意識したいところです。
書き出したものを目の前におけば、それらが生徒に対する期待/要求として妥当なものか、校是とするところとの整合性はあるかの点検も、より具体的に行えるようになろうかと思います。
出来上がったものは「評価基準」そのものです。生徒には、チェックリストとして手元に持たせ、定期的にそれに照らした自己点検(評価)を行わせるのが好適です。
目標状態を満たせていればA評価、目標に近づいているが不足が残ればB評価、目標にほど遠いのがC評価といった具合に、シンプルに採点させた上で、なぜその評価にしたのか考えさせ、言語化させましょう。
どんな行動や成果を根拠にA評価としたか、どこに不足があると考えてB/C評価にしたかに加え、もう一段階上の評価に到達するには何が必要かを考えさせ、その結果を言語化させることで、メタ認知の向上と同時に、建学の精神などの理解にも深化が期待できます。
生徒の自評とその理由を読めば、その生徒の頭の中も「覗き込む」ことができるはず。今どんな声掛けが必要かの判断も容易になります。

❏ 教職員の目線はきちんと合わせられているか

建学の精神や教育目標を深く理解することの重要性は、先生方ご自身についても言えることだと思います。
学校評価アンケートで「教職員による自己評価」のデータを見ると、教育目標や指導方針への理解に教員間の差が小さい(回答分布が収束している)学校もあれば、思い入れの強い先生と無関心(?)な先生が混在し、驚くほどデータのバラツキがみられる学校も少なくありません。
また、様々な評価項目の中には、全面的に肯定する先生と否定的に捉えている先生が二極化しているものが見つかることがありますが、同じもの(校内の様子)を見ていながら、評価が散らばるということは、「評価の基準(=目指すべき到達状態)」そのものが共有されていないのではないでしょうか。
それぞれの立場や考え方で、指導の目標に方向性や要求水準の違いが生じているのを放置しては、指導に一貫性が保てません。「先生によって言うことが違う」といった印象を生徒は抱くかもしれません。
ある先生方の一団が「改善課題あり」との認識でいるところを、他の先生方が「問題なし」と感じていたら、問題の解決や指導の改善に向けた協働(組織的な取り組み)はスタートも難しくなりそうです。
分掌、学年、教科といった各組織の指導目標は、学校の教育目的を達成するためのものですから、定期的に建学の精神や教育目的に立ち戻り、組織目標や評価基準を見直す必要があろうかと存じます。

❏ 生徒や保護者との間で価値を共有できているか

先生方が肯定的に評価している教育活動や校内の状態でも、生徒や保護者は必ずしも同じ評価をしているとは限りません。
ものごとへの評価は、評価者が抱く価値観/考え方に照らして行われますので、評価結果が違うのは、価値が共有されていないということ。
同じ基準で評価してもらえない(=違うモノサシを当てられる)のでは頑張りも正当に評価されず、がっかりな結果が待っています。
生徒との間では、前述のように建学の精神や校是の理解を深めていく指導を通して、目指しているものを共有していくこともできますが、保護者との間では同じアプローチは難しそうです。
広報を通じて、学校が目指しているもの/取り組んでいることをきちんと理解してもらうように働きかけていくしかありません。
学校通信やホームページの保護者向けページ、懇談会や保護者会など、限られたチャンネルを十分に活用できているでしょうか。
生徒が入学してから改めて価値の共有を図るにも、上手くいくのはある程度同じ方向を見ていた場合に限られるかも。学校を選んでもらう前に学校の意図をきちんと伝え、理解と共感を得ておくことが大切です。
生徒募集活動では、学校が重きを置いている価値(建学の精神や教育理念)をきちんと打ち出しましょう。当然ながら、そこで生徒や保護者と交わした「約束」は卒業させるまできちんと守らなければなりません。
■関連記事:生徒募集を通じて入学前の生徒と交わした約束

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教育実践研究オフィスF 代表 鍋島史一